第3話 梶本怜奈の件
朝のHRは退屈な暇潰しの時間でしかなかった。いつもは寝てやり過ごしたこの時間を僕はただひたすら昨日あった事を理解する為に当てていた。
二次活動、学校の問題児がやらかす前に未然に防ぐか事を大きくしないように穏便に済ます生徒会の非公式活動。
第3話 梶本怜奈の件
朝のHRは退屈な暇潰しの時間でしかなかった。いつもは寝てやり過ごしたこの時間を僕はただひたすら昨日あった事を理解する為に当てていた。
二次活動、学校の問題児がやらかす前に未然に防ぐか事を大きくしないように穏便に済ます生徒会の非公式活動。
成る程オーバードースでラリってる奴とか問題行動起こすやつに生活指導の先生や学校が表だって動けば警察ざたになる、だから生徒会の風紀委員の肩書で抑えこみあくまでも学校内部の問題として処理する、学校も上手い手を考えたもんだ。まあ危ない橋は清水に渡らせとけばいいし何とかなるかな、でも、
否が応でもショッピングセンターで昨日あった光景を思いだす。
あの永田とかいう3年の腕を掴んだ時少し抵抗された、あの時の目、あの表情、まるで狂った野生動物の目の様だった。
でも確かに狂った獸みたいに薄気味悪かったがまるで、泣きたい叫びたいのを必死に堪えているようにも見えた。何だろう、もう終わった事なのに何かもやもやした感じだけが気持ちの中に残っていった。
松川、この前龍がゴトゴトするⅣ買ったんだけどうちに来ないか?
声の主は関口だった。
え?プレステ4のあの新作?いくいく!
一瞬生徒会の事が頭によぎったがゲームの事も気になるし生徒会はたまに顔だす位でもまずくは無いだろうと思い、一緒に下駄箱がある出口までいくとそこに立っていたのは清水だった。
松君今日は遅かったね、遅いから心配してここで待たせてもらったよ
う~ん50%位予想通りの展開、僕って本当に待ち人きたらずの超逆だな。
それは、わざわざ有り難うね
僕はかなり皮肉って言ってたつもりだったけど、彼は眩しいばかりの作り笑顔で返してきた。恐らくイケメンの部類に入ると思うんだけどそんな笑顔は俺には必要ないからね、と内心思いながら関口に詫びを言って彼と別れ生徒会室へ。
僕は放課後が自由にならない事に多少いらついていたのでちょっとキツメの皮肉で切り出した。
で、今日は何すればいいの?ジャンキーの介抱、それともパンツの配達?
ああその事聞いたんだ、可笑しいよね。部活終わった後誰かとデートだったらしいけど緊張して漏らしちゃったんだって、近所のコンビニでパンツ買ってそれを届けて制服のズボンも汚れたっていうから俺の貸して何とかなったんだけど、俺は体育会系じゃないのに帰りジャージになっちゃたよ
何だか便利屋みたいだな
あっそう言えばそんな感じもするよね。まっ便利屋やって大学の学費貰えるなら、安いもんだよ。
そう清水は言うとふっと微笑んで、
そうは思わないか?
と男の僕でさえドキっとするような眼差しを向けてきた。なんで、紅潮するんだ僕は!女じゃないのに……そのあやふやな感情を誤魔化すように昨日あった事で疑問に思った事を聞いてみる。
あのさ、この二次活動の事他の人に言っちゃいけないって言ってたけど、佐藤先生にも言っちゃダメなの?
佐藤先生に相談するのは問題ない、先生は二次活動の指導役も兼ねているから迷ったら相談に乗ってくれるよ。公式に知ってるのは卒業した過去のメンバーと理事長、一部の理事、後事情があって転校した奴くらい。あとは現メンバーの俺、はな棒、そして松くん
そう言うと清水は一枚の紙を差し出した。そこには参加届けと記載され規定する成績で大学に合格した場合その卒業までの学費を支給する、但しこの活動について口外した場合は返済しなければならないと記載されていた。
僕はサインをして清水に手渡した。
ありがとう、あとようこそ2次活動生徒会へ
今日は田中が少し用事があって少し遅れてくるとの事だったので、僕は生徒会の年間活動について簡単に説明を受けていた。でも、その説明が終わると直ぐにやることなくなり、話すこともなくなってしまった。僕は今ならバス停でバス待ちをしている関口に追いつけると思い切り出した。
なんだか今日はやることが他にはなさそうですね?
