人だ。
人の叫び声だ。唸る声だ。
これは……
人だ。
人の叫び声だ。唸る声だ。
ーー王! 魔王はどこだ!
我が名はケン! 時の番人だ!
出てこい!
魔王! 我が名はケンジ!
時の番人である!
ケン……ケンジ?
扉が壊れてしまうのではないかと思うほど、大きな音が響き渡る。
ここに、いたか
ゆっくりと、白い衣を纏った人物が現れ、魔王を見下した。
開いた扉の向こうでは、物を壊す音と、それをかきけすほどの大きな怒号が、うねっていた。
我が名はキサラギ。時の守り人である
静かに、キサラギは告げた。
その目には、怒りの炎が燃えていた。
よく名を刻め。
貴様を捕まえるものの名だ
魔王は、何も言えずに、その場にいるだけだった。
もしかしたら、何もかもを諦めていたのかもしれない。
過ちも、それによる恨みも、全て、自分のせいだと。
こうなることは、当たり前なのだと。
そんな表情を、浮かべていた。
そのときだった。
魔王の体からするりとぬけだしたサンザシが、小さな両手を目一杯開き、キサラギと魔王の間に立ちはだかった。
どけ
キサラギの声に震えながらも、サンザシは首を横にふるだけだ。
三度は言わない。どけ
嫌です。話を聞いてください
何を聞けと?
時の神を一時的にでも再起不能にした罪を、死以外のいかようにして償わせることができる?
青い宝石様が、時の神様の回復に尽力していることは、うかがっております
そうだ。青い宝石殿から足止めを食らっていた。なぜだかはわからぬが
ぎ、とキサラギが奥歯を噛み締めた。
それでもここにいらしたということは、青い宝石様が制御できないほどの、信者の方々が動いたと、お見受けいたします
そうだ小娘……私が叫べば、すぐにでもここに現れるぞ
キサラギ様! こちらにおられたのですね……
……魔王!
どうしたケン
……お前!
同時に現れた二人を、キサラギは手で制した。
静かに、サンザシを見下し続ける。
私の後ろにいらっしゃるのは、青い宝石様の魔力をもしのぐ力をお持ちの、魔王様でございます
……そうだ、悪の根元の
違います!
魔王様はエン様を必ずや救ってくださいます!
黙れ小娘!
黙りません!
あなたが魔王様の何をご存じなのか!
サンザシが、震える声で叫んだ。
誰が、魔王様のことをご存じなのか……!
なぜ、魔王様がこのような行動に出たか!
なぜ、わからないのですか!
わなわなと、サンザシは震えていた。
声を震わせていたのは、怖さからでもない。悲しさからでもない。
怒りだった。赤い瞳が、キサラギを射ぬくように睨み付けている。
キサラギはしばらく黙ってサンザシを見つめていた。
そして、ひとつ小さく笑うと、サンザシを指差した。
……ケン、ケンジ。この娘を捕まえろ
猿魚様>いつもコメントありがとうございます。本当に嬉しいです……! サンザシが……という展開です;; 続きも楽しんでいただけますように!