目覚めよ。迷いし人間よ

そこは幻想的な場所だった。
温かい。心が癒されているように安らぐ。
このまま眠ってしまいたい。

しかし、どこからか声が聞こえた優真は、ゆっくりと目を開ける。

少年、キミの名は何と言う?

……赤坂優真

では優真、心して聞け。キミは死んだ

……

死因は……

言わないでください

分かった

赤坂優真は死んだ。
本人も死んだという自覚はあった。

痛みは一瞬だった。
だけど確かに痛みはあって。

……
…………

はは、……ははは、なんだよそれ。どうしてだよ……どうして……!

突然の死。
優真はどうして死ななければならなかったのだろうか?

どうしてだよ!? なぁ教えてくれ! 僕が何をした!? 死ななければならなかった理由があったのか!?

悲しかった。
人から嫌われ、避けられ、そして最後には運命からも見捨てられた。
少年に残されているのは何だろうか?

そうだ、妹がいるんです! 無事ですか!?

キミが死んだ後、キミをイジメていた男はその場から逃げていったよ。その後、警察に事情聴収され逮捕された

つ、つまりは……

妹は無事だ。しかし、キミが死んですごく傷ついている。あれは立ち直るのに時間が掛ると思う

そんな……

キミはおかしな人だ。自分が死んでも妹を心配するなんてな。世間ではそれをシスコンというんだろ?

そんなことを言う彼女だが、優真は返す言葉がなかった。
ただ絶望して、涙を溢すしかできない。

優真、勘違いしてはいけない

人に嫌われている? 避けられている? 運命に見捨てられた? はたして本当にそうなのか?

まるで優真の心を見透かすように言った。

本当にそうなんだとしたら、キミの妹は何故傷を負う。それは、大切だと思っていた人が死んでしまったからではないのか?

……

運命は残酷だよ。今まで傷を負ってきたことは紛れもない真実として形に残ってしまう。けれど決してそれだけじゃない、キミは確かに誰かから大切な人として思われてきたんだ。

それでもまだ運命に絶望するというなら、それは贅沢な感情だと私は思う

全くもってその通りだった。
優真は流れる涙を拭く。

あなたは……

申し遅れたな。私の名はアルフィン。人で言う神という存在だ。

……ありがとう。こんな僕を慰めてくれて。なるほど神か。ならここは天国なの?

死んだのならきっとそうなのだろう。
しかし、アルフィンは否定するように首を振る。

ここは天国でも疑獄でも、ましてや私は神でもない

それらの意味は所詮人間が想像した架空なのだ。ここは私の部屋であり、私は私。だからそう改まるでない

そう言って優しい笑みを見せる。
何故だろう。その瞬間、優真の心は確かにドキっと響いた。

さて、もう一度言うがキミは死んだ。死んだ者には次の生を与えるのが私の仕事となっている。

そこでだ。二つの選択肢を選ぶ権利を与えよう

選択肢……?

そうだ。とある世界に赴き、その世界を救うか、また日本で転生され新たな人生を歩むか。その二択だ

日本に転生する場合、今までの記憶は消させてもらう

それはつまり、妹の記憶が消えることを意味する。

シスコンのキミにとってそれは痛手だろ。なら世界を救ってみないか?

ぼ、僕が世界を救う……?

世界が救われることは私の悲願。わがままを押し付けるのだから、それなりの見返りを与えることは当然だよ

どうだろうか? 前世の記憶を引き継いだまま世界を救ってくれないか?

む、無理ですよ。僕には力がない。その証拠に僕は今ここにいる。どうしようもない死因を残してここにいる。世界を救うなんてそんな大それたこと出来るはずが……

この選択が、再び妹に出会えるチャンスだとしてもか?

……え? 
そんなマヌケな声が漏れた。

おっとしまった。つい口が滑った

それってどういうことですか!?

そうだな、世界を救ってくれるなら教えよう

そ、そんな!

まさかここで焦らされるなんてあんまりだった。

ひ、卑怯だ。神にあるまじき行為だ……

さっきも言っただろう。私は神じゃない。私は私。だから多少の非道は許されるのだ

横暴だよ……

おいおい、何を躊躇っている。世界を救えば妹に会えるんだ。ならばキミが選ぶ選択は1つだろだろ?

あれ? さっきは2つって言っていなかったっけ?
妹に会いたいのなら選択は1つに限られるなんて、もうこの人神様止めればいいのに。

わ、分かりました……

ありがとう。ならば早速転送するとしよう

と、その前に

驚くことに、アルフィンは優真に抱きしめるように寄り添った。

そして互いの唇が触れ合う。

!?!?!?!?

意味が分からない。一体何がどうなってこのような状況になったのだろうか?

契約成立だ。では行こう。世界を救いに!

丸く床に穴が開いた。重力に逆らうことが出来ず、落下する優真。
神様……アルフィンはどこか楽しそうに笑って優真の名前を呼ぶ。

そうして、1人の少女と一人の少年の物語が始まる。

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