第2話 2次業務

 あの後ソファーの上でしばらく休み体調も戻ってきたので立ち上がって見ると、二人は相変わらず先ほどのように書類作りをしていた。

あの

ああ、もう気分はよくなった?


 清水はメールを作成しながら僕の様子を伺ってきた。

ええ、ありがとうございます。でもなんであんな嘘ついてっていうか、そもそも2次業務って一体なんなんですか?それとあの3年生は誰なんですか?


 
 清水はメールを作成する手を止め僕の傍にパイプ椅子を寄せてきた。

そうだね説明も無しに2次業務、いや正確な呼び名は2次活動なんだけどいきなり連れていったのはちょと刺激が強すぎたかなすまなかったね


 そう言うと清水は少し考えながらゆっくりと僕に話し始めた。

まず全部説明するのは長いから分かりやすいところから、あの3年生の氏名は永田翔太3年C組。彼は家庭と彼自身にちょっと問題があってね、さっきあそこであんな風に寝ていたのは


 またその目で嘘を付くのかよ、僕は気勢を制して先に言ってしまった。

ええ薬の飲み間違えなんかじゃない酒でもない何か、別の何かですね。なんで救護係りの人に嘘を付いたんですか?


 当惑の表情を一瞬見せたが直ぐにもとの温和な表情に戻りやさしく清水は、

えっどうして、わかるの?シックスセンス?

 と冗談めかしに言った。

分かるんですよ僕はなんとなく、目とか仕草とかでその人が本当の事言ってるかそうじゃないとか、いろいろ

ふ~んそうか~分かっちゃうのか、さすが佐藤センセ人選はさすがだね。そう、あそこでショッピングセンターの救護係の人に言ったことは全て思いつきの嘘、彼はオーバードース(薬物の過剰摂取)をやってラリってあそこで倒れたんだ

ええ!!


 僕は一瞬言葉に詰まってしまった。

驚いた?でも結構オーバードースにはまっている高校生は実際多いんだ

でもなんで生徒会の仕事でそんな事しなきゃならないんですか!訳分かんないよ!

その通り訳分からないよね、まあそこが2次活動と言われる理由でもあるんだけどね。だから表向きの仕事とはちょっと違うとも言える、俺も時々訳が分からなくなるときがあるその点は同意だな

そんなことを聞いているんじゃないんです、なぜ2次活動だか業務だとか訳わかんない事やんなきゃなんないんですか?

この学校が地元の政財界の子息が多く在籍していることは知っているかい?

少しは知ってます、その寄付で学校の運営がずいぶん助かっているってどこかで聞いたような

もっと正確に言うと、有力企業や政財界のちょっと問題のある子息を押し込めておく高校なんだよ。その見返りとして多くの寄付金を学校が受け取っている

じゃあ、清水君や田中さんもお金持ちの家の人なんですか?


 僕はちょっとひねくれて嫌味を言ってみた。

いや俺のところと、田中のところは普通の家庭だよ。あとこう言ったら怒るかな?君のところも普通の家庭だよね?


 ウチが普通か、そう考えた時僕の表情が少し硬直したのを感じたのか清水はさっきの続きを説明しだした。

2次活動っていうのは金持ちの問題児、おぼっちゃんお嬢様のやらかした後始末、事ができるだけ大きくならないように穏便にすませる生徒会の別の仕事なんだよ

内申だけでそこまでするんですか?

内申だけじゃないよ、もちろんそれなりの成績は残さないといけないけど特別奨学金だって出るそれも大学4年分のね


 ええ!?特別奨学金!4年分!僕は驚きの余り声がでない。

驚いた?そうだろうね、俺も最初聞いた時はびっくりしたよそんな簡単なことでって。でも実際結構きついときもあるかも。松君失礼だとは思ったけど佐藤センセから君の事は少し聞いている家庭の事も含めてね。松君は大学に行きたいんだろう?どう、正直今2次活動やってるのは生徒会でもセレブな家庭じゃない俺と田中だけなんだ、君が入ってくれるとローテーション制みたいの組めて助かるんだけどな


 そう清水が言うと、いつのまにか田中が背後に来ていて、

そう!そうれいいアイデアじゃんサンセー!こうき君よろしく~


と透き通るような目で微笑んできた。彼女いない歴イコール年齢の僕には眩しすぎる笑顔なので少しあかるさを調節して欲しいです。

もちろん、2次活動の事は誰にも相談してはいけない。表向きは生徒会の活動に真摯に取り組んだ評価として特別奨学金が出ることになっている、もちろん返済不要


 僕は心が少しだけ揺れているのを必死に悟られないように隠しながら、

はあ~ちょっと考えさせてください。


 と小さい声で答えた。

いいよ、でも1次活動は佐藤先生の命令だから、2次を断っても結局は生徒会にはこなくちゃならないけどね~内申は君も怖いだろう?


