今日も絵美が俊之の部屋に来ていた。

絵美

俊君、期末テスト、何番だったの?

俊之

ああ、2番だったよ。

絵美

すごいじゃ~ん。

俊之

本当は1番になりたかったんだけどね。

絵美

2番でも、すごいよ~。

俊之

順位はともかく、
良かったなって。

絵美

何が?

俊之

前に言っただろ。
1番になってから、
告ろうと思っていたってさ。

絵美

うん。

俊之

結局、その前に告る事になっちゃって、
付き合う事になったんだけどさ。

絵美

そうだね。

俊之

1番になってからだと、
もっと、もっと、
遅くなっちゃったんじゃないかってね。

絵美

そっか。

俊之

或いは、付き合う事自体も出来なく
なっちゃっていたのかもって。

絵美

そうかな~。

俊之

だから、本当に良かったなって、
今になって、つくづく思うよ。

絵美

そっか。

俊之

しっかし、暑いな~。

絵美

もう夏だもんね。

俊之

ごめんね、ウチ、
クーラーがなくてさ。

絵美

ウチもクーラーはないから平気。

俊之

それなら良かった。
それよりも、もうすぐ夏休みか~。

絵美

俊君、
夏休みもアルバイトをするの?

俊之

うん。
でも、何日かは休むつもりだよ。

絵美

そりゃあ、ねぇ~。

俊之

だから、
夏休みは何処かへ行こうな。

絵美

うん。

俊之

そう言えば、俺達まだ、
ちゃんとしたデートって、
した事がないんだよな。

絵美

そうだね~。

俊之

ゴールデンウィークは
お休み中だったしな。

絵美

うん~。

俊之

そう言えば、
佐藤はその後、どうなのよ?

絵美

どうなのって!?

俊之

彼氏が出来たとかって
話はないの?

絵美

中々ね~。

俊之

佐藤って結構、
もてると思うけどな。

絵美

そうだよね~。

俊之

どうなのよ?

絵美

何が?

俊之

だから、何もないっていうのも、
おかしいって言うかさ。

絵美

うん。
何もない事もないんだけどね~。

俊之

何があったの?

絵美

何もなかったみたい。

俊之

なんじゃ、それ!?

絵美

だから、何もない事もないんだけど、
何もなかったみたいなんだ。

俊之

よく分かんないけど、これ以上、
俺が首を突っ込んでも仕方がないしな。

絵美

夏休みにね、
由佳と木綿子と三人で、
海へ行く約束をしているんだ。

俊之

海かぁ。
俺はちょっと苦手なんだよな。

絵美

そうなんだ~。
ちょっと意外~。

俊之

泳げない訳じゃないんだけど、
余り得意じゃないからさ。

絵美

そっか。

俊之

海はちょっと怖いっていうか。

絵美

海は波があるからね~。

俊之

だからよ~、
俺とはプールへ行こうぜ。

絵美

いいよー。

俊之

楽しみだなー。

絵美

何が?

俊之

絵美の水着姿。

絵美

やっぱり。

俊之

あはは。
ばれちゃってた!?

絵美

なんかね~、
俊君の話の落としどころっていうの!?

俊之

うん。

絵美

なんとなく、解ってきたんだ。

俊之

そっか~。

絵美

だからさ、俊君が
楽しみだなーって言った瞬間。

俊之

うん。

絵美

私が何が?って訊いたら、
私の水着姿って言うだろうなって。

俊之

もう完全に読まれちゃってる訳ね。

絵美

そう。

そう言って、二人は笑った。

数瞬の間、笑い合った後、俊之が切り出す。

俊之

その前にさー。

絵美

何?

俊之

親を紹介してくれよ。

絵美

うん。
今週の日曜日にね。

俊之

うん。

絵美

お父さん、家に居るって
言っていたから、どうかな!?

俊之

分かった。
バイトを休まなきゃいけないな。

絵美

アルバイトを休んでまで、
会わなくてもいいんじゃない!?

俊之

だって、平日は無理なんだろ!?

絵美

うん。
お父さん、何時頃に帰って来るか、
分からないからさ~。

俊之

それに始めから紹介して貰う日は、
休むつもりでいたからさ。

絵美

そっか。

俊之

俺のバイトさ。

絵美

うん。

俊之

こういう時、便利なんだよね。

絵美

便利!?

俊之

うん。
そう、いつもいつもは
出来ないけどさ。

絵美

うん。

俊之

月に一回くらいだったら、
急に休んだりしても、
全然、大丈夫なんだ。

絵美

そうなんだ~。

俊之

普通のバイトじゃ、
時給は良くても、
そういう融通って、中々ね~。

絵美

そうだよね。

俊之

勿論、普通のバイトだって、
病気とかで急に休まなければ
ならなくなる事もあるだろうけど。

絵美

うん。

俊之

そうなった場合、
周りに迷惑を掛けちゃうでしょ。

絵美

そうだね。

俊之

俺のバイトは急に休んでも、
周りに迷惑は、
そんなに掛からないんだよね。

絵美

そっか~。

俊之

遅れた分は翌日以降に、
すぐ取り返せるから。

絵美

なるほどねぇ。

俊之

だから、自給が安くても、
簡単には辞めらんない。

絵美

私もアルバイトをしようかな~。

俊之

小遣いが足りないの?

