□四月二十二日(火)


 朝のまどろみのなか、どういう了見か妹が自らのパンツを見せながら――パンチラどころかパンモロで見せ付けながら、中々起きないぼくをぷんぷん怒り踏んづけては飛び跳ねを繰り返し、だんだん楽しくなってきたのか笑い出してむしろ

まだ起きないで

などと命令してきて、調子に乗ったしっぺ返しとして足を滑らせぼくの下腹部にお尻から落ちたら、激しい運動のためか両者のパンツがずれていてぼくの朝の生理現象のあれが妹のパンツ内に突っ込んでしまって、でも

いっか、お兄ちゃんだし

なんて呟きながら妹の腰がゆっくり動き始めたところで目が覚めた。

 ……あー、妹なんていなくてよかった。
 ぼくは父と二人暮らしなのだけれど、母も健在で、ぼくの名前の雄二から察せられるように兄がいる。
 離婚はしていないのでいわゆる別居中だ。同県内に住んでおり会おうと思えばいくらでも会えるものの、その機会はなさそうだった。何も両親の仲が悪いわけじゃない。まあいろいろある。例えば子供絡みのこととか。
 一応断っておくけど、ぼくが親に勘当されている的なことはない。そもそもいわゆる勘当なんて制度は現代日本にないからね。ほんとにやったらただの育児放棄で捕まる。
 もそもそと起きて、一人で朝食をとる。
 一人の朝食は、楽しい。いや別段楽しいわけではないけれど、一人というのはいいものだ。時々ぼくは一人でご飯を食べているとそう思う。
 だいたい高校生にとって家に他の家族がいないというのは、例えば友達を家に呼びやすくて夜中まで遊べて、ちょっとした楽園なのではないだろうか。
 ぼく友達いないけど。



 まだ四月、桜の季節とはいえ、外に出ると寒くて身震いしてしまう。ぼくは始業時間よりかなり早く学校へ行くので、登校時刻には早朝ランニングする人くらいしか人とすれ違わない。交通量もピークよりは随分少なく、静かな朝だ。
 それにしても昨日の出来事は何だったのだろうか。歩きながら考えてしまう。
 百目鬼真紅さんの幼児化現象。今でも

真紅

おにいちゃん

の声が耳にこびり付いていて多幸感が……じゃなくて。いや嘘ではないんだけれども。
 ぼくにロリコンの気はないはずで、昨日のもあくまで百目鬼さんだからというわけで、ロリコンではなくて、そういえば子供的な可愛さがあっても幼過ぎる子供は分別が付いていないから相当厄介だ。暴力の線引きが確立していないものだから時々洒落にならないことをしてくる。具体的には笑いながら目とか急所を狙ってくる。無邪気だからって何でも許していたら死人が出るよ。そういう危険のない、ただ可愛さだけがあるのが、昨日の百目鬼さんであり……。
 などと益体もないことを考えている間に、駅まで到着した。

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