【王族の遺跡内部】

ペオル=ゴール

おいおい、こいつは・・・驚いた

ミディアン

なんですかここ・・・


 以前来たときとは様子がガラリと変わっていた。
王族の墓があった場所には見たことない機械仕掛けの装置が置かれてたりと、至るところで古くからある石像も破壊され、様変わりしていた。

ミディアン

なんですかこのガラスに入った物は・・・

ヒト一人分入れるくらいのガラスの筒の中に緑色の液体が入っている。
ミディアンはそれをまじまじ見ると、その中には脳や、内臓、解剖された人間が入っていた。

ミディアン

うっぷ…

 ミディアンはその光景に気持ち悪くなる。

ペオル=ゴール

うわぁ・・・グロッ・・・

その時、人の気配を感じたペオルは、ミディアンに言った。

ペオル=ゴール

静かに、誰かいる隠れろ

ペオルとミディアンは急いで培養カプセルの隙間に隠れる。



しばらくして二人組の人間がやってきた。
一人は特務隊の兵士と、もう一人は白衣を着て眼鏡をかけた知的そうな顔立ちをした男だ。
彼らは歩きながら話をしていた。

白衣の天使

被験体006の状態はどうかね?

特務隊

ハッ! 現在独房の中に収容しております

白衣の天使

人間が疫病と呼んでる・・・えーとあれは確か・・・

特務隊

黒死病ですか?

白衣の天使

そう、それです。あの細菌兵器の抗体を持った珍しい実験サンプルです。決して目を離して逃げられることないように。もしものときは…わかってますね?

 特務隊に対してあの白衣の眼鏡男はずいぶん偉そうな口調だ。


それもそのはず、あの男…人間ではなかった。
そう、あれは…

ミディアン

あの男、背中に羽が生えてる…まさか、天使様?

ペオル=ゴール

そのまさかみたいだな。実在してるって聞いてはいたが、俺も初めて見た。

 眼鏡をかけた知的そうな男は天使だった。白衣の天使と兵士はペオル達に気づかず、そのままどこかへ行ってしまった。


完全に気配が消えたことを確認すると二人はカプセルの陰からでた。

ペオル=ゴール

あいつ、今黒死病を細菌兵器とか言ってなかったか?

ミディアン

ええ確かにあの天使がいってましたね。

ペオル=ゴール

こりゃあいよいよもってキナ臭くなってきたな。今俺らの国に蔓延してる疫病の正体がわかるかもしれねぇ

ミディアン

まさか隊長、黒死病が人為的に行われたものだと?

ペオル=ゴール

まだわからんが、ここに長居するのは良くなさそうだ。

なんだか嫌な予感がしやがる。

ミディアン

ズラかりますか!

ペオル=ゴール

いや、まだだ


 ヤバそうなここの雰囲気にミディアンは正直ビビっていて早く逃げ出したかったが、ペオルはヤバそうな場所だからこそ、捕らわれているであろうヨブのことが気掛かりだった。

ペオル=ゴール

あのガキを助けてやんねえとな。ここは思いっきりクロだ。あのガキがどんなことされるかわかったもんじゃねえ連れ出す。

ミディアン

それはまずいですよ! ここはかなりヤバそうです。我々だけでは手に余ります。一旦本部に戻り上層部の応援を呼びましょう!

ペオル=ゴール

無駄だと思うぜ。多分上層部も一枚噛んでる。

ミディアン

特務隊・・・ですか

特務隊の所属は聖教会だ。それが動いてるとなると、これは聖教会の指示、しかもかなり上からの指示だろう。俺ら末端が上層部に報告したところで揉み消され、それどころか俺らの命も狙われるだろう。
どうやらガキを追ってきたら、とんでもない陰謀に巻き込まれちまったな・・・・・・

ペオル=ゴール

正直ここはやばい。だが俺はここでやることがある。

これ以上俺の我儘でこいつを巻き込めないしな。

ペオル=ゴール

お前だけでも先に戻れ。これは俺の責任だ。今ならまだ戻れる。

ミディアン

隊長・・・全く貴方って人は

 ミディアンはため息をつきながら小さく笑った。

ミディアン

いつも面倒くさがり屋で、お金にだらしなくて、ズボラで、酒癖悪くて、女のけつばかり追っかけて、不潔で、時々変な臭いするし、みんなから馬鹿にされて、隊長の癖に頼りなくて

ペオル=ゴール

お前それ言い過ぎだから! 心にズバズバきたよ!

ミディアン

でも、本当はお節介焼きでめんどくさいと言いながら面倒見がすごくいい、自分の尊敬する上官です。


 なんか照れ臭いな。やめれ

ペオル=ゴール

な、なんだよ、いきなり

ミディアン

昔、戦争で孤児になった自分を拾ってくれたのは隊長でした。あんな子供放っておけばいいものを今では士官にまで取り立ててくれた、本当馬鹿がつくほどのお人好しですね

ペオル=ゴール

うるせえやい

ミディアン

さて、今回もお人好しで子供を助けに行きますか

ペオルは思わず笑ってしまった。ほんと気持ちがいいくらいのバカヤロウに育ちやがって

ペオル=ゴール

かーーーめんどくせえ! 憎まれ口は相変わらずのクソガキだなてめぇは!

