第6話 白石菜月の件 香港編

 初夏の日差しが眩しくさしこむ放課後の教室の中で僕は、秘策の最終ステップの確認に余念が無かった。
今日こそは、絶対抜け出してやる、元祖帰宅部の名に懸けて!思えばここ数週間幾多の脱出計画を練り、全て清水に撃破されてきた。

くそ~なんで、分かるんだ俺の脱出経路が?

 今まで3つの裏口に予め靴を置いておき、そこから脱出、下校、そしてバス停で関口と落ち合う計画を立て実行してきた。
 このプランは完璧だった、しかし裏口にはいつもあいつが先回りして爽やかに立っている。因みに裏口は全部で非常口を含め5箇所。裏口にカメラはついてはいるが、それは警備会社に直結しているやつで学内の人間が見る事は出来ない。だから、あいつが監視カメラの映像を見て僕を先回りしていることは考えられない。
 そこで、今日はさっき言った秘策を実行する事になった。まず、鞄に予備の靴を入れておく、そして履いてきた方を裏口Aにおく、これはおとり、そして僕は今日この日のために購買部のおばさんに頼みこみ購買部搬入口から帰る手筈を整えていた。
 関口と目で合図を送り、僕は後から教室の外へでる、関口とは念のため関口の自宅で落ち合う予定。しかしその時

松くん、一緒に行こう

 と後ろから声をかけてきたのは田中さんだった。
 一瞬たじろぐが大丈夫。一旦生徒会室に行った後、購買部へ行くと出て行けば良い、フフフ、完璧です。生徒会室に行くと清水はスマホで何かを確認していた。丁度頃合いを見計らって、

僕ちょっと購買部まで買うものあるから行ってくる

 と言って生徒会室から出る。

 そして出てから、ちょっと息をつく、ふぅ、良かった、もし買うものあるから一緒に行くとか言われたら、一貫の終わりだったね。
 ちょっとはや歩きで購買部へ向かう、おばさんは僕を見かけると、目配せして裏口から搬入専用エレベーターに乗るように促した。辺りを少し見回し乗りこむ。ドアが締まり気分が緩み、やった!と大きな声で叫んでしまった。しかしよく考えると何か嫌な予感がする。。はっ!しまった、まさかエレベーターの外であいつが待ってるとか、でもあいつ本当にスパイみたいだからな、油断はできない。エレベータが1Fまで到着するまで、緊張の時間が続く。しかしドアが開くとそこには、誰もいなかった。

 よし!そこから靴を履き替え、校舎を出てバス停に向かう、関口の家に向かう為今日は徒歩通学だった。バスは数分後に時間通り到着、バスに乗り込みドアが締まりようやく安堵感が広がった、そして嬉しさが徐々にこみ上げてきた。やった!ついに清水を出し抜いた。思わずでる、ガッツポーズ。バスは時間調整の為、停車していたが、しばらくすると、

本日はご乗車有り難うございます。お客様松川さま、いらっしゃいましたら運転席まで、お越し願います。

 えっ、戸惑いながら、運転席へ行くと、はいと携帯を手渡された、携帯からは聞き慣れた声が聞こえてきた。

松くん、購買部には欲しい物が無かったの?ずいぶん遠くまで買い物いくようだね、一緒に行こうか?


汗が、顔から滴り落ちるのがわかった。

 生徒会室に戻ると、田中さんが

松くんおかえりなさい~、暑かったでしょ、はい麦茶。おなか空いたら素麺もあるよ

ありがとう田中さん、しかし、あの~清水さん?

なんだいあらたまって?

一つ質問をしてもいいでしょうか?

もちろん、

なんで分かるの!!!あんたCIA、FBI、KGB?

 僕は混乱して訳の分からない質問をしてしまっていた。

まあ当たらずともとおからずかな、因みにあのバスの運転手さんはある件で知り合いだから。

 どういう経緯でとは敢えて聞かないでおこう。

さあて、全員揃ったところでいくつかの懸案事項がありますので話し合をしたいと思います。まず、一次案件

ぶぅーつまんないよ~

 田中が不服そうに口を尖らせて言う。

はい、そこぶぅーたれ禁止、先ずは、図書委員の欠員が続いている件から、その後は、購買部のパンの種類が少ないという意見が多い件、、その次は体育倉庫の鍵が閉まりにくい件、プールの塩素が強くアレルギーの人が入れない件

 このあと、いくつかの一次活動案件の事項について話し合い、議題は二次活動案件についてになった。

さて、もう今週で7月も半ばを過ぎましたので、夏季休暇中の生徒会夏合宿の件を話し合いたいと思うんだけど、

はっ?

