眠い…早朝の街中を南越谷の駅へ向かう道をバイクを漕いでいると一瞬睡魔が襲う、顔を左右に強く振り途中自販機でコーヒーを買い飲み干す。

 ふう~実は夕べは初めて海外旅行へ行くことになり一睡もできなかった。まあ、いつも通り飲んだくれた親父が他の常連客と喧嘩しそうになったのを近所の飲み屋まで迎えに行き仲裁してなだめて、連れて帰ったのがデフォルトで2時位いだったのもあるが。

 生徒会のメンバーのそれぞれの住んでいる所から逆算してJR南越谷駅の前で落ち合うことになっていた。僕は人探しに行くという本来の目的を一瞬忘れてしまいそうなワクワク感が抑えられなかった。

 駅に着くと、僕が一番だと思っていたがそこには既に田中さんが待っていた。

あっ松君、おはよう!早いね

おはよう、田中さんも早いね、でも、びっくりしたな、てっきり自分が一番だと思ったから

いや~何回かこういうのあったけど、今度の件じゃなんか前の晩寝れなくてね~

 何回くらいこんな事してるんだろう、う~ん……

あっそうそう、清水から連絡あって、あいつ知っての通り、夏日部市に住んでるから、電車で落ち合おうだって

そうなんだ、あれ?そういえば梶本さんは?

怜奈?ああ~実はね怜奈はすごい朝が苦手なんだよね~前も言ったと思うけど、起こすの一苦労だから迎えにいったげようかって言ったらそんな恥ずかしい事しなくていい!だって…大丈夫かな?ちょっとラインしてみるね


20分後

う~ん、この様子だと清水の乗っている電車に乗れないから、あいつにも降りてきてもらおうか

そうだね……

しばらくすると清水がやってきた、アロハシャツ着て…

あの~清水さん?

うん?何?

今回の目的地は香港なんですけど、ハワイじゃありませんから!

う~ん、でもやっぱり、旅と言えばハワイ、気持ちはいつもハワイ!

えっ?

この人ってこんなモードの人だっけ……ちょっといつもと違う意味で怖い。

僕がかなり引いているのを見ると田中が、後ろからさりげなく小声で

変でしょう~2次業務で海外行く時いつもあの格好なんだよ、しかも色違いのアロハを毎日、だから恥ずかしくて……今回は4人だけど今までは2人だったから恥ずかしさも100倍だよ

えっいつもって、どこの国でも?寒い所でも?

まあ、寒いところは流石に……アロハの長袖

長袖!!あろはの?へっ?

ええええええ!!!

う~~ん清水君、お前って奴は、関口の変さなんか目じゃないな真の変人だね。

40分後

う~ん、こないね 返信、既読にもならない

ちょっと電話掛けてみる?

あっそれは止めたほうが良いよ、彼女電話で話す時すごい不機嫌だから、どうしてか分からないけど、怖いの!

そうなの?ふ~ん


20分後

いや~いくらなんでも、これは無いでしょう

もうしょうがないから、置いていくか、怜奈には悪いけど

と田中が言った時、黒塗りのベントレーリムジンが猛スピードで駅のロータリーに入って来た。

あっ来た来た、怜奈だ、ようやくこれたか~


3人の前で急停車すると、降り立った梶本は、車の中で着替えたのか、衣類が散乱していたのが少し
見えた。彼女はすばやくドアを閉めると、

早く行って!

と、運転手に怒鳴り!驚いた運転手は急発進で走り去った。

ごめん~朝弱い上に、夕べは経団連のパーティにパパに連れてかれて家に帰ったの3時過ぎだったの

そうかあ、梶本さんお父さんとお出かけまでする仲に戻ったんだね、良かったなあ。それにしても制服じゃない梶本さんいつもとちょっとちがって可愛いな

そうかあ~まあ、それなら仕方ないね、じゃあ行こうか!


全員改札を通り、電車に乗り込む。
途中電車を東松戸駅で京成線に乗り換え、京成アクセス特急へ乗り換え成田空港行きに乗り込み1時間程度で、電車は成田空港へ到着した。

成田空港に到着すると、そこはまるで、僕にとっては人種のルツボ、まるで外国に既にいるような感じがした。初めて空港に来たからかもしれないけど。
しかし、その感傷は清水が外国人に対して アロハシャツ姿でメロン熊の被り物の写真撮影に応じているのを見て、直ぐに吹っ飛んだ。

ちょっと、彼と距離とってもいい?

あたしも


他の二人も追随する

梶本は超小声で田中に話しかける。

え~清水君ってひょっとして、ちょっとずれている人なの?はなあ

いや~何というか、普段着はあんなの着ないと思うけど、少なくとも海外はいつもああなんだよね、私も何度も止めるように言ったんだけど、もう成田ではちょっとした有名人なんだよ~恥ずかしい、早く搭乗手続きすましたいな~


梶本がさらに小声で、

うわーないわ~やっぱり、コーキに乗り換えて正解だったな

えっ?何か言った?怜奈?