絵美

全然、足りないよ~。

俊之

そっか~。

絵美

夏休み、どうやって、
遣り繰りしようかって。

俊之

大変なんだな~。

絵美

俊君、バイト代、
月に幾らくらいなの?

俊之

五万円くらいにはなるかな。

絵美

すご~い。

俊之

八月は夏休みだから、
二十万円くらいは稼げるかもしれない。

絵美

そんなにお金を稼いでどうするの?

俊之

秘密。

絵美

ひどーい。
そんなに稼げるんだったら、
アルバイトを少し減らして貰って、
私ともっと遊んで欲しいって、
思っちゃうな。

俊之

ごめん、ごめん。
貯金をしているんだ。

絵美

貯金!?

俊之

うん。
一応、俺、
奨学金制度を狙っているんだけど。

絵美

大学の!?

俊之

そう。
でも、奨学金制度を使えるか
どうか、分からないじゃん。

絵美

うん。

俊之

で、使えなかった時の事を考えて、
少しでも学費の足しになればと思って、
今から少しずつって感じ。

絵美

俊君、偉いなー。

俊之

だって、以前程ではないにしても、
未だに学歴社会である事に
変わりはないじゃん。

絵美

そうだよね~。

俊之

だったら、
大学くらいは行っておかないと、
将来が不安でさ。

絵美

私は大学なんて行けないよー。

俊之

そんな事を言う前に、
ちゃんと勉強をしろよ。

絵美

俊君の意地悪。

俊之

ははは。
まあ、そんなに心配はしなくていいさ。

絵美

何で?

俊之

前に言っただろ。

絵美

何を!?

俊之

絵美は俺が絶対に幸せにしてやるって。

絵美

俊君。

俊之

だから、俺、今、勉強と
バイトを頑張っているんだよ。

絵美

うん。
ありがとう。

俊之

まあ、あれだ。

絵美

何!?

俊之

夏休み中のデート代は
俺に全部、任せておきな。

絵美

えー、そんなの悪いって。

俊之

大丈夫。
それくらいは計算の内だから。

絵美

でも~。

俊之

それよりもさ。

絵美

うん。

俊之

さっき絵美、
小遣いが足りないから、
バイトをしようかなって、
言っていたじゃん。

絵美

うん。

俊之

バイトをしてもいいんだけどさ。

絵美

うん。

俊之

バイトよりも、もう少し勉強を
して欲しいなって、俺は思うんだ。

絵美

えーーー!?

俊之

何、そのリアクションはよー!?

絵美

だって、俊君、本当にお母さん
みたいな事ばかり言うんだもん。

俊之

俺達、学生なんだぜ。
学生の本分は学業だよ。

絵美

そうなんだけどさ~。

俊之

成績なんて、
どうだっていいんだよ。

絵美

そうなの!?

俊之

どうだっていいって事は
ないかもしれないけど。

絵美

ほら~。

俊之

成績そのものよりも、
勉強をするって事が大切だと、
俺は思うんだ。

絵美

どういう事?

俊之

体だってさ、サボっていたら、
鈍ってきちゃうでしょ!?

絵美

うん。

俊之

頭だって、同じなんだよ。

絵美

そうなのかな~。

俊之

特に俺達くらいに
成長途中の子供はねぇ。

絵美

うーん。

俊之

どうした!?

絵美

俊君の言っている事は
解るんだけどさ~。

俊之

うん。

絵美

私、勉強って、
大ッ嫌いなんだよね。

俊之

ははは。

絵美

本当なんだからね。

俊之

分かったよ。
仕方がない奴だ。

絵美

仕方がないなんて、
言わないでよー。

俊之

そんな事を言う奴は、
チューをしてやる。

俊之はそう言って、
絵美をベッドに押し倒し、唇を重ねた。

二人は数瞬の間、唇を重ねた後、
俊之が体を返して絵美の隣で横になる。

俊之も絵美も足だけがベッドの外にある状態だ。

俊之

日曜日かぁ~。

絵美

俊君、不安なの?

絵美は体を起こして、俊之に訊いた。

俊之

不安がないって訳じゃないけど、
楽しみの方が大きいかな。

絵美

そっか。

俊之

やっぱさ。

絵美

何!?

俊之

絵美のお父さんとお母さんにも
認めて貰ってから、
初めて、ちゃんとした交際が
始まるって思うんだ。

絵美

うん。

俊之

俺達、今はまだフライング状態。

絵美

そうかもしれないね~。

俊之も体を起こした。

俊之

俺、早くちゃんとした
交際をしたいって思うから、
絵美の両親と話をするのが
待ち遠しいんだよね。

絵美

私、お父さんにもう一度、
釘を刺しておこうっと。

俊之

頼むな。

絵美

それと今日、お母さんに話をして、
協力をして貰わなきゃ。

俊之

大丈夫なの!?

絵美

うん。
お母さんにはもう、ね、
俊君と付き合っている事は
話をしてあるんだ。

俊之

そうなんだ。

絵美

だから、今日、俊君の事を
詳しく話しておけば、
きっと助けてくれると思うんだ。

俊之

そりゃ、心強いな。

絵美

じゃあ、私、そろそろ帰らないと。

俊之

うん。

そして俊之はいつもの様に
絵美を絵美の家の前まで送って行く。

帰り道、とある民家の庭先で、
沢山の立葵が見事な花を咲かせていた。

エピソード8/立葵の花が咲く頃

facebook twitter
pagetop