特別編・5(全3回)
 
 

ミリー

今回のお話の主人公:ミリー
場所:マド村
時期:第58幕の直後

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
勇者様たちに敗れて以来、
私は何もする気が起きなかった。


マド村の宿に引きこもり、
朝から晩まで
ボーッと空を眺めるだけの日々――。

それでも世界は回っていくのだから、
なんて無情なんだろう。



毎日欠かさず続けてきた剣の稽古も
とうとう途切れさせてしまった。

1日休むとそれを取り戻すために
数日はかかるって分かっているのに。



きっと私の剣の腕は
かなり落ちているんだろうな……。

でもやる気が起きないのだから仕方ない。
 
 

ミリー

はぁ……。

 
 
もう何度目のため息だろう?
20回くらいまでは数えていたけど、
それすらも面倒くさくてやめてしまった。


ホントにダメだ……あたし……。
 
 

ミリー

ネネ……ジフテル……。

 
 
その名前を呼んでも、返事をする人はいない。


私は傭兵だから、
あいつらとは単なる仕事で一緒にいただけ。

それだけの関係――のはずだった。



でも失ってみて気付いた。

いつの間にかあいつらは私にとって
仲間という存在に
なっていたんだなぁって……。


昔はひとりでいることが当たり前だったし、
傭兵なんて戦場では常に孤独。
強き者、賢き者だけが生き残る。

弱さは自分への甘えであって、悪でしかない。
そういうものだと思っていた。
 
 

ミリー

それなのに……寂しい……。

 
 
まるで心にぽっかりと穴が空いたみたい。

なぜこんな気持ちになってしまったのか、
戸惑っているのが正直なところだ。


つまり私の心は
弱くなったということなんだろうな……。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

アレス

――ミリーさん、
仲間に加わりませんか?

ミリー

えっ?

ミリー

……バカなこと、
言わないでください!

アレス

ははは、ダメですか……。

ミリー

考えておきます……。

アレス

えっ? 何か言いましたか?

ミリー

なっ、なんでもありませんっ!

ミリー

でも……
助けてくれたことには
感謝しています。
ありがとう……。

アレス

ミリーさん……。

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
な、何を考えているの、あたしっ!

なんで勇者様の顔なんか……浮かぶのよ……。
 
 
 
 
 

ミリー

アイツは弱い!
だから許せないっ!

 
 
 
 
 

ミリー

…………。

 
 
……でも再会した時、彼は強くなっていた。


剣の腕は相変わらず弱いみたい。
それなのに自分なりの強さを身につけて、
あの場に立っていた。


決して逃げずに立ち向かってきた!


ブレイブ峠で別れた時の
ヘタレな勇者様なんかじゃない。
強くて大きな勇者様の姿だった。


今の彼なら仲間になっても……。
 
 

ミリー

くっ!
今さらそんなことっ、
できるわけないじゃないっ!

 
 
かつて私は勇者様を見限った。
弱者として蔑んだ。見下した。
命を奪うに等しいことをした。


そんな私が、
どの面下げて仲間になれるっていうのっ!




勇者様はそんな私でもきっと受け入れてくれる。
それはなんとなく分かる。

でもそんな彼に甘えてしまおうとする
弱い自分が許せない……。
 
 

ミリー

う……。

 
 
自然と涙が滲んでくる。

あれだけ自信のあった剣でさえも、
勇者様の仲間のエルフに翻弄される一方で、
力を発揮できないまま負けた。


――いや、あれも戦う技術のひとつ。

アイツが『戦い』というカテゴリの中で
私よりも勝っていただけ。
私は弱いから負けたんだ……。


私は何もかも失った。
もはや生きている意味などない。



意味などないはずなのに……
なぜか自分の命を絶てないでいる。



理由は……分からない……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

アレス

ミリーさん……。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ミリー

っ!?

 
 
嘘だ……理由は分かっている……。

分からない振りをしたいだけ。
自分の心を誤魔化しているだけ。



あぁ……どれだけ私は弱くなったのだろう……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

特別編・5-1 孤独の中で……

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