ううん、何でも……

 そうこうするうちにチェックインが始まりその後は幸運の連続だった。

 飛行機のエコノミーがダブルブッキングの為ビジネスクラスに無料で変更だった、しかもビジネスクラスの席は殆ど人がいなかった。広いシートに座って僕たちは豪華な食事を堪能した。清水はワインを注文しようと試みていたが失敗していた。

 食事が済んだ後はすることもなく、映画を1本見た後寝不足もあっていつの間にか眠ってしまった。

 夢を見ていた、誰かと、追いかけっこをしていた、どこでだろう?うん?ああ図書室だ。相手はああ、あの子だ、赤いチェックの同じ図書委員の子、あれえ今日は夏だから長袖なんて変だあ。

こうくん、捕まえた!

わかったよ、負けだよ!あの、離して、

ええ~どうしてえ~?

どうしても!

ええ~面白いね~こうくん!

ああ、彼女の名前があとちょっとで思い出せる、とその時誰かに揺り起こされた、

松君!、おい起きてくれよ!

うわっ!!

清水のアロハ ドアップの状態に映像が変化する。
甘い子供時代の映像はどこかに吹っ飛んでしまった。

ううう~清水君、やっぱりそのイケメン顔に冗談みたいなシャツはちょっと……

うん?何を言ってるんだい、ほら香港にもうすぐ着くよ

わあ、

その目の前に広がった景色に息を飲む

飛行機が旋回して着陸態勢に入る時
その昔 100万ドルの夜景とも言われた、香港のまばゆい夜景が目に入った。

わあ~綺麗だね

田中さんが息を飲む、僕も同感だ、但し清水は僕に見ろと言っておきながら大して感動もしていない様だった。梶本も香港は始めてだったが、海外旅行は毎年行っているらしく落ち着き払っていた。

 香港国際空港に到着すると、白石さんのご両親が用意してくれたリムジンに乗り込む。空港は豪華なリムジンが到着したので有名人か何か来たと勘違いした何人かの旅行客が写真を撮っていた。

 但しそこに乗り込んだのはどうみても中学生みたいな感じだが、ちびっこい体格を高級ブランドで身を包んだ子供っぽい人1名、ごくごく普通のメガネをかけた男子1名、身長が高くイケメンだが変な色のアロハシャツ1名、普通の女子1名。こんなのがリムジンに乗り込んだので注目されない訳がなく、ギャラリーは増えるばかりだった。

 空港から出ると香港の中心部まで高速道路を走り、しばらくすると高層ビルやよく映画で出てくる様々な高さのビル郡が不規則に立ち並んでいるのが見えてきた。

 ビルの合間を車が抜けていくと、漢字だらけの横長な看板がビルから何本も突き出しているのが見えた。

うわーなんか、日本と全然ちがうな~面白い~日本の吉野屋とかもある、それにKFCとか日本と同じだな、それにしてもずいぶんとビルが不規則に建てられているな~デコボコだな


親父が建設業者のため、ちょっとだけ、気になってしまう。

そうだね~日本ならもちょっと、町並みが統一感があるって言うか、周りの外観に合わせるって言うか、そんなの一切ないみたいだね~


田中が、目を輝かせながら僕に合わせてくれる。

まあ、香港なんてよくある東南アジアのひとつだからこんなもんじゃない?

梶本が大して驚くこともなく、景色を見ながらそう言った。

 その後街の中心部で香港名物、渋滞に巻き込まれてしまいホテルに着いたのは夜の8時を過ぎていた。

今日は、もう遅いからそれぞれの部屋に戻って休もうか、明日以降の予定は明日朝食の時に話し合うってことで良いかな?

そう清水が言うと、みんなそれぞれの部屋へ入って行った。僕は香港のむっとくる熱気と、東京とはちょっと質の違う行き交う人混み、雑踏の忙しさを目の当たりにして圧倒されてしまい、それに外国にきたドキドキ感も重なりどっと疲れが出てしまった。

ところが、 僕は自分の部屋に入るとさっきまでの疲れが一瞬でどこかへ飛んでしまった。

この部屋の豪華かさ……何これ?別荘?芸能人?シングルってこんなに広かったっけ?前ホテルに泊ったのって、確か親父の出張先の新潟に忘れ物届けて、帰りの電車の切符取れなくて仕方なく泊った駅前の古いビジネスホテルだったけど。シャンデリアって、ホテルの個室にもあるものなんだ……

今回の香港滞在中の宿泊先は、白石のご両親が用意してくれたから、二次活動費用も節約でき会計の田中は喜んでいたのだが、うーん大企業ってすごいね。大学出れたら白石製薬に入りたいな。そんな事を考えながらふと壁に掛けてある時計を見ると10時を指していた。

おっ、もうこんな時間か、明日から、香港のどこ探すのか謎だけど、とりあえず、よーし、バスタブ広いからお風呂にでもゆっくり入っちゃおうかなあ、王様みたいだ~るる~ん! 

