今日は絵美が俊之の部屋に来ている。
今日は絵美が俊之の部屋に来ている。
前に来た時と同じ様に俊之はベッドに座り、
絵美はテーブルを挟んで向かいの床に座っていた。
いきなり、だけどさ。
何?
今日、お袋に紹介を
したいんだけど、いい?
えー!?
お袋にはさ、今日は残業をしないで
帰って来てくれって、言ってあるんだ。
うーん。
それじゃ、断れないじゃん。
俺、家族に隠れて絵美と
付き合ったりしたくはないんだ。
うん。
判った。
それと、もう一つ、
お願いがあるんだけど。
何?
期末テストが
終ってからでいいからさ。
うん。
絵美の親も紹介して欲しいんだ。
えーーー!?
絵美だって親に隠れて、俺と
付き合ったりするのは嫌だろ!?
それは、そうなんだけど~。
けど、何!?
お母さんだけだったら、
まだいいんだけど、
それじゃ、駄目なんでしょ!?
そうだね。
でも、何で?
お父さんが俊君の事を
気に入らなかったら、由佳みたいに
別れさせられちゃうんじゃないかって。
そか。
でも、大丈夫。
大丈夫って!?
俺、絶対に絵美のお父さんに
認めて貰うから。
そんな事を言われても。
認めて貰うまで諦めない。
それでもさ~。
俺が信じられない!?
そういう訳じゃないけど。
俺さ、
絵美と絵美のお父さんに、いつまでも
仲良くしていて貰いたいんだ。
別に仲は悪くないよ。
でもさ、俺と隠れて
付き合っていたら、多分、距離が
開いていっちゃうんじゃないかな。
そうかもしれないけど。
更に隠れて付き合ったりすれば、
それこそバレた時には、
許して貰えなくなっちゃうのかもよ。
う~ん。
俺さ、嫌なんだよね。
何が?
そういうの。
そういうの!?
親に隠れて付き合う。
そっか。
そうするとさ。
うん。
何をするにしても、
隠れてしなきゃならなくなるじゃん。
うん。
親に隠れてデートをする。
うん。
親に隠れてセックスをする。
俊君~。
そうすると、さ。
うん。
そこでモラルが
破壊されちゃうんだよね。
モラル!?
そう。
だからね。
うん。
セックスをするって段階で
モラルが破壊されちゃうから、
避妊をしなくなる。
避妊かぁ。
避妊をしないから、
子供が出来ちゃったりする。
うん。
それで俺達みたいな子供に、
子供が出来ちゃったってさ。
うん。
中々、難しいじゃん。
難しい!?
先ず、考えられる事が中絶。
うん。
中絶なんて、母親も子供も
可哀相なだけじゃん。
そうだね。
そして中絶をしないで、
男が責任を取る形で
結婚をしたとしてもさ。
うん。
その結婚生活を続ける事が
出来なくなって、離婚なんて話も
少なくない訳でしょ!?
そうだね。
そうなった場合、
誰が一番、傷付くと思う?
誰?
俺は子供だと思うんだ。
そうかもしれないね。
お父さんの居ない子供、
お母さんの居ない子供、
そういう子供が増えていく事が
どうしてもやるせないんだ。
俊君。
俺、親父が居ないじゃん。
うん。
だから、そういう思いって、
人一倍に強くてさ。
うん。
そういう悪循環の中に
自分達が入るのだけは、
どうしても嫌なんだ。
そっか~。
勿論、途中で、
ちゃんと制御が出来れば、
それでもいいのかもしれない。
うん。
でも、俺は最初から、
きちっとしておきたいんだ。
そっか。
そうすれば、さ。
うん。
絵美もお父さんに
隠し事なんてせずに、
何でも話せるだろうし。
うん。
俺、絵美と絵美のお父さんには、
そういう関係でいて貰いたいんだ。
解った。
そういうのって中々、
気が付かなかったりするけど、
とても大切な事だと思うんだ。
うん。
ちゃんと紹介をする。
良かった。
俊之は安堵の笑顔を見せた。
ねぇ。
何?
俊君の隣に行ってもいい?
いいよ。
そう言うと、
俊之は少し座る位置を左側にずらした。
空いたスペースに絵美が腰を下ろす。
絵美は照れ臭そうに俯いていた。
絵美。
何?
絵美って、横顔も可愛いのな。
もう~。
絵美は照れながら、俊之の腿の辺りを軽く叩いた。
なぁ。
何?
キスをしていい?
少し間をおいてから、
絵美は小さな声で小さく頷きながら答える。
うん。
俊之は自分の顔を絵美の顔の前に持って行き、
軽く唇を重ねた。
そして、すぐに唇を離す。
数瞬の沈黙が二人を縛り付けた。
その沈黙を破り、俊之がおどけて見せる。
チュー、しちゃった~。
俊君ったら、もう~。
とうとう、しちゃったな~。
しちゃったね~。
うはは。
ねぇ。
何?
そんなに嬉しいの?
うん。
私も嬉しかった。
絵美は少し照れながら言った。
だってさ~、野郎連中の中でもさ、
初チューもしていないのって、
俺を含めて数人しかいなかったんだぜ。
私もだよ~。
由佳も木綿子もチューどころか、
Hまでしているんだよ。
じゃあ、
俺達もHまでしちゃうぅ~!?
え~!?
