そうして、魔王は、愛と寂しさを知ったのでした

 突如移動したのは、いつもの部屋だった。


 サンザシと、旅をする前に話していた、あの部屋だ。

 セイさんが、にこりと俺に笑いかけてくる。

ちなみにあの後、君たちには見せられないシーンがあった。

物語はもう少しだけ続く。

どう続くと思う、タカシ君?

……魔王は、サンザシを生き返らそうとする。きっと、それで彼の身をほろぼすか、ほろぼしかけるか

後者だ。正解、その通りだよ

どうして……わかるの?

この物語の教訓は、愛はすばらしい、というようなものではない。

俺たちが見ていないシーンこそが重要なはずなんだ

どういうこと?

俺は、この物語の教訓を知っている。


それは、死んだ生物を生き返らせることはできない、ということ。

俺の旅した先々で、魔法使いが口にしていた教訓……この物語は

俺は、セイさんをまっすぐに見つめる。

魔王の物語、ですよね

セイさんは、しずかにうなずいた。

そうさ。消えかけていた物語。

僕が修復していた物語

 セイさんが、パチンと指をならす。

きゃっ!

 ミドリを、黄色い光が覆った。

ミドリ。僕は言ったね、サンザシちゃんの命は君にもかかってるって。

君に、最後まで見てほしい。

きっと、これからロックが完全に外れるはずだから

どういうことですか?

見ていてね。わかるから。

そして、タカシ君

 はは、とセイさんが微笑む。

この名前で呼ぶのも最後かな

……どういうことです?

覚悟はもう、できているね

 まずは、覚悟を。
 そう言ったサンザシの言葉を思い出す。





 サンザシの全てを、見たはずなのに、これ以上何を?





 決まっていた。
 今度は、全てを、見るのだろう。

君の記憶を、思い出してもらおうか

サンザシ……!

 まただ。また、突然飛ばされる。


 さっきのシーンの続きだろう。

 魔王が、サンザシを抱きしめてわんわんと泣いている。

サンザシ、サンザシ。君は何も、知らないじゃないか。私の名前も……サンザシ

やめなさい!

 青い宝石が叫ぶと同時に、魔王の体を光が包み込んだ。



 黒い、光だ。



 その瞬間、俺の頭が割れるように痛んだ。

あっ……

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 そうだ。
 そうじゃないか。

 どうして、どうして、どうして。

 何もかも忘れていたなんて知らなかった。
 全てが偽りの記憶だというのも知らなかった。


 でも、それでも、そんなのどうでもいい。


 ショックだったのは、彼女を忘れていたという点だ。それだけだ。




 サンザシ。




 俺は、愛する彼女のことを忘れていた。





 世界を滅ぼしてまで望んだ、彼女のことを。




7 記憶の奥底 君への最愛(21)

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