ペオルはミディアンを担いで、廃墟になった村に来ていた。特務隊の追手から逃れるため一軒の納屋の中にミディアンを連れて隠れていた。
納屋の中を漁り、医療に遣えそうな布やアルコールを手に入れ簡単な応急処置をしたが、ミディアンの首に空いた穴は大きく出血も止まっていない。正直瀕死の重傷だ。早くちゃんとしたところで治療しないと命に関わる。
間に合わせじゃこれが限界か・・・チッ!
ぐっ・・・・すみま・・・せん・・・隊長・・・
喋んな!首に風穴空いてんだから死ぬぞ
ペオルはミディアンを担いで、廃墟になった村に来ていた。特務隊の追手から逃れるため一軒の納屋の中にミディアンを連れて隠れていた。
納屋の中を漁り、医療に遣えそうな布やアルコールを手に入れ簡単な応急処置をしたが、ミディアンの首に空いた穴は大きく出血も止まっていない。正直瀕死の重傷だ。早くちゃんとしたところで治療しないと命に関わる。
げほっ・・・げほっ・・・
ミディアンを町の医者のとこまで連れて行くには流石にもう限界だ。ミディアンの体力が持たない。
ペオルはこの納屋にミディアンを置いていくことに決めた。助けを呼ぶために
ここに隠れてろ。すぐ応援を呼んでくる。それまで死ぬんじゃねぇぞ
わ・・・かり・・・まし・・・
だから喋んなっての。そのままでいいから
・・・・・・・・
・・・じゃあ行ってくる
【フレンブルク地方 廃墟の村】
崩壊した村の中をペオルは走る。
くそったれが! なんで俺がガキ一人なんかのために
ペオルは愚痴を溢した。
本来の彼ならこんなことのために命を賭けることは絶対にしない。
俺も焼きが回ったか…
廃屋の物影に隠れ追っ手から逃れようと様子をみる。
まだ近くにいるはずだ! 探せ!
特務隊の追っ手が血眼でペオルを探す。
チッ! さっさといっちまえっての!
ちくしょう、今日は厄日だぜ。
ペオルはそんなことを思っていた。
追っ手達が男の隠れている廃屋の方まで来ると、
ペオルは手に持っていた剣を抜き、息を潜める。
近づいてくる追っ手の足音、その距離2m。ペオルは覚悟を決めて剣を強く握る。
おい! そんなとこ見ても無駄だ! きっと町の方に逃げたに違いない!追うぞ!
追っ手の仲間の一人がそう言うと、フルフェイスの暗殺者達は廃屋を調べるのをやめて、ペオルの隠れている廃屋から離れていく。
完全に追っ手の気配が消えたのを確認すると、
全神経を研ぎ澄ませていた緊張の糸が切れて息をつく。
はぁ…助かったぜ…
みーつけた
うお!?
すぐ後ろから声をかけられ驚いて振り向いた、
そこには邪悪な笑みを浮かべる天使がいた。
まったく、散々引っ掻き回してくれたな?
て、てめえいつの間に...
口の聞き方がなってない人間だな。僕を誰だと思ってる
天使だろ?
天使・様をつけろモルモットめ
天使は羽根を広げながら答えた。
僕は上級天使にして世紀の天才! 偉大なる研究者ヤハウェ様だよ
尊大な態度をとる天使ヤハウェ。
ペオルは天使ヤハウェーに突っかかる。
やっぱり天使か、てめぇ天使のくせにこんなことしていいと思ってるのか!
はて、こんなこと?
ヤハウェ―はペオルの質問の意味が分からず首をかしげた。この野郎・・・
とぼけやがって! 今この国で蔓延している黒死病のことだ! お前の仕業なのはわかっているんだぞ!
クックックッ、なんだそんなことか
そんなこと…
唖然とするペオルに笑い出す天使
はーはっはっは! こいつは傑作だね!
てめぇ・・・なにがおかしい?
地上の人間は全てモルモット、この地上は僕の実験場なのだよ
実験…だと…
前回の実験は失敗だった。初期のモルモットは体内の魔素に身体が耐えられなかった。そのうえ廃棄した死体から魔素まで溢れだして疫病化するとはね。
お前のその実験とやらで、今まで何人の人が死んだと思っている!
さぁね、いちいちモルモットの数なぞ覚えてはいないよ
こいつ...