うはは。
そんなに焦らなくていいよね。
うん。
したい気持ちもあるけど。
うん。
まだ、
うん。
かな。
だね~。
俺、正直に言うとさ。
うん。
嬉しいってのも、
本当なんだけど。
うん。
ホっとしたってのも、
あるんだよね。
私もあるかな~。
俺、絵美と付き合えてなかったら、
大人になるまでチューすら
出来なかったと思う。
そんな事はないよ~。
そうかな~。
私の方こそ、俊君が居なかったら、
どうなっていたのか。
絵美の方こそ、大丈夫だったはず。
何で?
基本的に男って、助平だから。
男の子が助平だと、
どうして私が大丈夫なの?
だから、絵美が選好みしなければ、
幾らでも相手は見つけられたはず。
そうかな~。
とにかく絵美が居てくれて、
本当に良かった。
私も俊君で
本当に良かったって思う。
絵美はそう言いながら、
俊之の右腕に手を回して、
肩にもたれ掛かった。
可愛いな。
ねぇ。
何?
もう一回、チューをしよ。
うん。
そう言うと、俊之は再び
絵美の唇に自分の唇を重ねた。
今度は先程よりも長い間、唇を重ねる。
そして、その途中で、
勝手口のドアが開く音が聞こえた。
俊之は絵美の唇から自分の唇をゆっくりと剥がす。
お袋が帰って来たみたいだ。
うん。
ウチのお袋、間の悪い奴だよな~。
そんな事を言っちゃいけないよ~。
それじゃ、お袋を紹介するから、
下に行こう。
うん。
二人は立ち上がって俊之の部屋を出た。
階段は絵美が先に下りて、
その後から俊之が下りる。
絵美は俊之が階段を下りるのを待ってから、
俊之の後について行った。
そして俊之は絵美を連れてリビングへ行き、
台所に居た母に声を掛ける。
おっかあ、ちょっといい!?
何!?
今日は残業をしないで帰って来い、
とか言っていたけど。
だから、
紹介したい人がいるんだよ。
あら~、そういう事だったのね。
ちょっと待ってて。
少しの間をおいて、
俊之の母がリビングまでやって来る。
これ、ウチのお袋。
これって、何よ。
川村絵美といいます。
そう言うと、絵美は軽くお辞儀をした。
じゃあ、絵美ちゃんね。
俊之と付き合ってくれているの?
はい。
というか、私の方が俊君に
付き合って貰っているんです。
ふふふ。
随分と可愛らしい子じゃない~。
だろ!?
俊之には勿体ないくらいだわ。
うるせ~な。
でも、川村さんっていうと。
そう。
宮下さんのところへ行く途中の!?
だから、小学校から、
ずっと一緒の学校だったんだ。
それで、
いつから付き合っているの?
あなた達。
付き合い始めたのは最近だよ。
そう。
とにかく宜しくね、絵美ちゃん。
こちらこそ、宜しくお願いします。
俊之と仲良くしてやってね。
はい。
素直そうで、いい子だわ~。
お母さん、気に入ったわ。
良かった。
俊君、私、そろそろ帰らないと。
うん。
それじゃ、絵美を送ってくるね。
また遊びにいらっしゃい。
はい。
それでは今日は失礼します。
俊之は絵美を連れて、玄関へ向かった。
俺の靴、勝手口だから、
外でちょっと待ってて。
うん。
そう言うと、絵美は玄関で靴を履いて外に出た。
俊之は勝手口へと向かう。
勝手口から出て来た俊之は
絵美の自転車の所まで来た。
今日は家まで送って行くよ。
そんな事はしなくていいよ~。
そして俊之は絵美の自転車に跨がって絵美を促す。
早く乗れよ。
俊君、帰りはどうするの?
そんなに遠い訳じゃないから、
散歩がてらに歩けばいいだけじゃん。
そう言われて、絵美は自分の自転車の荷台に座り、
俊之の腰に手を回した。
ちゃんと捉まっていろよ。
うん。
俊之は自転車を漕ぎ始める。
緊張した!?
当たり前でしょ~。
ははは。
いきなり、なんだも~ん。
でも、良かった。
うん。
俊君のお母さん、とてもいい人だった。
じゃあ、もっと良かった。
うん。
ねぇ、俊君。
何?
何でもない~。
変な奴だな~。
なんかさ。
うん。
幸せなのかな~って。
そうだな~。
俺は幸せだな。
じゃあ、私も幸せ。
ふふふ。
えへへ。
俺さ~。
うん。
絵美と付き合う様になってからさ。
うん。
何やっていても楽しくてさ。
そうなんだ~。
勉強もバイトも全部が楽しいんだ。
でも、私もそうかな~。
絵美も勉強をしているの?
俊君の意地悪~。
あははは。
私は勉強はしてないけど。
うん。
毎日、毎日が楽しいっていうか。
うん。
本当に幸せ~って感じなんだよ。
そっか。
んでもって到着~。
ありがとう~。
この道の奥に絵美の家がある。
二人は自転車から降りて、
俊之は自転車のハンドルを絵美に渡した。
それじゃ、また明日。
うん。
バイバイ。
俊之は自宅へと歩いて帰り、
絵美は暫くの間、俊之を見送ってから、
自転車を引いて自分の家の方へ向かう。
辺りは丁度、薄暗くなりかけている頃だった。