隼人

……

あけみ

……

隼人

青いな……

あけみ

うん……青いね……

希望の火葬を終えてからの俺とあけみは、バカみたいに空を見上げる日々が続いていた……。






あれから、希望の体を清めたあと、家に連れ帰った。





初めて家族水入らずの三人で、川の字になって眠った。





もう、いつまでも眠っていたかった。





しかし、父親として、希望を葬ってやらねばならない。





なんとか気力を振り絞り、両親の助けを借りながらも自分で手配を進め、身内だけで葬儀を執り行った。





そして、身を切る思いで火葬場に向かった。





その時のあけみの嗚咽と悲鳴が目に焼き付いて離れない……。




あけみ

希望……?

あけみ

いやぁぁあ!!!

あけみ

ああ……あ……あ、希望が……燃え……

あけみ

あ”あ”ぁぁぁあああ!!!!!!




残ったのは、細い細い針金のような骨がわずか。



火葬場の人が言うには骨が残っただけ「マシなこと」らしい。



空色の小さな骨壺。



かき集めるように拾った骨では到底、埋まらなかった。



隼人

出来ることなら、希望に青空を見せてあげたかったな……

あけみ

うん、そうだね……

隼人

結局、希望はNICUの天井しか見てないんだよな……

あけみ

うん……

隼人

……

あけみ

……

隼人

ニュースとかでさ……

あけみ

うん……

隼人

子ども誘拐して育てる犯人とか、バッカじゃねーのって思ってた

あけみ

うん、あたしも思ってた……

隼人

でも、今ならその犯人の気持ち、分かるんだ……

あけみ

うん、分かる分かる……

隼人

……

あけみ

……

隼人

……

あけみ

おばさんがさ……

隼人

ああ……

あけみ

「若いんだから、次は大丈夫よ」って言うけどさ……

隼人

うん……

あけみ

希望は希望なんだから、次じゃないんだよねぇ……

隼人

だよなぁ……

あけみ

……

隼人

……

あけみ

……

隼人

そういや、もうすぐ「メモリアル・ベア」来るってよ

あけみ

えっ! 本当に!?

隼人

ああ

あけみ

へへ……待ち遠しいな……

久しぶりにあけみの笑顔を見た気がした。


ほどなくして、「メモリアル・ベア」が届いた。



「メモリアル・ベア」とは、希望の出生時の身長と体重を復元したぬいぐるみのクマのことだ。





















部屋に戻るのももどかしいのか、玄関先で包みを開け、メモリアル・ベアを抱き上げるあけみ。







あけみ

うあー、希望が産まれた時の重さって、こんな感じだったんだ……











俺もベアを抱いてみる。










これが……希望が産まれた時の重さ……。










実際に希望が産まれた時は抱き上げることが出来なかった。










でも、こうして重さを感じることが出来たことが素直に嬉しい。








あけみ

ねえ、せっかくだし、このベアと一緒にお散歩しない?

あけみ

何となくだけど……希望が喜びそうな気がするんだ……

隼人

そうだな……

隼人

行くか!









それから俺とあけみはベアを希望に見立てて「希望ベア」と名付けた。










そして、それまでとは打って変わって、色んなところへと出掛けるようになった――。

















遊園地に行ったり……。









あけみ

ほら、希望、遠くまで見えるね~☆

隼人

パパ達のおうちは見えるかな~?

















ファミレスに行ったり……。









隼人

すいませ~ん!

ウェイトレス

はい、どうされましたか?

あけみ

子ども用のお皿とスプーン、お願いします

ウェイトレス

は、はい……少々お待ちください……?


















水族館に行ったり……。









あけみ

ほら、大きいお魚だね~!

隼人

なぁ、希望、どのお魚が一番美味しいと思う?

あけみ

もう! パパは本当に食いしん坊なんだから!

隼人

ママは本当にうるさいよな!

子ども

子ども

ねえ、あのお兄ちゃんとお姉ちゃん、どうしてぬいぐるみに話しかけてるの?

男の子の母親

見ちゃいけません……



















まるで希望が本当に側にいるようで、何を見ても、何をしても楽しかった。










それはたぶん……希望が生きていれば経験する「幸せそのもの」だったに違いない。










ベアを抱え、楽しそうに出掛けて行く俺とあけみを見て、いつも両親は何かを言いたそうだった……が、結局は何も言わなかった。










傍目から見ると、狂っているように見えたかもしれない。










しかし、俺とあけみにとっては……それが自然なことであり、必要なことだったんだと思う。










そんな日々がしばらく続いた。


























四十九日を終えた日、いつものように「希望ベア」と河原へと散歩に出掛けた。













そして、あの日あけみが助けた女の子とその母親に再会したのだった……。















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