まあ! とサンザシはその場でぴょんと飛び上がった。
まあ! とサンザシはその場でぴょんと飛び上がった。
それは、トウコが喜びます。トウコと、エン様のこと、ですよね?
満面の笑みを浮かべていたサンザシが、ふ、と表情を曇らせる。
……魔王様、もちろん、秘密にしてくださっておりますよね
疑うのか?
まさか! 確認です
そっか、さっきも言っていたけれど、サンザシちゃん、トウコちゃんとエン……時間の神様が恋仲だってこと、教えているのね。
そんなに深い関係なんだ……
ミドリが、独り言のように呟く。ああ、と俺はうなずくだけで、二人の話に聞き入ってしまっていた。
神と精霊は相容れぬもの……そうだな
ええ、そうです。
全く別の生命体ですし、そもそも神様は子を宿す必要がございません……転生を繰り返し、永遠の時を生きられますから
そうだ、そうだな……しかし、この薬を神に飲ませると
魔王はその場で手をぱっと開く。いつのまにか、そこには小さなビンが現れていた。
神は一度だけ、子を宿すことができる……どの生物にも。
これは、神力では作ることができない……魔力のもの、だからな
まあ、まあ! とサンザシは手を叩いて喜んだ。
それをください、魔王様!
もちろん
微笑む魔王の目の底にある闇に、サンザシは気がついていなかった。
ぱっ、と場面が変わる。満天の星空の下、木陰のそばで、エンとトウコがひっそりとたたずんでいる。
ほう……そんな薬が
ええ、エン様
魔力のものか……ふむ、しかし
エンの細い指が、トウコの頬をなぞる。
いいのか……私の、子を?
もちろんです……!
そうか、とエンは微笑み、小瓶の蓋を開け、迷いなく飲んだ。
一瞬の出来事だった。
ごくり、と一口飲んだその瞬間、ぐらり、とエンの足元が揺らいだ。
その足元から、黒い煙がゆらり、と現れた。すぐに、エンの膝元まで、黒い煙が這い上がる。
え、というトウコの声が漏れるよりはやく、彼を青い光が包み込んだ。
パン、と弾けるおとがして、トウコが後ろに弾けとぶ。
トウコが地面に叩きつけられると同時に、星を縫うようにして、青い光が落ちてきた。
青い光はぐんぐんと近づくと、倒れているエンの足元に舞い降りた。
目を刺すような眩しい光が消え、その中心にいた女性が、素早くエンの体を仰向けにした。
神様! 神様……なんてことを……
彼女に続くようにして、紫色の光と、赤い光が空から落ちてきた。
その光も、地上に降り立った瞬間に消え、中から女性が姿を表した。
紫色の光の中にいたのは、オルキデアだった。恐らく、隣にいる赤い光から現れた女性は、ジャスミンだろう。
何が起こったの……
わからない
げほ、とトウコが咳をした。
貴様、何をした!
赤い女性が叫ぶ。トウコは上半身をおこし、つんざくような短い悲鳴を漏らした。
エン様!
立ち上がったトウコを、赤い女性が力一杯はたいた。ぱん、と乾いた音が響く。
ジャスミン、やめなさい
このバカ女、神との恋を黙認してやっていたのに、何をしやがった! なんだあの薬は!
エン様……エン様あ!!!
トウコが、青い光のなかにいるエンに向かって走り出す。やめろ、とジャスミンが叫ぶ。
トウコの悲鳴と同時に、世界は暗転する。