【墓地】
【墓地】
ペオルとミディアンとヨブは王家の遺跡から脱出して、途中にある墓地にたどり着いていた。
そこで走りながらミディアンは遺跡で手に入れた情報をペオルに説明した。
この国に蔓延している病は疫病なんかじゃありません。実験が失敗して拡散したものです。
実験だぁ?
ミディアンは遺跡で手に入れた資料をペオルに渡した。ペオルはそれを見ると、得体のしれない怪物の姿が描かれていた。
なにこれ?
なんでも超生命体を造る実験だったみたいです。
超生命体!? なにそれ!? 凄く強そう!
詳しくはよくわからなかったのですが、その初期の超生命体が失敗したらしくて、そこから漏れだした魔素が原因で今の疫病が発生したみたいです
疫病……教会の特務部隊……天使……実験場……超生命体……
これらの言葉がペオルに一つの結論を導き出した。
そういうことか…遺跡で会ったあの天使、あいつが指示を出していた。つまり天使がこの国に疫病をもたらした元凶か。その超生命体とやらのわけのわからんモノを作り出すために、この国は天使に実験場にされたわけか…
おそらく、それが真実かと…
ペオルとミディアンは顔を苦くした。聖教会や世界中の人々が崇めている天使の実態が、とんでもないものだと知ったのと、それを守護する教会に何年も働いてきたと思うと反吐が出る。
結局俺らが信じこまされていた神様は、偶像だったとはね。そんなこったろうと思ってたよ
さっきから何の話してんだ?
ヨブはよくわからず聞いてきた。ペオルはヨブに言った。
神様はこの世界にいないって証明された話さ。
墓地の中を走っていると、殺気を感じたペオルが止まった。
待て!
ミディアンとヨブを制して、辺りを見る。
回りには墓しかない。
そんな墓の裏からぞろぞろと特務隊の連中が現れた。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
ひえええ!?
待ち伏せしてやがったか!
数は5人か、
まずいな…時間をかければどんどん集まってきやがるな。
長引かせれば長引かせるほど追っ手が集まってくる! 全部殺せ!
簡単に言わないでくださいよ!
ペオルとミディアンは剣を抜き特務隊との戦闘に入った。
ガキンチョ! お前は走って逃げろ!
おっさん達はどうすんだよ! 俺も助太刀するぜ
威勢は買うが俺らのことはいいから行け!
でもよ...
わかんねぇのか! 邪魔だって言ってんだよ!
ぐっ...
ペオルの顔は真剣そのもので、ヨブは自分が足手まといにしかならないと察して、悔しがりながら走って逃げた。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
それを逃すまいと特務隊二人組がヨブを追おうとペオル達に背を向ける。
それがよくなかった。
ペオルとミディアンはすかさず、ヨブを追おうとした二人組を背後から斬り捨てた。
ぐっ!?
がぁ!?
隊長も人が悪いですね。ヨブ君にあんなこと言って実は囮にしたでしょ?
当たり前だろ。おかげで残りが三人だ。そういうお前こそ、いの一番に斬りかかってたじゃねえか
正攻法じゃ勝てませんからね。先程の戦いで学習しましたから
一気に二人蹴散らし、残った三人の特務隊はペオル達に向き直る。
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・・・・・・・・
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三人の特務隊がペオル達ににじり寄る。
はぁ、あと三人もいますよ・・・こいつは不利ですね隊長。
俺が一人を殺る。残りはミディアンに任せた!
ちょっ! ちょっと待って下さいよ! そこは普通逆じゃないですか!?
さて、気張ってやるとしますかミディアン君!
あんた最低だなッ!?
残りの三人の特務隊が襲いかかってきた。
一人はペオルに向かい、残りの二人はミディアンに来た。
ぎゃあああああ! タンマ! タンマ!
・・・・・・・・
・・・・・・・・
ミディアンは走って逃げた。それをハンターが獲物を追うように特務隊二人は追いかける。
一方、ペオルは特務隊の一人と剣撃を撃ち合い、火花を散らせていた。
ぬぐぐぐぐぐ!!!
・・・・・・・・
なんつー身のこなしだよ! 特務隊の連中はみんなこうなのか!?
ペオルは苦戦していた。実力は悔しいが向こうの方が上、流石は全国の教会騎士団から選出されたエリートだ。
だが、こちとらこんなとこで殺されるわけにはいかないんだよ!
ペオルは力任せに鍔迫り合いから強引に押し返す。
しかしその反動を利用した特務隊の戦闘員は退き様にペオルに蹴りを入れる。
ぐあっ!?
ペオルは地面に倒れた。特務隊はすぐに態勢を戻し寝転んだペオルに襲いかかる。
・・・・・・・・
こんクソが!
!?
ペオルは迫る特務隊の兵士に、地面の土くれを顔面に投げつけた。それは特務隊員のフルフェイスの兜につく。
特務隊員はすぐに土くれを払う。
しかしそこにはペオルの姿がなかった。
特務隊員は周囲を見渡して警戒態勢に入った。
周りは墓石しかない。身を隠くすには絶好調の場所だ。相手は奇襲を狙っているはず、ならば下手に動かず出方を伺ったほうがいい。
・・・・・・・・
そう思っている特務隊員は神経を集中させながらその場に留まった。
一方その頃
ほんとしつこいですね
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・・・・・・・・
ミディアンの方は、変わらず特務隊員二人に追いかけられていた。こう見えてミディアンは足が速く特務隊相手でも中々捕まらずにいた。
そろそろかな?
