暗い部屋。月明かりもない、新月の夜。

 ベッドの上に丸くなっているのは、魔王だろう。

 もぞもぞと動く彼は、ふ、ふ、ふと静かに笑っていた。

……ひとりに、なっちゃったのね

ああ。自ら望んで……いや、仕向けて、か

ふ、ふ……何が、何が寂しさだ! 

貴様が来なくても、痛くも、かゆくも!

 高笑いが部屋に響く。

 何が、何が、と魔王が叫んでいる。

は、はは!

 魔王は立ち上がり、部屋のなかを徘徊しはじめた。

これで、俺は、ひとり! 

ロジャーも、ここまでした俺をどうにかしようとは思うまい。は、は、は!

 魔王が扉の方を向き直った、そのとき、扉が勢いよく開いた。

 扉からろうそくの光が漏れる。


 魔王が、小さく息を飲んだ。

魔王様!

……どうして

なにも連絡せず、ごめんなさい!

 サンザシは頭を思いきり下げると、実は! と大きな声を出した。

この前の薬……えっと、その、失敗作だったみたいなんです! 

それで、エン様が力を失いかけてしまって、城中てんやわんやで……

サンザシ……顔をあげろ

 静かな魔王の声に、怖がっているのだろう、サンザシは肩をすくめながら、そろりそろりと顔をあげた。


 そこには、泣きそうな顔の魔王が立っていた。

魔王……様?

トウコといったか、君の友人と、君は

え、あ! 

大丈夫です、最初は私、疑われたんですけれど、説明したら納得してくれて……魔王様は、何かを間違えただけです! 

でも、エン様はまだ回復されてなくて……青い宝石様と、そのおつきのお医者様の三人がかりで治療中とのことですが……だから、トウコも元気がなくて

君は

私は、元気ですよ!

ちがう

 魔王の声が震えていた。

君は、俺を疑わなかったのか

……どういうことです?

俺が、君を騙した

そんな、まさか!

 サンザシが微笑む。

そんなこと、魔王様は






 サンザシの言葉が終わる前に、魔王はサンザシを抱き締めた。

 大きなマントのなかに、サンザシはすっぽりと埋まってしまった。目をぱちぱちとさせながら、魔王の腕のなかで、サンザシは硬直している。

サンザシ、すまない

 魔王は、涙声だった。

許してくれ。君を疑った。

君の信頼を疑った

魔王様……?

許してくれ。俺は、君を騙したんだ。


君がロジャーの手先だと思って……君の優しさは嘘だと思って……なんて馬鹿だったんだ。


許してくれ、サンザシ……すぐに、神を元通りにする魔力を探す。

すぐに、元通りにーー

すべて言い終わらないうちに、魔王がはっと顔をあげた。
サンザシも、魔王の腕の中でびくりと硬直する。

俺の隣で、はっとミドリが息を飲んだ。

何の音?

それは、地鳴りのような音だった。震えるような音が、少しずつ迫ってくる。

7 記憶の奥底 君への最愛(17)

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