見回りの教師に教室を追い出された帰り道。母に捕まった。

持つべきものは息子ってね

荷物持ってるのは俺だけどね


買い物の帰りだったらしい。俺を見つけたのを良いことに荷物の半分を押し付けた。

見た目の量的には半分だけど、重いのばかり押し付けられたため重さ的には荷物の八割が俺の手にある。

でもホント助かったわ。夏月の帰りが遅かったおかげね。
ところで沙希ちゃんを先に帰したってことは、他の娘の靴箱にラブレターでも仕込んできたの?

発想が古臭い

地味に傷付くから古臭いなんて言わないで

耳を塞いでも現実は変わらないぞ

口を塞がないと夕飯が消えるわよ


真顔だ。本気だよこの人。

だけどこうして話してるだけで自分がこの母に心配されていると自覚する。さっきの谷口の話で言えば、
俺が麻薬を使えばきっと沙希だけでなく母も悲しむのだ。もしかしたら沙希以上に。

母さんにも若い頃ってあったんだな

そりゃあね。携帯もメールもない時代を育ちましたが何か?

根に持つなよめんどくさいな

私も夏月の夕飯作るのめんどくさい


膨れ面でそんなことを言う。尋ねようとしたことを忘れそうになるからやめて欲しい。真剣に訊いてみたくなったのに。

ため息をついて、仕切りなおしてから尋ねる。

その頃から母親になろうと思ってた?

えっと……覚えてないけれど。どうして?

別に


探るような目に出会う。思えば不思議だ。俺は生まれた時からこの視線に晒されてきた。きっと誰より母は俺のことを知っている。

血がつながっている以上に、同じ時間を過ごしてきたことが絆を保証する。だけど。

思い出した。確か、何も考えてなかったわ

夏月くらいの年の時、私は将来のことなんて何も考えずに日々生きてたわ

今と変わらないんだな

……否定出来ないわね


苦笑い。

こんなにも違っている。俺は世界で一番近い人と違う。そして母はきっと俺の苦しみや痛みを理解できない。

そんなことは当たり前だ。だけど俺をこんなにも悲しくさせる。この人に『俺』が見えないなら、この世界で『俺』を見つけられる人はきっと一人もいないだろうから。

だからあんまり将来のことで悩んだりしちゃダメよ

……うん


それでも嬉しいんだ。一緒にいてくれることが。隣で微笑んでくれることが。だから俺はどうしようもなく何処にも行けなくなる。

あ、でも学生の間くらい、避妊はしなさいね

……最低だな


息苦しい。

結びつけてた糸、解けて 9/6 mon

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