第1話 帰宅部失格

 隣の席に座っている関口はよくしゃべる奴だといつも思う、悪い奴ではないが自分自身の自虐的なことも含めて大声でいつも話す。
 今日も放課後教室を出ようとした時に、僕の制服を後ろからグイッとひっぱりいきなり大声で話しかけてきた。

おい、松川ちょっと話せないか?

なんだよ、これから帰っていろいろやる事あんだよ

ああ~あれか、ヒヒ、 ピー(伏字)な動画見るとか

あのな!

そう思わず大きな声が出ると他のクラスメートがびっくりしてこちらを見ている。これ以上大声で余計なこと言われたら何誤解されるか分からんからな、ちょっとだけ相手してやるか。

馬鹿いうなよ、分かったから、何だよ

なあ、松川、おまえなんで女と話さないの? ひょっとして女苦手?

なんだよ、いきなり……ね~よそんなこと、ただ面倒なだけだよ

そうかあ?でもお前だけだよあれだけ女避けてるのは、いくらなんでもあんな避け方だと返ってハブられていろんな噂立てられるぞ?

いいよどうせ俺は……

そう言うとうつむいて何も言えなくなってしまった。

 女性と関わるのが苦手だった、自分でもその原因はだいたい2つだと分かっている。ひとつは 父親と母親の不仲である。
 物心ついた時からほぼ毎日父と母は喧嘩ばかりしてきた、原因は父の酒癖の悪さだ。そのため母の愚痴ばかり聞かされてきた僕は母を気の毒に思うと同時に、自分が選んだ相手じゃないか勝手だな!俺は二人の間に生まれたくて生まれてきたんじゃないのに。 

 そんな、どうにもならないむかつく感情が頭をもたげて来るのがすごく嫌になってくるし、気の毒な母の立場を考え必死でこの自分勝手な考えを押し殺してきた、1人っ子だから誰にも相談できなかった。

 だから高校生ともなれば自然とみんな誰が気になるだの誰と誰が付き合ってるらしいとか、どっかでデートしたらしいとかの浮いた話がよく出てくるが、自分はとてもそんな事に加わる気分になれなかった。

 

このどうしようも無い女性への感情が気持ちの奥底に居座って、誰かと仮に付き合っても楽しくやれるなんて想像できない、それに不細工な僕の相手など誰も相手なんぞしてくれる訳がない……そんな考えがいつのまにか意識にこびり付いて離れなくなってしまった。

 そして、それとは別にもうひとつ子供の時に経験したある出来事が女性と話す苦手意識の遠因となっていると自分でも思っている。

 小学生のとき図書委員をしていた、図書委員は面倒な雑用係りでありクラスでいじめられていた僕は無理やりその委員をやらされていた。一切の抵抗は許されなかった。

 いじめられていた原因はメガネ。小さい頃から視力が0.01の為度が強いメガネをしてたから付いたあだ名がメガネザル、子供はどこまでも純粋で残酷だ。その上家庭での重たい雰囲気が顔に出てしまっていたからなのか目つきが悪い、暗い、睨んでいるみたいとよく言われた。 

 そんなせいもあってクラスメートともあまり話をしなくなり、それが仲間はずれに拍車をかけていく負の連鎖になっていった。

 そしてそんな自分の置かれた状況を担任が助けてくれるはずもなく、その後ある事情から転校を経ても自分自身の置かれた状況に変わりがなかったので、転校先でのポジションも前と同じ図書委員だった。

 図書委員の仕事は放課後クラスの学級文庫を返却しリクエストがあがっている本をクラスに持ってかえるのだが、クラスが4階にあるので本の持ち運びが重たかった。

 そしてそれは転校前のある冬の日に起こった。
 僕は図書室で本の返却整理をしている時、おそらく1学年下くらいの女の子に声を掛けられた。

この本どこにおいたらいいの?

ええと、それは確か人物名鑑の後ろそっちの本は科学図鑑の前だよ

 3年以上も図書委員をやっていた僕は本の位置を熟知していたので、彼女の持っていた本をすばやく置き直していった。

すご~い!どうしてそんなに詳しいの~?

いや、それは

 クラスで仲間はずれの罰ゲームの代わりに図書委員3年もやってるとは言えないよね。

 それからどういう訳かその子と一緒に本の整理をすることが多くなっていった。そしてそんな事が何回かあった後ある日、詳細な経緯は忘れたが本の整理をしている時その子に後ろから抱きつかれた。

 その瞬間何なのか分からなくなって頭の中が真っ白になって、意味が分からなくなった。ただ覚えているのはその子が赤い長袖の服にチェックのズボンを履いていた事と、その時顔が紅潮してくるのが分かって、半ば強引に振りほどいて図書室に本をそのままにして出て行ってしまった。

 その事だけならびっくりしただけで済む話だったけど最悪だったのは、慌てたのでランドセルを学校に置き忘れ帰宅してしまい、用務員のおじさんに後で届けてもらった事、その翌日ランドセルを忘れた事がどういうわけかクラス中に知れ渡り僕はますます仲間外れにされてしまった事だった。彼女の名前は覚えていない、っていうか、聞いてもいないと思う。