 そう思いかけた時僕のスマホのラインが鳴った、関口には生徒会の国際交流の集まりに出席していると伝えていたので恐らくお土産の要望だろう。

 しかし、ラインには三人からメッセージが入っていた、一つは予想通り関口から、お土産は焼き肉味のチョコが良いと言う謎要望、関口大丈夫か?そして残りの二つは、どうしよう……僕は内線で清水に連絡し部屋から出ると隣の清水の部屋に駆け込んだ。

どうしたの?

これ、田中さんと梶本さん二人からライン来た同時に


僕はスマホを差し出す。

まだ、メッセージ開いて見てないけど嫌な予感がする、どうしたら良いかと思って……

えっあごめん開いちゃったよ、

えーそんなあ、既読になっちゃたよ、

ごめん、確かに、ちょっとまずいね、田中も梶本さんも、ちょっと話したいって、どうする?

どうするってそれを相談しに来たの、どっちも既読にしたら、返信しなきゃならないじゃないかあ、清水って頭いいの?そうじゃないの?時々分からなくなるよ!

う~ん、時々自分でも分からなくなる時があるね、でっ、だから、どうしたいの?松くんは

 清水は大きな瞳で見ている、いゃー本当にイケメンだね、梶本さんが好きになるのも分かるな、ちょっと左の目が少しだけ、灰色がかっているところなんか、変な意味じゃないけど、魅惑的だな、いやこんな事考えてる場合じゃないな、と我に返り、

どうしたいかって、どう意味だよ、

梶本さんと田中の態度を見れば分かるだろ、君みたいに相手の顔の僅かな表情の動きや、声の抑揚、手や目の動きで人の気持ちが分かる人には、もうかなり前から、分かっていただろう?彼女達の気持ちを

その言葉がとてつもない強みを持って聞こえた。

今は……やっと女の人と話せるようになった位なんだ、だから、そこまで考える余裕が無いって言うか、梶本さんも田中さんも本当に可愛いくて、魅力的で、僕みたいなのが関わっていいのかな、なんて……それで清水の事だから知ってるんだろうけど、あの、子供のころから親父と母親が喧嘩ばかりしてて、物心ついた時から怒鳴りあいを毎日見させられて育ってきたから、恐いんだ

女性が?人と関わりを持つことが?


僕は首をゆっくり振る。

最初はそう思ってた、でも違う、

何が?

自分も父親みたいに、自分の弱さを他人にぶつけるようになるんじゃ無いかって思えて、それが恐い。


ハッ
僕は何をこんな事言ってるんだ。

あっ今の取り消し、っていうか忘れて、すまん!!誰にも言わないで、お願い。

ああ俺は言わないよ

 ピッ!

ピンポーン その時、僕のラインが鳴った、

松君、梶本さんから、来たみたいだよ

そう言うとスマホを返してくれた。

あっ彼女、今日はもう疲れたからまたねだって、はは、ぐずぐずしてたから嫌われちゃったかな

そのくらいで、彼女が諦めると思う?甘いね~松君は?彼女結構しつこいよ、俺の経験からわかるけど


僕が黙っていると、清水は何か思いついたようで

田中はまだ待っているんじゃないのかな

ああ、そうだ、どうしよう

待たせといて会わないのはよくないと思うんだよね、少しだけでも話してきたら?

そうだね、じゃ、有難う清水、ちょっとリラックスできたかも

どう致しまして

松川が部屋から出て行きドアが閉められると清水は、一旦ミュートにした電話アプリのオンフックのミュートを解除した、通話相手は梶本。

聴いてたかい?これが、彼の君と田中に対する今の正直な気持ちだと思うんだけど。お約束の件は果たせたかな?

ありがとう、あと清水君こんな事頼んでごめんね、知らなかった、彼の抱えている恐怖心がそんなに強いものだったなんて

それで、引いちゃった?もう松君には興味なし?じゃあまた俺のほうに関心が向かうのかな~

ふざけないで!そんな安っぽいものじゃないんだから、私の気持ちに初めて入り込んで来た人なんだから、土足だったけど……うう、こんな事いうの恥ずかしいけど本音だよ、だけど最後のほう声が急に聞こえなくなったみたいだけど

えっ?そう?おかしいな、俺のスマホの調子が悪くなったかな?ごめんね

いや、いいけど、聞きたかったことは大体聞けたから、有難う清水君

じゃあ頑張ってね

有難う、じゃあおやすみ

ああ、おやすみ

清水は梶本との会話を終えた後、一人考える。


まあ、田中だけ味方するのもフェアじゃないし、彼女がどのくらい本気か試すにも好都合だったな。しかし松君、君はちょっと困ったことになりそうだね、二人とも本気だよ。

清水は、シャワーに入りその時スマホが鳴ったことには気づかなかった。ラインは田中だった。
 一言 ”ありがとう” とだけあった。

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