かつてない下衆な考え方をしているヤハウェにイラついた。
それに今回は被験体006、あのモルモットは魔素に抗体がある。ならば今度こそ適合するはずだ。
被検体006・・・ヨブのことか
ん?誰だヨブって。ひょっとしてあの薄汚いガキの名前か?悪いね、いちいちモルモットの名を覚えていてはキリがないんでね。
余りにも絵に描いたほどの屑すぎて笑えてくるぜ。それとお前の狙いのガキは残念ながら。もうここにはいないぜ
ふふーん、ひょっとしてコレかな?
・・・・・・・・・
ヨブ!?
上級天使ヤハウェの背後には何故か逃がしたはずのヨブがいた。
僕をあまり舐めないでほしいな。こんなこともあろうかと、被験体006には予め居場所がわかるようマーキングの魔法をかけといたのさ。千里眼から君らの居場所くらい手に取るようにわかる
チッ、手のひらで踊らされてたわけかよ。ヨブ無事か!
・・・・・・・・・
さっきからヨブを呼んでも返事がない。
虚ろな眼をして立ち尽くしている。
ヨブ! てめぇヨブになにをした!?
クックック、進化を促したのさ
ヤハウェは使用済みになった注射器を投げ捨てる。
するとヨブの身体が大きく膨れ上がり、
みるみるうちに変貌していく。
あ・・・ああああ・・・が・・がげが・・・がががが・・・・
さぁ見ろ!世紀の瞬間だ!
そ・・・そんな馬鹿なことが・・・ヨブ!ヨブ!!!
ヨブの服は破け、どんどん身体が肥大化していく。
ヨブは人間ではなくなろうとしていた。
ヨブ!!!
これが超生命体ベヒモスだ!
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
真っ赤に燃えるような紅のたてがみ、
肌は色黒く、鋭い牙や爪を生やした大きな獣に姿を変えた。
ヨブはベヒモスに変貌してしまった。
嘘...だろ...
グオオオオオオオ!!!
咆哮をあげる怪物。ヨブの面影はない。
おお! なんと美しい造型美だ!
力強さだけでなく荒々しさに隠れる神秘さがある!
ヤハウェは感嘆の声をあげて悦び、ペオルはことの事態を理解できず叫んだ。
ヨブ! ヨブ! 返事をしやがれ!
ペオルの声はヨブだったモノには届かない。
ヤハウェはベヒモスに命令した。
さぁ、性能テストだ。我が最高傑作よ、あのモルモットを駆逐しろ
グオオオオオオオ!!!
ベヒモスとなったヨブは理性をなくしたただの獣。
ペオルに容赦なく襲いかかる。
ちきしょうめ!!!
ペオルは剣を抜いて飛びかかってきたベヒモスを斬った。
ベヒモスも身体は硬く、剣が折れた。
そのままペオルは倒れこみ、ベヒモスの鋭い牙がペオルの右腕に噛みついた。
ガルガルガルガル!!!
ぐっ!
は、放せ!放すんだヨブ!!!
ぐあああああああああああ!!!
そしてそのままペオルの腕を食いちぎった。
ペオルの右肩から血が吹き出す。
があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!
激痛でのたうちまわるペオル
腕があああああ!!!俺の腕がああああああああああああああああああああっ!!!
はーはっはっは! いいぞべヒモス!もっとやってしまえ!
ぐっ・・・ちくしょうが!
ペオルは走り出した。このままでは殺られる。
そう思い必死に逃げた。
今更逃げられると思っているのか?クックック・・・
ヤハウェ―は不敵な笑いをしながらべヒモスと共に逃げたペオルを追った。
ペオルの逃げた先は運悪く崖にでた。
ペオルは上から崖下を覗き苦痛な顔をした。
行き止まりかよチクショウめ!!!
ぐっ!?
あのガキ本気で噛みやがって・・・
ペオルはなくなってしまった右腕を見る。
出血が酷い、このままだと死んでしまう。
ペオルは服の布を破り切断面を縛り止血した。
これじゃ女のおっぱい揉めねえじゃねぇか・・・
その心配はする必要はない。もう永遠にお前が女と乳繰り合うことはないからな。
振り返るとそこにはヤハウェ―がいた。勿論べヒモスを引き連れてだ。前は天使と怪物、後ろは崖。
万事休すだった。
俺の命もここまでか・・・
ペオルは諦めた。もはや助かる道はない・・・
すまねえなミディアン、どうやら助けを呼べそうにねぇ。お前だけでもなんとか生き延びてくれ。
この絶体絶命のピンチの中、ペオルが思ったのは部下ミディアンのことだった。自分が死んだ後、あいつだけでも生き延びて・・・
うおおおおおおおおお!!!
ミディアン!?
べヒモスの背後からミディアンが駆けつけて斬りつけた。しかしべヒモスの身体は硬く、ミディアンの持っていた剣は折れてしまった。
ぐっ!!!