まあそうなるね。1次活動だと書類作成は今のところやることはないし、学園祭関係の下準備もある程度できているから今手伝って欲しいことはないかな。う~んそれに2次はいつ来るかわからないし
じゃあ帰ります、すること無いなら帰ってもいいですよね?
ま~そんな他人行儀なこと、それにため口で良いって言ったろう?君の好きな歌舞伎揚げもあるからさ
と清水が巧みに人の要望をそらしにかかってくる。
僕は思わず、
え?本当?じゃあって!どうして俺の好きな物知ってるの?
清水はとぼけて笑い、
さあ?
そして、少し間を置いて
やっと、ため口で話してくれたね
え、いやその僕はあの~やっぱり帰ります
顔が紅潮してくるのが、自分でもわかる、それにこの人どこまで人の事知ってるんだ?出口へ近づこうとすると、ちょうどその時ドアが大きく開かれ田中さんが入ってきた。田中さんは僕が帰ることを察したのか、巧みに僕の進路をブロックし出口に近づかせない戦法を取ってきた。
え~まつくん、いっちゃうの~?
いや他にやる事が無いって言ってるから
もうちょっといてよ~、こいつと4月からずっと一緒だけど理屈っぽくてつまんないんだよね~それにいつも誰かに冷静につっかかっていらない問題ばっか起こすし
ほお~はな棒君、それを言うかね~
ああ!!なんだって、またそれをいったなおまえ!第一おま~が2年と衝突したから全員辞めて、1次活動やる役員がいなくなっちゃたんだろ!まつ君が来てくれなかったら2人でどうするつもりだったんだよ!
えっ?2人でってどういう意味ですか?
僕は思わず素直な疑問を口にした。
あっ しまった……
そう言うとバツが悪そうに頭を掻いて無言になった清水がいた。
清水の表情と口元から田中さんが言ったことは全て事実であると思われ、そしてその表情には少し後悔もにじんでいた。
沈黙がしばらく続いていたので、僕はもう一度同じ事を聞いてみた。
あの、今のどういう意味ですか?1次活動やる2年生が全員辞めたって
田中は少し顔を赤らめ、やがてそれはうなだれの姿勢に変化して小さな声でつぶやく。
あちゃ~まずった
田中!!反省!!まだこの時期に言うべきことじゃなかったのに!
ごめん、へ?っていうかゲス海が2年を親の七光りだの無能呼ばわりしたから出てってたんだろう!
事実を言って何か問題があったかな?
やや清水が挑発的に言い放つ。
そんな空気に耐えられなかったので、わざと話の腰を折る為に僕は当たり前の質問をした。
あの~って言うことは生徒会のメンバーは
うん実は1次2次関係なく、メンバーは3人
って言うことはここにいる人達だけね僕も含めて。
でも、それなら3年生に手伝ってもらえば
そう言うと、田中さんは少し諦めた表情を見せ、ゆっくりと彼らが把握している事実を話し出した。
松君も知っての通り、ウチの学校金持ちの子息様が多いからそもそも内申なんかあんまり気にする人多くないんだよね、だから去年の生徒会の2年の役員はゼロ、つまり3年の生徒会メンバーはいなかったんだよね、金持ちにとって最悪今まで通り多額の寄付金を積めば付属の大学にはいけるし、優秀な家庭教師つける人も多いし、だから生徒会やる人とか元々多くないっていうか~だから去年一時的に2次業務やる人がいなくなって一部のモンスターペアレントっていうの?それが騒ぎ出したんだって
だからか、なんとなく僕がここに入れられた理由が見えてきた、恐らくそのモンスターはかなりの金額の寄付金を学校に投じている訳だな。
でも、昨日他にも何人か役員みたいな人がいたけど
あれは~実は私の友達、書類が多すぎてどうにもならないから頼んで手伝ってもらったんだ。だからいつもあてにはできないんだ、でも!みんなで協力していけば、きっとうまくいうと思うんだよね!それにもうサインしたようだから、いまさらやらないとか絶対駄目だからね!もし駄目なんていったら
そう言うと、少し考えて顔を少し赤くしながら
い、いつも近くでつきまとってやるからね
と言いながらかなり近くに近づいてきたので、仕方なく出口とは反対方向に後ずさりしながら、
しょうがないわかりましたよ、はあ~
と渋々同意した。
そのやり取りを見ていた清水が少し苦笑しながら、
まあそうため息出さないで、歌舞伎上げの他に松君の好きな飲み物も用意しといたからさジンジャーエールで良かったかな?
