4月10日

何が悲しくて、休みの日まで学校に来なければいけないのか・・・
俺は今、休日の学校に来ていた。

校舎の中庭を通り抜けると、グランドに出る。
正面にはサッカーコート、その左側には野球のグラウンドがあった。

根白

よお、犬伊
来てくれたんだな

犬伊

よっ、根白
その格好やっぱ似合ってるな

野球グラウンドの方から根白が走ってきて、俺に声をかけた。
他にも見学者がいて、根白はその人たちを先導した。

昨日、花見の帰りのことだった。

根白

そうだ、明日野球部が試合すんだよ

根白

ただの練習試合なんだけど、卒業生とかも含めた親善試合でさ
うちが母校のプロ選手とかも来るから、見にこないか?

和咲

え、それって結構すごいんじゃないの?

根白

そう、すげーんだよ
新入部員の勧誘も兼ねてて、結構面白いからさ

井崎

おれは明日出かけるからパス

和咲

僕も明日デートなんだよね

根白

はああ?!

犬伊

和咲彼女いんの?

和咲

えへへ、デートって言ってもお姉ちゃんだけどね

井崎

へえ、和咲のお姉ちゃんとか、可愛いんだろうな

根白

なんだよ、紛らわしい・・・

犬伊

あ、根白
俺暇だから行くよ

根白

お、まじで
じゃあ明日13時に学校な

犬伊

新乃も行く?

新乃

・・・

新乃はいつものように首を振った。

根白

じゃあそろそろ試合始まるんで、ここから見ててください

根白が、フェンスの張ってあるベンチスペースまで案内すると帽子を外して一礼して、走り去っていく。
見た目の通り、本当に野球好きなんだろうな、というのが窺い知れた。

それから2時間が経って、あたりはそろそろ夕日に差し掛かっていた。

根白の言う通り、OBも参加する親善試合は和気藹々として、途中にちょっとしたイベントもあり楽しいものだった。

犬伊

おつかれ

根白

おー、犬伊も今日来てくれてありがとな

犬伊

根白走り回ってたな

根白

まあ、一年は雑用だしな

ぼちぼち片付け始めた野球部の中に根白を見つけて話しかけた。

犬伊

俺もやるよ

手持ち無沙汰だった俺はグラウンド整備をしている根白を手伝うことにした。

犬伊

一年は雑用って、他に一年いるのか?

根白

いや、まだ俺だけ
俺も正確には仮入部だしな

犬伊

へー、でもやる気満々じゃん
ここ入ったのも野球部目当て?

根白

まあな
オレ、ここの野球部入るのずっと憧れだったんだよ

心底嬉しそうに語る根白の横顔は満面の笑みに溢れていた。

和咲

犬伊、根白、おつかれ

根白

お、和咲

和咲

新乃もいるよ

新乃

・・・

犬伊

お、新乃!!

中庭からひょっこりと、和咲と新乃が姿を現す。
新乃は手に綿菓子のついた棒を持っていた。

犬伊

あ、新乃
桜ついてる

新乃

・・・

新乃の髪にアクセサリーみたいに、桜の花びらがついていた。
なんだか可愛らしいそれを取り除こうと手を伸ばすと、新乃はじっとして頭を差し出した。

犬伊

・・・

新乃

・・・

なんとなく頭を撫でると、新乃が驚いて顔を上げた。

犬伊

や、ごめんつい

犬伊

はい、取れた

新乃

・・・

犬伊

それ、花見の屋台の綿菓子だろ?
また花見行ったんだ?

新乃

・・・

俺が聞くと新乃はこくりと頷く。
綿菓子のためにわざわざ花見会場に一人で行くなんて、よっぽど甘いものが好きなんだろう。

犬伊

今日は一人で選べた?

新乃

・・・

新乃

・・・

新乃

・・・

犬伊

ん?
一人で百面相してる

表情が変わる新乃がおかしくて眺めていると、新乃の手には綿菓子のついた棒と、同じく何もついていない棒を持っていることに気づいた。

犬伊

新乃、綿菓子二つ食べたの?

新乃

・・・

犬伊

何で照れてるのかわからないけど、なんか可愛いな

俺がそんなことを思っていると、和咲が口を挟んだ。

和咲

新乃とは学校の入り口であったんだけどね

和咲

棒を眺めて悩ましげにものすごーく落ち込んで見えたんだよね

犬伊

棒を・・・悩ましげに・・・?
いやいやアホか俺は

俺は頭を振って変な思考を振り払っていると、その奇行を和咲に訝しんで見られた。

犬伊

えーっと、綿菓子二個買ったけど一個落としちゃったとか?

新乃

・・・

新乃は首を横に振った。
どうやら違うらしい。

犬伊

うーん?
じゃあ二個とも食べ終わっちゃって悲しいとか?

新乃

・・・

新乃はやっぱり首を振る。

根白

そういえば昨日、犬伊もりんご飴、二個買ってたよな

新乃

・・・

和咲

お、当たりみたい

根白の言葉に新乃が頷く。
つまり、昨日りんご飴を二個買ったのと関係があるということ・・・?

犬伊

うーん

犬伊

あ、もしかして昨日俺がりんご飴二個買ったから、お返しに新乃も綿菓子買ってくれたとか?

新乃

・・・

新乃はこくんと頷く。

和咲

ああ、そっか
それなのに二個とも食べちゃったから、あんな落ち込んでたのかぁ

新乃

・・・

新乃が綿菓子の棒をぎゅっと握りしめて頷くから、俺は頬が緩むのを止められなかった。

犬伊

あはは、新乃それ面白すぎ!

新乃

・・・

笑われて怒ってるけど、綿菓子を食べてしまった罪悪感があるのか何も言えないようだった。

犬伊

そっかそっか、じゃあ、新乃

新乃

・・・

犬伊

ごちそうさま

新乃

・・・

一口分残った新乃の綿菓子を食べると、新乃はこくんと頷いた。
心なしか、普段より甘い気がした。

和咲

何あれラッブラブですか?

根白

いやいや男同士だろ

犬伊

ん?
どうかしたか

和咲

いや、仲良しだなって

根白

あー、オレ野球部集合してるから行くわ

根白

来てくれてありがとな

和咲と根白が何を言っていたのか気になったが、日も暮れたことだし解散することにした。

つづく

高校入って初めての土日を終えて、気づいたことは「新乃の連絡先を知らない」ということだった。
犬伊は果たして新乃の連絡先をゲットできるのか?!

犬伊

こんな感じでゆるゆるgdgd続いていくよ
また見てね

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