モニターの酸素濃度が100%であることを確認した時、息が一瞬止まった。



あけみに動揺がばれないように、大きく息を吸い……そして、吐いた。

看護師

お湯とガーゼを用意しましたので、希望ちゃんの体を拭いてあげてくださいね

希望は小さな体をパタパタと動かしていた。



それは体全体で喜びを表現しているように、俺には思えた。



浮腫(むく)みによって瞼が腫れぼったくなりながらも、その下から見える目が……この上なく可愛い。



「ねえ? 今から何かしてくれるの?」



そんな期待の籠(こも)った眼差し。

あけみ

希望、お体を綺麗にしようね

あけみが体を拭いていく――。



気持ちよさそうに希望は目を閉じる。



まるで、温泉にでもつかっているかのような……幸せな笑顔。

隼人

希望、どうだ? 気持ち良いか?

俺も希望の体を拭いていく――。



丁寧に、丁寧に。



希望は喋らないけれど、嬉しがっているということだけは伝わってきた。

















でも、時間は止まってくれない。










やがて、希望は呼びかけても目を開かなくなった……。










そして、手も足も動かさなくなっていった……。










モニターの数字は少しずつ下降していく……。










希望の額を撫で続けた……。









手を握り続けた……。









足をさすり続けた……。









でも、時間は止まってくれない……。









やがて、看護師さんは静かに言った。








看護師

最後に……希望ちゃんを抱っこしてあげてください

















ああ、ついに……。










ついに、来てしまったんだな。










最期の時が……。

















俺は言われるまま、希望を抱っこした。










最初で最後の抱っこ。










思ったより、重かった。









隼人

希望……よく頑張ったな……

















……色んな管を繋がれて……










……注射もいっぱいされて……










……本当に苦しかったよな……










……ごめんな……










……ごめんな、何もしてあげられなくて……










……ごめん、ごめんなさい……










……本当にありがとう……











……希望、大好きだよ……




















俺はあけみに希望を託す。









あけみ

希望……大好き……

















あけみ

世界で一番に大好きだからね……


















あけみ

ママを選んでくれて、本当にありがとう……


















あけみ

よく頑張ったね……おやすみなさい……


















そして、















希望はあけみの胸の中で、















眠るように息を引き取った。


























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