とさも当然に僕の好きな飲み物も当ててきた。
え?なんで?どうしてそんな僕の好きなもの詳しく知ってるの?おまけにその表情から確信をもって言っているよこの人!!
あの
うん?
どこまで、僕の事知ってるんですか!!ここまで来ると、何か恐ろしさも感じるんですけど!
さあ?どうしてだろうね~感だよ、君ほどのシックスセンスは無いけどね
この人僕の事ストーキングしているの?……ひょっとして僕の事好きなの?
そうそう、俺の事まだフルネームも言って無かったね、遅ればせながら自己紹介をしとく、清水 海斗《しみず かいと》1年A組、役職はさっき田中が言ったとおり2年の生徒会長が辞任した為 生徒会長代理 に先月なったばかりだね、住んでいるところはちょっとここから離れている夏日部市、趣味は馬の観察と競馬その他多数!
そう言うと、その後に皮肉っぽく田中がつけたし気味に畳み掛ける。
そして、人をおちょくること実は馬よりも人間観察がもっと好き、イケメンで頭もいいからちょくちょく女子からコクられるけど、つれない態度でふるから今は松くん推測の通り、いろんな噂の渦中にある清水くんの自己紹介でした~パチパチ
っていうか、俺は別に普通だし、第一その噂を広げているのはお前だろう!
うるさい~ゲス海!お前に発言権はない!次は私の自己紹介を、田中って名前って~平凡だよね~そこでいじけてるゲス海と同じ1年A組、役職はまあこんなの私にとってどうでもいいんだけどね、副会長代理兼、会計だよ。趣味はスポーツ全般、簿記、あとは旅行かな、あとは月並みだけど甘いものだべること~あっでも歌舞伎上げも美味しいよね以上!
こら
そう言うと後ろから清水が田中を新聞紙を丸めたもので軽くチョップした。
なまえ
わかったよ~なまえは、ハナコ
えええ?何だって?聞こえないなあ~~もう一度大きな声で
田中は、観念したのか、半ば半なき状態の顔になった。
僕はそんな顔を見て、なんか自分が昔いじめられていた時と同じ気持ちが彼女の瞳の奥底から感じられた、だから思わず言葉が出ていた。
いいよ!別に無理に言わなくて!そんな事どうだっていいじゃないか!みんなで一緒に頑張ればそれでいいじゃないか!
うわ~だせ!!なに脈絡の無いこといってんの?恥ずかしい事言ってしまった~
そう言った後、僕はすっかり滑ってしまったことをものすごく後悔していたが、次の瞬間田中さんの泣き顔が、溢れんばかりの何か懐かしいものを見たような笑顔に変わった。
わあっうれしい~やっぱり!やさしいところは少しも変わってないね!それに引き換え、ゲス海ぐああ~
そばにあった、おもちゃのピコピコハンマーで田中は清水を連打しまくる。
え?少しも変わってない?
まあ悪い悪かったよ、でも松君も引き受けてくれる気になってくれたみたいだから結果的にいいじゃないか
たく!あんたの結果論はいつもうまくいくけど、なんか後味が悪いのが多いからやだな~
いや~それほどでも
別に褒めてないっての!
と田中がふくれっつらなのにも構わない様子で、清水はなにか閃いたようだ。
あそうだ、まあ今後の連絡網としてメールとか交換してもいいかな?
と切り出した。
僕は正直、休日とかに呼び出しがかかるのが嫌だったので気が引けたが、この雰囲気から断ることもできず3人でメールとかスマホの番号を交換し合った。
番号を交換し合っている時さらに清水は何か閃いたようで、確かにこの人にはあまり閃いて欲しくはないなと後ほど嫌というほど思い知らされることになるのだが、提案をしてきた。
ところで今日は特に何もやる事がないけど、田中どうだろう、どうせだから例の件でもやってみないか?もちろんこれが2次活動かどうかは、怪しいけどね
え~あれ~?いいよ別に、あの件は怪しいどころか生徒会活動ですらないじゃんか~
でも、今月の部費もかなり余ってて活動実績があまり少ないと二次予算減らされるから、なんか形式的だけでもやったほうがいいから、それに松くんに慣れてもらうためにもいいんじゃないの?
まあそうだね、だけど大丈夫かな?
チラリと僕の方を一瞥した時、少しからかい気味だったのは気のせいか?
