なっ、待て、この子は何も

魔王とやら

キサラギは、魔王を見下しながら、低い声で告げた。

この娘は人質だ。何日かかる

……七日、くれれば

三日だ

キサラギが、口の端で笑った。

いくらあのロジャーでも、国の民を止められるまで、あと三日と言ったところだ。

何、あの音はまやかしだ

キサラギが手をひとつふると、扉の奥から聞こえていた民衆の怒号がぴたりと止んだ。

三日後に貴様がエン様を完治させる薬を作らなければ、この娘も貴様も死ぬ。

作れたとしても、貴様はどちらにせよ……重罪だがな

サンザシの両手を、ケンが無理矢理ひっぱった。

三日、ですか

ふ、とサンザシが笑う。

皮肉ですね

小娘、何を言っている? 黙っていろ

はたして三日、持つかどうか……離して

離すか

別れぐらい、させてください

サンザシが、静かに笑う。

その微笑みに威圧されたのだろう、ケンがキサラギをちらりと盗み見た。

好きにさせろ

その言葉と同時に、サンザシはケンの手をふりほどき、魔王に歩み寄った。

魔王様

座り込んでいる魔王に、サンザシは優しく両手を伸ばした。


頭を抱き締められた魔王は、放心したまま、呟いた。

すまない、サンザシ……俺は……

何もかもを、許して差しあげます。もちろんですよ。

三日後、来なくていいんです。

青い宝石様でも、神様を治すことはできます。


魔王様は、好きに生きていいんです

サンザシ……君は、いってしまうのか

お別れです。


もともと、今日でお別れですって、言いに来ようとしていました。


あの人たちが来ていても来ていなくても、私たちは今日でお別れでしたよ

どういうことだ、サンザシ? 

私のことが、嫌いになってしまったのか?

そんなわけ、ないじゃないですか

サンザシが、優しく、微笑んだ。

三日、もつかわかりませんが……三日以内に、私の言っていることがわかります

サンザシが、強く、魔王を抱きしめる。

魔王様との約束を、やっと果たせるときがきました

サンザシ……?

魔王様

サンザシは、そっと手の力を緩め、小さな手で魔王の両手を包み込んだ。





そして、静かに口づけをした。



愛しております、魔王様。

ずっと、ずっとですよ











言って、サンザシはその場に崩れ落ちた。



倒れているサンザシは、ぴくりとも動かない。









サンザシ……?

ケンとケンジが、何か叫んだ。




キサラギが頷き、白い光でサンザシを包み込むと、いつのまにか四人はどこかへと消えてしまった。









魔王だけが、その場に取り残された。

どういうことだ……サンザシ













魔王の目から、涙がこぼれ落ちた。

7 記憶の奥底 君への最愛(19)

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