 僕は耳を疑った、夏合宿?そして思わず手を上げた、

はいなんでしょう松くん、

あの生徒会で合宿をやることの意味はなんでしょう。

そうですね、目的としては、慰労です。皆様にはずっと頑張ってもらったので、佐藤先生から、なんと!海外を含めた合宿を許可頂きました。あとお祝いも兼ねて、先月めでたく全員無投票で、生徒会正役員に昇格しましたから、よかったですね、松川書記兼、会計補佐

 え?知らなかった!っていうか、役職増やされているよ!そう思ってショックを受けていると。

ああもうあんたのその嘘聞きあきたから、合宿の本当の目的は?

 やはり同意見か、まあ昇格以外、嘘なんだろうな

うーん、折角海外旅行が楽しめるんだから、もうちょっと乗ってくれてもいいと思うんだけど

あ?でっどこいくの?

 田中がぶっきらぼうに言う。

言っとくけど、あんたが5月山浦の件で、やらかしたの、まだ忘れてないんだからね、危うく帰りの飛行機乗り遅れるところだっんだから、中間テストの初日に、成田から、学校に直行とかあり得ない!

 うわぁ~そこんところ詳しく知りたいような、知りたく無いような。

今回は大丈夫、前みたいに前日深夜集合とかないし、人数も増えたしそれに今回は白石の件だから、もう両親も、学校もお手上げ状態なんだ

 そう清水が言うと田中さんは、渋々ながら少し納得したようで、

ああ、彼女かぁ~我が儘お嬢様だからね~、もうあんなやつほっとこうよ~

 ええ!この前の梶本玲奈も相当な我が儘娘だと思うんだけど、ちょっとそこんとこどう思うよ、と独白しながら、田中の友人で有ること思いだし、口を少しだけモゴモゴさせつぐむ。

 実はあの例の件以降、成り行き上ラインを交換したんだけれども、ちょくちょく、ラインにメッセージ入れてきてその返信に困っている、でもこの事をもし清水に相談したら、田中をおちょくる材料に400%の確率で使われそうで、正直言って怖い。それにあの事も、もしラインの事話すと、知られてしまいそうで、うーん。そんな事考えてボーっとしていると、田中は何か勘付いたらしく、じぃーと僕の顔を見上げ、

松くん?

えっなっ何?

 僕がしどろもどろに答えると、

どしたの?

い、いやっごめん、ちょっとボーっとしていた。


更にじぃーと見て、

松くん、何考えてた?

いや本当にボーっとしてた、ごめん、夏バテかな、はは、なんか、最近疲れ易くてね。

 そう言うと、田中さんは、

ごめん、松くんそう言えば、ここにきた初日から、二次活動に参加していたよね、それなのに私きつい言い方したね

 いゃー疲れる理由は、そこから派生したところなんだけね、メインでと心のなかで呟く。
 清水が僕の気持ちの機微を察して、

さあ本題に進みます、良いかな皆さん。田中は、知ってると思うけど、今回の二次活動の対象は白石菜月1年B組、彼女はもうかなり依然から不登校の状態です、もっと正確に言うと自宅から出て行ってしまい所在不明です、僕達の2次活動の目的は、彼女の所在を確認次第、説得、自宅へのエスコートです。

えっ?そんなのどこにいるかも分からないのに、どうやって探したらいいか分かるわけないじゃんか

そう言うと、

そうなんだよ、だけど松くん、実はこの件も、玲奈の時と同じでもう何週間も懸案事項なんだよね、このままだと彼女出席日数が足りなくなって、最悪退学になっちゃうんだ、だから何とかしたいんだよね

それは、大変だね、でもそんなに深刻ならいっそのこと警察とか探偵とかに頼んだほうが良くないかな?

うーんそうもなかなかいかないんだよね、なんせ白石菜月は白石安次郎、白石製薬グループ会長の孫なんだよね

白石製薬?あの国内で一番大きな?

そう、そこの孫娘が逃避癖があるなんて、公になったらいいマスコミの餌になってしまう、かといって学校が表だって調べることも限界があってね、表向きは病気療養中になってる

そうかあ、でもなにも情報がないと、こっちも動けないよね、

そう、だからこの件でいま梶本さんにも情報を探ってもらっているんだ。。。あっ彼女から今ラインが入ったぞ、噂をすればだね、梶本から少し情報が見つかったから、こっちに来るって。

えっ、く、来るの?