ミディアン

ははは、久し振りにその呼び名で言われましたよ。そうです。自分はいつまで経ってもクソガキですから

 互いに長い付き合いだ。
だからペオルとミディアンは互いの考えもよく知っていた。こうなりゃ一蓮托生でいくか。

ペオル=ゴール

わかったよ。俺の負けだ。一緒にガキを助けるぞ。

ミディアン

もとよりそのつもりでしたけど?

ペオル=ゴール

とりあえず二手に別れるか。そっちのほうが探せるだろう。

ミディアン

そうですね。あと自分はこの遺跡で行われていることを少し調査したいと思います。何かわかるかもしれません。

ペオル=ゴール

そうか、死ぬなよ

ミディアン

隊長こそ

二人は一旦別れペオルはヨブを探しにいった。

 

慎重に遺跡内を進んでいくペオル。
以前、ここで働いていたのが役に立ち。
いりくんだ道にも迷うことはなく、独房となる場所となれば何処なのか大方予想もついていた。


たどり着いた場所は王族の霊安室だった。
中には案の定ヨブがいた。

ペオル=ゴール

ようガキンチョ!

ヨブ

おっさん、どうしてここに!?

ペオル=ゴール

下がってろ

 この錠の外しかたはわかる。
よく暇潰しに遊んでたからな。
ペオルは手慣れた様子で鉄格子を開けた。

ペオル=ゴール

よう、クソガキまた泣いてなかったか?

ヨブ

泣いてねぇよ!!!

ペオル=ゴール

馬鹿!大声出すな!見つかんだろ!

ヨブ

こんなとこまできたのかよ

ペオル=ゴール

まぁな、おかげで骨が折れたぜ

ヨブ

なんで、俺なんかのためにこんな危険犯して・・・

ペオル=ゴール

騎士になりたいんだろ?

ヨブ

えっ・・・

ペオル=ゴール

隊長の俺自らがヘッドハンティングしたんだ。今更逃げられると思うなよ。

ヨブはペオルの言葉に涙が溢れそうになった。
正直、いきなり知らない集団に連れてこられて心細かった。だが目の前にいる騎士は俺を助けに来てくれた。それがヨブには堪らなく嬉しかった。

ペオル=ゴール

話は後だ。さっさとここをズラかるぞ

ヨブ

あ、ああ

ペオルはヨブを連れて来た道を戻った。








ミディアン

たいちょーう!

来た道を戻る途中、別れたはずのミディアンとちょうど合流した。

ペオル=ゴール

なんだよ生きてたのかよ

ミディアン

生きてますよそりゃあもうピンピンに

まぁ、そう簡単にくたばる玉じゃねえな

ミディアン

その子がヨブ君ですか?

ペオル=ゴール

ああ、なんとか見つけてきた

ヨブ

この人は?

ペオル=ゴール

うちの口うるさい副官だよ。

ミディアン

初めましてヨブ君、私が口うるさい副官のミディアン!よろしくね

爽やかな微笑みを見せるミディアンに、ヨブは見惚れた。

ヨブ

かっこいい・・・まさに騎士の理想を体現した人だ

ヨブ

それに比べて・・・

ヨブは隣のペオルをチラ見する。

ペオル=ゴール

なんだよガキンチョ

ヨブ

フッ・・・

ペオル=ゴール

何その鼻笑いは!お前なんか失礼なこと思っただろ!!!

ミディアン

ははは、やっぱこのおじさん騎士っぽくないよね!

ペオル=ゴール

このクソガキ共・・・

ペオル=ゴール

ところでさっきからお前が持ってる紙はなんだ?

ミディアンは手に資料を持っていた。
おそらくここで手に入れたのだろう。
ミディアンはそれを思い出して興奮気味に話した。

ミディアン

そうです!とんでもないことがわかったんですよ!

ペオル=ゴール

わかったわかった。その話はここから逃げた後でゆっくり聞いてや・・・あぶねぇ!!!

その時、角を曲がろうとしたら短刀を持った人物にいきなり襲われた。

ミディアン

な、なんだ!?

 ギリギリで避けると、その人物は黒いフルフェイスを被っていた。

特務隊

・・・・・・・・・

ペオル=ゴール

チッ、特務隊か!

ミディアン

ヨブ君は下がってて!

ヨブ

は、はい!!!

ペオルとミディアンはすかさず剣を抜いて構える。

特務隊

・・・・・・・・・

特務部隊の兵士が素早い動きで縦横無尽に駆け回り翻弄する。
正面からではなく背後に回るように動いてミディアンに斬りかかる。

ミディアン

は、はやッ・・・!?

ペオル=ゴール

あぶね!

間一髪のとこでペオルが間に入る。
ペオルは剣を振り払うが、それをバックステップで避ける特務隊。二人がかりなのに怯むことなく襲いかかってくる。

特務隊

・・・・・・・・・

ペオル=ゴール

おりゃぁぁぁぁ!!!