ミディアンは待っていた。そう、時間稼ぎをしていた。ミディアンを追いかける特務隊の後ろから何者かが飛び込んできた。
うおりゃあああ!
!?
ペオルである。
ペオルは後ろからいきなり現れて一人の特務隊員を背後から斬り捨てた。
ペオルの不意打ちに気づいたもう一人はすかさず方向転換し、ペオルに襲いかかろうとするが・・・
貴方の相手は僕ですよ。
!?
逃げていたはずのミディアンが戻ってきて、特務隊員の背中から心臓を貫いた。特務隊員はそのまま絶命する。
これはペオルの部隊の十八番の戦術。
複数の強敵相手には一人が囮となって逃げて、もう一人が囮を追いかけている敵の背後を討つ。背後から奇襲を受けた敵は迎え撃とうと振り向くので、囮は翻し背後から討つ。挟み撃ちの戦法だった。
この戦法を考案したのはペオルであり、本来敵を背後から斬るというのは、騎士団からしてみれば騎士道精神に反しているが、ペオルの隊の人間にはこれっぽっちもそんな高貴な精神を宿してなんかいない。だから卑怯な戦法はいくつもあった。
現場の騎士を舐めんなよ!
ペオルは特務隊の死体相手に怒鳴りつける。
そこへ先程最初にペオルと戦っていた特務隊員が走ってやってきた。騙されたことに気づいてか、相手はカンカンに怒っている。特務隊員は吹き矢を構えた。
・・・・・・・
毒針に気をつけてください!
わーってるよ!
吹き矢から毒針がペオル達目掛け飛んでくる。
ペオルとミディアンは近くにあった墓石の裏に隠れて毒針を防いだ。
一発でも食らえばアウト・・・さて、どうやってあいつに近づくか
どうします隊長、このままここで足止めくらっていたら敵の増援が来ちゃいますよ
よし! ミディアンお前が囮になれ!
え―――!? またですか! いやですよ、次は隊長がやって下さいよ!
俺が足遅いの知ってんだろ? こういう走る仕事はおっさんより若者の役目だ。
まったくもう…しょうがないですね!
ミディアンは隠れていた墓石から飛び出した。特務隊はそれを見て吹き矢を飛ばす。
ミディアンは他の墓石の後ろに上手く隠れながら吹き矢防いでいく。
は、早くしてくださいよ隊長!
わかっとるがな!
ヌオオオオオオ!
ペオルは盾にしている墓石を前面に持ち上げて特務隊に突っ込んだ。
接近してくるペオルに気づいた特務隊が吹き矢を墓石を担いだペオル飛ばすが、矢は墓石に防がれる。
それを見て慌てる特務隊にペオルは持っていた墓石を投げつけた。
食らいやがれッ!
ぐがっ!!!
投げた墓石が特務隊に直撃し、特務隊は墓石の下敷きになる。
ぎゃあああああああ!!!
身動きが取れなくなったところをペオルが墓石の上に飛び乗って剣で特務隊の首をかっ切った。
お墓を投げるなんて罰当たりなことをしますね
俺らは信心深い教会の人間だ。きっと神様も許してくれるさ
なんとか片付けるとペオルとミディアンは息をついた。
これで全部みたいだな
そうみたいですね
命懸けの殺し合いでどっと疲れていた。
はぁ、なんにせよ、増援が来る前にさっさとここから離れるか
そうで…!? あぶない隊長!
がっ・・・・・はっ・・・・
ミディアンはペオルを押し飛ばした。
そしてミディアンの首に矢が貫通する。
隊…ちょう…
ミディアン!
殺したと思っていた特務隊の一人が死体のふりをしてボウガンを放っていたのだ。
てめぇ!
・・・・・・・
怒り狂ったペオルはミディアンを射ぬいた特務隊をその場で斬り捨てた。
ペオルはすぐにミディアンを介抱する。
ミディアン! しっかりしろ! おい!ミディアン!
た、隊長...すみません...ヘタこきました...
ミディアンは苦しそうに答えている。
も...う...自分は...ダメです......自分を置いて逃げて...くだ...さい
ミディアン...
ミディアンの言うとおりだった。
首に貫通した矢から大量の血が流れていた。
これはもう助からない。
ペオルは悔しげに顔を背けた。
くそっ! ちきしょう! しっかりしろ!
た、隊長...今までお世話に...なりま...した
馬鹿野郎! 変なこと口走ってんじゃねえ!
ペオルはミディアンの肩を担ぎあげた。
ミディアンはそれに驚いた。
た、たいちょ・・・う?
死なせはしねぇ!!!
絶対死なせはしねぇぞ!!!俺たちは絶対生きて帰るんだ!!!
ミディアンの肩を担いでペオルは歩きだす。
ペオルは決して諦めなかった。
いたぞ! 奴等だ!
逃がすか!追え!
チッ!もう着やがった!走るぞミディアン!
がはっ・・・・
再び特務隊の追撃がやってくる。
ペオルはミディアンを担ぎながら必死に走り出した。