えっ松くん何か都合でも、悪いの?

いや、そんな事無いよ、ただ彼女パワーがあるって言うか、圧倒されちゃうところがあって

 僕はまるで、都合の悪いことを隠している犯人が余計に饒舌になってしまっているような口調になっていた。

 田中さんは僕の動揺には気づいたかわからないが、

まあそうだよね、友達の私でも、怜奈と一緒に長時間いると、ちょっと疲れる事があるかな、なんて

  その時ドアがノック無しに明けられると、

コーキ、はなあ、清水君こんにちは~

と体格に反比例して元気よく梶本が入ってきた、そして僕の隣の椅子に座るやいなや、梶本は唐突に

コーキ筋肉痛になってない?大丈夫? 


僕はいきなりの質問に焦りを感じたができるだけ冷静に答えた。

元気だよ

そう言うと彼女は、少しだけ、当惑して、

そう良かった~

 と言った。

 実は先週、今から考えると梶本さんにまんまと乗せられてた訳だが、二人でサイクリングにいく事になってしまった、ラインには深刻な感じで、

悩んでる事がある、相談に乗ってほしいんだけど。。。出来れば、星がや運動公園まで一人で来て欲しい、お願い

 なんて言われて、純粋に信じた僕が馬鹿だった。

 ラインだと表情や口調が分からないから真意がわかり難いから厄介だ。運動公園へは公共の交通機関がないから、この前梶本にもらったバイクで行くと、そこにはやはり同じバイクに乗った梶本が待っていた。てっきりまた父親が問題起こしたかとばかり思ったら、全然問題無いって言うし、深刻な悩みもちょっと太ったとか、数学で先週解らなかったところがあるとかそんな事で、後は一緒にサイクリングしようと言う感じになりその日は、一日中付き合わされただけだった。

玲奈、筋肉痛って?

 田中の言葉が少しだけ詰問調だったので、僕が驚いていると、

えっわっえっとああそう言えば、白石さんの件情報やっと少しだけ見つかったよ

 梶本はよろけながらも、なんとか田中の質問を上手く回避した。アナタ、ソウイウノモ、デキルノネ、ワタシダメヨ。

 そして清水が上手く話を逸らせた。

へぇさすが学内一の情報通梶本さんにかかれば分からない事は無いね

ヘヘヘ~

私の友達の友達が知り合いでね、それで、何週間か前に、もし彼女から連絡あったら、録音しておくように頼んでおいてね、先週かかってきたらしくて、少しだけ話せたって、ただしパソコンの通話アプリでの会話だから、どこからかけたかは不明、どうやら、暗号化ってのが、かかってて、パパの会社のエンジニアにも解らなかった。でも会話から何かヒントがあればなと思って

 梶本からusb フラッシュメモリーを受け取ると清水は、パソコン上で再生した、

でもさあ、菜月やっぱちょっとやばくない?

いいよあんな馬鹿な親、こっちから願い下げだっての、私はもっと自由に生きたい、いまはそれしか考えられない、

それでこれからどうするの?

取り敢えず私人混みとか大嫌いだから、それに暑くるしいところも、そうじゃないところにしばらくいる、

えっそれって北海道にでもいるの?

まさか、国内じゃすぐ連れ戻されちゃうから、あっごめんちょっと電話来たから、またね

あっちょっと待ってよ~

 そこまでで、録音は終わっていた。

うーん自分で持ってきてなんですが、ちょっとこれじゃ分からないですね~、

 田中さんも

うん正直、玲奈には頑張ってもらったけど、私にはなにも分からないな、

ごめんもう一度聞かせてもらえる?

 そう僕が言うと清水は仕手やったりの顔をして、再生ボタンをおす

まさか、国内じゃすぐ連れ戻されちゃうから、あっごめんちょっと電話来たから、またね……レイ ホウマ

あっちょっと待ってよ~

 再度聞き直して、確信する。

あの、多分僕、どこにいるかだいたい分かったかも、恐らくだけど

田中さんと梶本さんは、びっくりして、驚いている。
清水が、

君も気づいたかい、白石が電話を切る瞬間、別の人が背後で日本語以外で話していたよね、あれは~なんだろう、挨拶みたいだったけど中国語?