そしてそう言うと僕を大きな瞳で見つめ、クスって笑い、
じゃあ、彼女に連絡するよ
そう田中が言うと、清水は一瞬躊躇の表情を見せたが、直ぐに気持ちを切り替えたようで、
いいよ
と言い田中にラインを送るよう言った。
それから僅か数分後、生徒会室のドアが開け放たれ一人の可愛らしい背が低い子が入ってくると、満面の笑みを浮かべ田中の手をぶんぶん握りしめた。
はなぁー嬉しいよ~ありがとー清水君との間取りもってくれて!
まあ、そんな大袈裟なもんじゃ無いけどね~ははは、まあ皆で何処かに遊びに行けたらなんてね?
田中が遠慮気味に蚊の泣くようなか細い声で言う事には全く意にかいさない様子で、そのちびっこい人はじぃーっと清水の方を見つめつつ、時々目をそらしてはを繰り返していた。そして意を決したように切り出した。
あのそれで、何処に連れて行ってくれるのかな
清水は予想していたかのようなばつの悪い表情を見せたが、すぐにいつも通りの爽やかな笑顔で応えた。
まあ最初は、仲良しグループ的な感じから初めない?その方が俺の方もリラックスして楽しめるんだけど、どうかな?
あの表情だと彼女には全然興味ないんだな、だけど恐らく田中さんの友人であるこのちびっこい人の気持ちを出来るだけ害しないように、でも下手に恋人扱いさせないように、頭の回転が早いからできる技だな。
そうですね~まずは、友達からですよね~
まあ、言葉は受け取りようだよね。
あれっ、ここにいるはなと清水君と比べて、……この人は?
あわてて、言葉の最後を言いよどんで僕の方をやや軽蔑して見る。
あっその表情、明らかに俺の容姿を馬鹿にした時のしぐさだ!昔俺の事をいじめた奴と同じ目だ。ムカつく!クソ!だから女は嫌いだよ、人を直ぐ外見で判断して!
あっその人は新しいウチの仲間になった松川考基くん、書記補佐だよ
はあそうなんですか、どうも梶本です
はあ、松川です
そう勤めて機械的に僕に挨拶を交わすと、その後は清水のそばから離れない状態になり、しばらく早口でどうでも良い様な事をしきりに清水に話していた。
僕は、結局することがないので手持ちぶたさになり、つぶやくように言った。
あの~やっぱりする事無さそうだから帰るよ
そう言って足早に生徒会室から立ち去ろうとすると、清水はさりげなく素早く出口をブロックして爽やかに
これからみんなでどこかで、夕ご飯でも食べにいかないか?
と持ちかけてきた。
え?でもいいよ、なんか邪魔なようだしさ、それに
僕がその後を続けようとすると、ちびっこい人に気づかれないように、何か細心の注意を払っている様子を見せながら、
まあ、そう言わないでさ~邪魔なんかじゃないよ全然!
と、やや大げさな言葉使いで僕に話しかけそして彼女たちに気づかれないようにさりげなく僕の袖をひっぱり、スマホの画面を見るように促してきた。清水のスマホにはいつのまにか何行かのメッセージが表示されていた。
”頼む!この子は、2次活動の重要な情報源の一人なんだよ、昨日の永田覚えているだろう?あれも彼女の広いネットワークがあったからできた事なんだ。”
えっ!こいつ、俺が一緒にどこか行くの拒否るの見越して、あのちびっこい人と話しながらこんな文章作ってたの?どんだけスパイなんだよ、海斗さん……
僕は、表向きの言葉遣いをしながらスマホで本音を返した。
ええ、でもお邪魔しちゃ悪いな~なんか
同時に本音送信っと。
”だったら、彼女を生徒会にでも2次業務にでも参加させればいいじゃないか?” そう言うと、彼も同じように表面的な事を言いながら本音で返信してきた。
全然!邪魔じゃないから、さっきみんなでって君も言ったろう?
”彼女はそういうのに興味がないんだ、いろいろと家庭の事情がありそうで……”
そうかあ、なんかここの生徒会も、このちびっこもいろいろあるからその事含めてか。
そうか、わかったじゃあ少しだけな
本当?来てくれるの?悪いね、何だか無理やり見たいで~田中、松君も来るって!良かったな!
ちっとも悪いと思ってないだろう、その表情は……
あっそうなんだ、大勢のほうが楽しいし良かった~
まあ、ちょっとだけならいいか、はあ~でも疲れる。