ミディアン

てやぁぁぁぁ!!!

ミディアン

こいつちょこまかと!?

 二人で斬りかかるも、紙一重で躱される。

特務隊

・・・・・・・・・

ペオル=ゴール

ぐふっ!?

 避けた時にペオルは脇腹に蹴りを入れられた。

ペオル=ゴール

なんつー重い蹴りだ。体術も一流だ。

 腹を押さえているとミディアンがすかさず、援護に入る。

 しかし、それも難なく避けられた。

ミディアン

大丈夫ですか隊長!

ペオル=ゴール

わりい油断した

特務隊

・・・・・・・・・

 特務隊は余裕な態度で二人を見ている。

ペオル=ゴール

舐めやがって

ペオルは飛びかかる勢いで特務隊に迫った。
身構える特務隊。
その時、特務隊の兵士の態勢が崩れた。
ヨブが特務隊の足にしがみついたのだ。

特務隊

!?

ヨブ

こんくそ!


元々ヨブを子供と思い戦闘対象外と見ていたのが油断だった。

ペオル=ゴール

でかしたヨブ!

特務隊

・・・・・・・

 そのままペオルは斬る態勢に入ると、
慌てた特務隊はマスク越しからヨブ目掛けて針を吹いた。

ヨブ

イテッ!?

 針はヨブの手に刺さり、足から手を離した。しかし反応が遅れた特務隊の兵士はペオルに斬り抜かれた。

特務隊

グハ!

 特務隊は小さく呻くと絶命した。
ペオルとミディアンは息を切らせる。

ペオル=ゴール

はぁ…はぁ…はぁ…

ミディアン

ぜぇぜぇ…なんなんですか、こいつら

ペオル=ゴール

はぁ…はぁ…これが特務部隊だ。要人暗殺に長けた人殺し専門の殺人集団だ

 特務隊の死体を見ながら、このレベルの手練れがまだまだ他にもいると思うとゾッとした。

ミディアン

隊長見てくださいコレ…

 ミディアンに言われて見ると、特務隊が倒れたときに散らばったのだろう。無数の針が落ちていた。

ペオル=ゴール

ん? これがどうかしたか?

 ペオルは針に触れようと手を伸ばした瞬間、ミディアンは慌ててペオルの裾を引っ張った。

ミディアン

さ、触っちゃ駄目です! 毒ですよ!

ペオル=ゴール

へっ?

 ミディアンに言われて針をよく見ると薄い煙が上がっていた。

ミディアン

空気中に触れると気化するみたいですね。おそらく身体の中の血液と混ざる毒でしょう。多分、一刺しで死に至る猛毒でしょうね。

 あ、あぶねぇ…迂闊に触って指でも切ってたら死んでたとこだった。ん? 待てよ…


ふと思い出して慌ててヨブの方に振り向く。

ペオル=ゴール

あっ、そうだ!? ヨブ無事か!

ヨブ

え? 俺は無事だけど

 先程、手を針で刺されたはずのヨブは不思議そうにしていた。

ペオル=ゴール

お、お前…どこか苦しくないのか?

ヨブ

全然!

 ヨブは元気そうに答えた。まるで毒なんてないように。

ペオル=ゴール

なんでだ?

 ペオルは首をかしげていると、ミディアンは考え込んでから一つの仮定をあげた。

ミディアン

もしかしたら例の!あの天使が言ってた抗体のことじゃないですか!きっとヨブ君には生まれもった特別な抗体があって毒が効かない体質なんですよ!

ペオル=ゴール

特別な抗体? この小汚えガキが?

ペオル=ゴール

いって! だから噛みつくな!?

ヨブ

がるるるるる!

ミディアン

おそらく……いや、今はそんなことより早くここから出ましょう。話の続きは走りながらします。

 ペオルは手をヒリヒリさせながらミディアンに賛成した。

ペオル=ゴール

そうだな。またこんなヤベェ奴等と戦いたくねえ、追っ手が来る前に逃げんぞ。

 ペオルはヨブを連れて、ミディアンと共に遺跡から脱出した。


白衣の天使

被験体が逃げただと?

特務隊

申し訳ありません、すぐに捜索部隊を編成し…

白衣の天使

僕は言いましたよね? もしものときは…って

 そう言った瞬間、天使は何かを唱えた。
すると特務部隊長が突然苦しみだし、その身体が膨れ上がり・・・



特務隊

ぐっ・・・ぐげげげげgsjf、ml!?

 


バシャッ!と音を立てて破裂した。他の特務隊員達は仲間のひとりが目の前で肉塊になり怯える。

特務隊

ひい!?

白衣の天使

さてと…なにボサッとしてるんです? 早く連れ戻しに行きなさい。貴方もこうなりたいですか?

 特務部隊は急いで脱走者を追った。
天使はつまんなそうにしながらそれを眺めていた。

怠惰のベルフェゴール 第五節 天使の実験場

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