いや、違う、あれは広東語、中国語の方言のひとつ、彼女は人混みや暑くるしい場所は嫌いだと言ったけれど、あの口調は本当の感じがしない、恐らくブラフだと思う。だから、逆に彼女はかなり混雑して密集している、しかもかなり気候が暖かい場所にいると思う。

 清水が続ける、

そうすると広東語が話されて、混雑した蒸し暑い場所か、成る程彼女が今いる可能性があるのは、香港かその隣のマカオ辺りか

 僕は頷いた。
 梶本は目を輝かせて、

すごい!!すごい~!さすが、玲奈のコーキくんだ、すごいよ、どうして分かるの~?

 えっ、いや梶本さん今どさくさ紛れに何かすごい発言してませんか?心の中で呟く。田中はどんな顔しているかな、恐る恐る見る、

……

嗚呼いゃー梶本さん、あなた今すごい睨まれてますよ、こんな展開普通ラブコメなら面白いんだろうけど、リアルだとちっとも良くないよ!清水いつも通り、話しをそらしてくれ、目で訴える。

よし、それじゃ田中、チケット頼むよ、

 田中は、むっとした表情で下を向いている。

田中!!

 田中は、はっと我に帰り、

わ、分かったよ、それじゃ三人分香港予約するよ、日程はどうするの?

そうだな今週末でいいよ、

オッケー、

 えっ、それは何かがオカシイ

あのう、

あのう、

 と言った言葉が、梶本と重なる、但しその後異なっていた。僕は、

パスポート無いけど、

 梶本さんは、

私も行きたい!!

松くんのパスポートは問題無い、もう申請してあるから、明日午後にタクシーで取りにいってもらう

えっいつの間に!

 あっでも先月何かサインしてくれって言われて良く確認しないで何かにサインしたかも、気づかなかった、相変わらず怖いよ清水さん、親のサインどうしたの?

梶本さんは申し訳無いけど、今回は生徒会活動の一環だから、予算が降りないよ

えーそんなあ~あたしこんなに努力したのに!

 梶本は、思っいきり悲しい表情を作り、本当に悲しさを滲ませ目を潤ませた、そしてたち上がると、

佐藤先生と井上理事長に会ってくる!抗議する!初志貫徹!

 梶本は生徒会室の片隅に置いてあった、防災ヘルメットをかぶり、拡声器で叫んだ。
 キィーーーーーーン 拡声器の反響音が木霊する

我々は、断固要求する!!!

うわ!すげ~なおい!

いゃーそれは困るんだけれどなあ

 清水がやさしく諭す、ほうあの清水も困るという感情があるんだ。

だって、私だってここまで関わって来たのに、今までだって、4月から情報提供してるのにいきなり外野扱いなんて酷すぎないですか?キィーーーーーーーーーーーン

 うーん清水をやり込めてるよ、すごいね梶本さん、
清水は根負けしたのか

分かった、、確かに今までの梶本さんの情報提供者としての活躍は評価されるべきだ、佐藤先生には何とか言ってあげるから

えー!嬉しいやった!じゃ私の分も予約よろしくね、はなあ~

 田中は、しらけた表情で、ハイハイと手をヒラヒラさせ早く出ていけの態度ありありの感じになった。

コーキ私帰るけど、

えっ僕はまだ、仕事があるから、

えー、

いいよ今日はもう話し合うことも無いから解散で、詳細は追って知らせるから、

嫌でも

ほら、清水君もああ言ってるから、私数学で分からないところあるんだ、コーキ教えてよ!

ああちょっと押さないで、分かったよ、じゃあまた明日ね田中さん清水、

じゃねぇ~

梶本さん、ちょっと近いから、

ええ~?まあ、そんな細かいことはどうでもいいんですよ!

いや、そういう問題じゃないんだけど

 ドアが閉められた後、田中が、うつ向いている、田中ももう少し梶本みたいに図々しさがあればいいんだかな、よし香港に行ったら少しサポートしなきゃな。

清水あたしダメだ、全然近づけないや

大丈夫、策はあるから

本当?

ああ、まあ私、こういう事得意ですから

うう、私とこうきの事であんたのいかさまに頼るのはやだけど、しょうがないよね、はあー

フフ、そのため息は、お褒めの言葉と受け取っておこう。

 とは言えうまくいくかは神のみぞ知るだな。

第6話 白石菜月の件 香港編

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