怪盗ソルシエールの事件から数日が経過した。

その間、僕ら探偵部は、怪盗ソルシエールの犯行を阻止したとして話題になり、テレビや雑誌の取材を受けたり、クラスメイト達に質問攻めにされたりと、かなりドタバタした時間を過ごしていた。
学校の先生たちの協力で、どうにか騒動が納まりを見せ、ようやく安心して部室で放課後を過ごせるようになったある日のこと。

受領中の依頼もなく、割と暇をもてあましていた僕らは、誰が持ち込んだのか分からないトランプで何となく遊んでいた。
ちなみに、最初はババ抜きとか神経衰弱とか、わりと大人締めのゲームで遊んでいたのだけど、気がつけばカジノ式の本格的なポーカーに移行していたりする。

正太郎

むぅ……
とりあえずコール(合わせ)……

奈緒

じゃあ、私は10のレイズ(上乗せ)で

マサヒロ

うえっ!?
俺は着いていけないっす
すんません、フォールド(降り)っす

鏡花

先生はどうします?

正太郎

むむむ……
奈緒の今までの手を考えるとブラフの可能性もあるし……
ここは乗った!
コール!

奈緒

私もコールでお願い

鏡花

じゃあオープンします……
奈緒ちゃんはキングのスリーカード……
先生は10と8のツーペア……
……
奈緒ちゃんの勝ちですね

奈緒

えっへっへ~
また勝ちましたよ、先生!

鏡花さんの宣言と共に、満面の笑みを浮かべた奈緒が、机に並べられたチップ(紙製の手作り)をがっぽりと手元に引き寄せる。
その奈緒の手前には、もっさりとした紙の山――もとい、チップの山が築かれている。
それに対して、僕の手元のチップは数えるほどで、マサヒロは最初からあまり変わっていない。
ちなみに、鏡花さんは自らディーラー役を買って出てくれているので対象外。
つまりは、僕が一番負けているということだ。
ついでに言えば、チップを見てもらえば分かるとおり、このポーカーは遊びだ。
最終的な決着は、一番チップを集めた部員に、一番チップが少ない部員がジュースを奢る程度の賭けにしている。
けどまぁ、それでも賭けであることに変わりはなく、ゲームに参加している僕らは割りとマジに価値を狙っていたりする。

それはともかくとして、負けがこんでいる僕は、悲しいほどの差が出てしまった奈緒の手元と自分を見比べてため息をつく。

正太郎

はぁ……
僕はどうもポーカーに弱いみたいだね……

奈緒

先生はねぇ……
私たちから見れば分かりやすいんですよ……

正太郎

分かりやすい?

奈緒

はい……
考えてることがすぐに顔に出るって言うか……
感情が真っ直ぐに出てる……
そういう感じで、ポーカーフェイスができてないんですよ……
だから、こういう勝負の場では先生にどんな手が来ているのか、割とすぐに分かっちゃうんです……
隠し事が苦手なタイプですね……

マサヒロ

もちっと、感情を抑えるというか……
表情を気をつけたほうがいいかもしれませんね……

鏡花

ああ……でも……
そういう素直なところが先生の長所でもあるんです……

奈緒

まぁ、結局のところ、先生は今の先生のままでいいんです

なんか、好き勝手に言われた挙句、勝手に評価が上がった気がする……。

というか、僕だって隠し事に一つや二つできるやい!
現に、怪盗ソルシエールの正体が大久保ルルさんだってことも探偵部の皆に言ってないし!

いや、まぁ……別に言う機会がなかっただけだし、説明を求められたところで返答に困るだけだから、いえないんだけどね……。

そんな感じで、僕が内心で自己完結していると、部室に設置されたスピーカーから部活終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

正太郎

それじゃ、帰ろうか……

僕のその一言を合図に、皆は机に散らばったトランプや紙製のチップを片付けて部室を出る。
そうして、一度校門の前まで一緒に歩くと、その後はそれぞれの家の方角へと散っていった。
ちなみに、僕と奈緒は途中まで帰る方向が一緒で、部活の後は大抵一緒に帰っている。

探偵部を始めるまでは、こうやって女の子と一緒に帰るだなんて考えられなかったな……。

そんなことを考えていると、ふと奈緒が思い出したように口を開いた。

奈緒

そういえば先生……聞きました?
怪盗ソルシエールがまた犯行予告を出したそうですよ?
なんでも、今度は隣の県の天然クリスタルを狙ってるとか……
前回、先生に止められたのに……性懲りもないですよね……

正太郎

へぇ……そうなんだ……

大久保さんも何でわざわざ犯行予告なんて出すんだか……。

奈緒の話に適当に相槌を打ちながら、そんな薬袋もないことを考えていた。

その翌日。
学校に登校した僕は、昇降口で上履きに履き替えようとすると、中に一通の封筒が入っていることに気付いた。

はて?と思いながら、とりあえずそれを手にとって眺めてみれば、封筒の表に丸っこい文字で「横島正太郎様」と書かれていた。

正太郎

まさか!?

一瞬胸が高鳴った僕は、慌てて周囲を見回して誰もいないことを確認すると、乱暴にかばんに封筒を突っ込み、男子トイレの個室に駆け込む。
そうして、どこか焦る気持ちを必死に抑えながら、震える指で封を切り、中の紙を取り出すと、そこにはこう書かれていた。

横島名探偵殿
やあ、この間は世話になったね。
もしかしたらキミも聞いているかもしれないが、実は少々困ったことになってしまってね……。
できればキミの力を借りたいと思うんだ……。
ただ、ボクの正体を知っているのはキミだけだから、放課後に屋上へ一人できてくれないか?

キミのファーストキスの相手より

明確な差出人こそ記されていないものの、最後に書かれた内容で、僕はこの手紙の主が誰なのかを理解した。

なんだか、とても嫌な予感しかしないんだけど……。

File15 容疑者ソルシエール 事件編

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