 うわ~何これ?この人爽やかによくこんな腹黒い事言えるね。

っていうことはなし崩しに2次活動に参加も有り得るって事ですね、今日みたいに

まあそういう事だね、さあもうそろそろ保健室で伸びてるお坊ちゃんがまともに戻ってる頃だろうから、お迎えのママの車も到着した様だし、俺は彼を送り出してくるよ、松くんは今日はもういいよ帰ってお疲れ様、初日から大変だったね!また頼むよ。


 そう言うと、清水は生徒会室から出ていった。
 清水が生徒会室から出て行った後ちょっとして僕は思い切って田中さんにあることを聞いてみた。

あの、田中さん

うん?何~女性恐怖症のこうきくん

いや、あの、今まで入学してからどの位こんな事してるんですか?

え?どのくらいって?まあ問題児といってもそんなに多くないよ、大体だけど1週間に1回か2回かな


 えええ!そんなに問題ばっかり起こしそうになってるの!

そうですか、はは、他にどんな事やらかしてきてるんですか問題児は?

そうだね~例えば~やっぱ一番多いのが恋愛関係で揉めてごちゃごちゃになったとか、つまんないところだと学校とか塾のテストのやまはりとか~あっそう言えばこの前もっと変なのもあったよ、清水がやったんだけど、うんちもらしたからパンツばれないように学校まで持って来てくれだって

そんな事までなんて幼稚なんだ

そう、小さいときからな~んの苦労もしない人たちはくだらないことで見栄を張って、出来ないことは他人に頼ろうとするんだよ


 そう軽蔑の表情を一瞬だけ作り

まあ宜しく! 仲良くやろうよ!!


と直ぐに弾ける笑顔になり僕の方を見てきた。ただその後田中さんはまた近づいてきそうになったので、僕は慌ててしまい

失礼します!


そういって生徒会室を出て走り出した。
 
 自転車置き場に行くと既に自分以外の自転車は無くなっていて時計を見ると19時過だった、ちょうど良いや今日の夫婦喧嘩も終わっているだろう。

 僕は自転車に乗り込み考える、

こんな事でいいんだろうか、何か信じられないでも奨学金か


そう思いながら、自転車を漕ぎ出した。
 校門を出ると県道沿いに自転車を北へ走らせ交差点を3つ越えると家に着く、家に帰ると母さんが泣きながら割れた皿を片付けていた、僕も無言で片づけを手伝う。

考基、ごめんね

いいよいつもの事だろ、親父は?

あの馬鹿ならまたどっかに飲みにいったよまったく最低の父親だよね


 その言葉に起こりそうになる複雑な感情を必死に押し殺し片づけを手早く済ませると、母さんが疲れた表情で聞いてきた。

夜食はどうするの?

いいよ適当にスパゲティーでも作って食べるから、母さんは寝てなよ

そう、悪いね


 スパゲティーを湯でなら考える。

まあ今日はどうせあそこあたりで正体なくなるまで飲んだくれているから、これ食べたら迎えに行くか

それにしてもこんな感じじゃ大学なんかとてもうちの経済力じゃ無理だな、親父の会社もつぶれないでギリギリでやってるからな。やるしかないか……2次活動

 慌しく松川が生徒会室から出ていきしばらくした後、清水は今日の2次活動が完了した事を佐藤先生に報告した後、生徒会室に戻ってきた。田中はちょうど、1次活動記録の入力を終わりPCをシャットダウンしていた。
 
 清水は田中におもむろに言葉をかけた。

良かったのか?松君にあの事言わなくて?

いいよ、どうやら私の事見ても全然覚えていないみたいだから

どう?6年ぶりに再会した初恋の人の感想は?

予想外だったよ、でもどうしてあんな女性恐怖症になっちゃたんだろう?清水は佐藤ゴリラからいろいろ聞いているんだろう?あいつの事

ああいろいろとな、それと彼については絶対この2次活動に必要だからなおまえも協力してくれよ、まあ策はいろいろと立てているから

はあ~なんか、あんたがそんな顔する時悪巧み考えている時だからヤダ

そんな事ないよ、ハハハ~じゃあ戸締り宜しく


そう言うと清水は生徒会室を足早に出ていった。

 一人残された生徒会室で田中馳名子たなか はなこは考える。やっぱり、こうくん私の事覚えてないのかな、まあこれから時間があるから大丈夫だね。

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