バカヤロウ!なんで来た!逃げろ!!!
ミディアンは先程ペオルが腕を引きちぎられた悲鳴を聞いて、怪我を推して助けにきたのだった。
たい・・・ちょう・・・ここは自分が・・・がはっ!!!
ミディアンもペオルと同じくらいの重傷だ。もう戦えるような身体じゃない。それでもミディアンはペオルを助けに来た。
もう一匹ネズミがノコノコ死にに出てきたか。やれべヒモス。
グオオオオオオオ!!!
ぐわあああああああ!!!
ミディアン!?
べヒモスの巨体によるタックルを受けてミディアンは吹き飛ぶ。それをべヒモスは涎を垂らして見ていた。
グオオオオオオオ!!!
なんだ?腹が減ったのかべヒモス?
グオオオオオオオ!!!
じゃあ餌の時間にしよう。あの人間を食え
全身がバラバラになるような衝撃をくらい、ミディアンはもう虫の息だ。そこへべヒモスが覆いかぶさる。
や、やめろ!おい!やめさせろ!!!
た・・・ちょ・・・逃げ・・・・
ミディアン逃げろ!早くそこから逃げろ!!!
やれ
グオオオオオオオ!!!
ぎゃああああああああああああああ!!!
グオオオオオオオ!!!
ぎゃああああああああああああああ!!!
ミディアアアアアアアアアアアアンンンン!!!
グルルルルルル・・・
腹は満足したかべヒモス?
ミ・・・ディ・・・アン・・・・・・
ペオルはミディアンだった肉塊を見ていた。それはもう人の形を成していない。獰猛な獣に無残に食い荒らされていた肉片だった。
はっはっは!!!
てめぇ・・・・・・・
てめぇだけは・・・・・・・
てめぇだけはゼッテェゆるさねぇ!!!
ペオルは折れた剣を残った片手で振るい、高笑いをするヤハウェ―に斬りかかった。しかしその行く手をべヒモスが阻んだ。
トドメをさせベヒモス!
グオオオオオオオ!!!
ベヒモスはペオルに飛び掛かる。
ぐぁ!!!
グオオオオオオオ!!!
ベヒモスはペオルの上に覆い被さり、頭を噛み砕こうと口を大きく開けてペオルに迫った。
くっそぉ! ヨブ目を覚ませヨブ!
・・・・・・・・・・・・
その時、ベヒモスはペオルの上に覆い被さったまま、ピタリと動きが止まった。
ん? どうしたベヒモス。何故トドメを刺さない?
その様子にヤハウェは首を傾げる。
はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・
なんだか知らねえが、急にべヒモスの動きが止まった。
その時、ペオルの耳に微かに誰かの鳴き声が聞こえた。
オ.....ッサ......ン.....
!?
べヒモスから声が聞こえた。ペオルはべヒモスを見る。
ヨ、ヨブ......お前...なのか?
泣いていた。あのべヒモスの目から涙が零れていたのだ。
・・・くる・・・しい・・・・たす・・・けて・・・・
ヨブ、お前...
べヒモスになったヨブは苦しんでいた。
化け物にされ、天使に無理矢理命令させられ、ペオルやミディアンを傷つけたことに涙していた。
何故だ、何故命令を聞かない
まさか・・・まだ自我が残ってるとでもいうのか、いやそんなはずはない。
ヤハウェは不可解に思っていた。化け物になった人間がまだ自我を残していることは本来ありえないことだった。だからこの光景にヤハウェ―は何かの不具合だと思い込んでいた。
いやだころ・・・たくない・・・ころ・・・して・・・くれ・・・
・・・・・・・・・
ヨブの悲痛な叫びが聞こえた。
ペオルは折れた剣を強く握りしめる。
悪かったなガキンチョ...今楽にしてやるからよ
ペオルは折れた剣の切っ先をベヒモスの右目に突き刺した。
グオオオオオオオ!!!
雄叫び声をあげるベヒモス。片目を潰されのたうち回る。
ぐあああああ!!!
逆上し暴れるベヒモスの一撃を受け、ペオルは崖下に真っ逆さまに落ちた。
片目を潰されたか、人間如きに傷つけられるとは、まだまだ調整が必要だな。
ヤハウェはペオルの落ちた崖下を見る。
この高さでは生きていまい。
そう判断し遺跡の研究所に戻ることにした。
ゆくぞベヒモス
・・・・・・・・・
べヒモスは崖下を見ながらヤハウェに従い後について行った。
次回イヨイヨクライマックス!