 その数週間後、彼女と図書室で会うことが無いまま僕は父親の仕事の関係で隣の県の小学校に転校になった。子供の頃のちょっとした刹那系の思い出のひとつだ。

 まあそんなこともあって小学生の時から今まで女子と話すのは緊張してしまいできなかった、いや1度だけ中学の時女子と話そうと試みたが、緊張しすぎてどもってしまい気持ち悪い扱いされたからそれ以来女子とは会話をしない事にしている。

 変な意識するなと関口を含めて他の男友達には言われるけど、これはもう無意識なんでコントロールできない。そんな事をぼう~と考えていると関口が僕のおでこにデコピンを食らわしてきてふっと我に帰る。

まあ、お前がそうなら仕方ないけどな。でも俺は少なくともお前の事分かっているつもりだから、何でもってわけじゃねえけど相談してくれよ!じゃあな、おれバス来たから!

そう関口が言った時、いつまにか僕たちは校門から出ており、関口は隣町行きのバス停に向かって走り出していた。

ああ、ありがとな

 そう関口に小さく言葉を掛け、その言葉が聞こえたかは分からないが関口はバスに乗り込む時、片手を上げてバスに乗り込んでていった。

 僕の名前は松川 考基まつかわ こうき、近隣の公立高校が全て統廃合により消失してしまったため、交通費がかからない地元の私立高校に進学した。

 近い将来の目標として高校卒業後大学はなんとか行きたいと思っているけれど、家がそれほど裕福でもないので奨学金を狙わないと相当厳しい、だから選んだ選択肢は帰宅部だった。少しでも入試準備に放課後の自由な時間を充てるため部活動などやっている暇はない。

 ただ帰宅部として学校から戻り2階の自分の部屋で1人になっても、学校とは別の意味で騒がしいことには変わりはなかった。

 夜7時ごろに建設会社を経営している父親は現場周りを終わり、いったん自宅に戻ってくる。近所の飲み屋に行く為に服を着替えていると母といつも口論になる。

この前また、あそこのバーから請求書が来てたけど、どうしてこんな金額になるまで飲み歩く必要があるの?会社のほうもうまくいってないのに

うるせえ!付き合いがあるんだよ!

 そんな怒号を聞きながら耳栓をして教科書を開く。でも次第に物を投げつける音が聞こえてきたり、怒鳴り声が次第に大きくなってくるとそれも意味が無くなってくる。

 そっと忍び足で下の階にいってみて二人の様子を見てみる。大丈夫あの顔つきなら今日は母さんの事殴らないな、そう感覚でわかる。小さい頃から父親の顔色ばかり見てすごしてきた事と、小学生の時からいじめられてきた経験から人の気持ちの動きが表情やしぐさ目の動きから細かく分かるようになってきた。別に自慢でも誇りでもないけど、なんとなく身についた嫌なスキル。

 親父が母さんを殴らないことがわかると少しだけ安心してホットする。

しょうがない、いつものところにいくか

 二人に気づかれないように、そっと裏口から家を出て自転車にまたがり近くのファミレスに向かう。レストランについた後はいつもどうりドリンクバーを注文して教科書開いて思う、なんかなんなんだろうな、家があるのに……惨めだ。思わず独り言になって口に出る。

帰宅部なのに、家にいれないなんて。。

 気持ちが少し、痛くなってくるのを思いっきり甘くしたコーヒーを飲んでごまかした。


 そんな感じで高校入学からの日々を送っていたわけだが、中間テストが終わった6月の初め僕の高校生活を180度変えてしまうような出来事が起こった。

 その日も授業が終わり帰宅の準備をしていると、校内放送がかかり職員室に来るように自分の名前が呼ばれた。何も呼ばれる覚えが無いけれどなんとなく怖かった、背中が少し汗ばんで来るのが分かった。

 なんとなく足取りの重さを感じつつ教室を出て職員室へ向かうそしてドアの前で少したたずむ、職員室のドアを恐る恐る開けると生活指導の佐藤先生が何か資料を読んでいた。担任ではなかったが顔が怖い現代国語の担当佐藤先生、通称サトゴリラ。
 佐藤先生は僕に気付いて資料から顔を上げると僕に椅子をすすめ

松川、よく来たなまあ座れ。

と意外にもやさしく言ってきた。僕は緊張していたので、

はあ、失礼します

と小さく蚊のなくような声でいい椅子に浅く腰掛けた。できるだけ手早く済ませて立ち去りたい、その気持ちで一杯だった。

 佐藤先生は顔がいつも赤ら顔で怒り顔の人相、だからいつも威嚇しているように見える。そして実際指導に厳しい先生なのでこちらも緊張して紅潮してくる。

あのな、今日は話があってな

なんでしょうか……

小声で聞いてみる。その間頭の中の脳細胞が "何かやらかしたか俺は?"のワードで全速力で検索を掛けている。

おまえ部活はどこにするんだ?

おっと予想外の質問、そんな設問はグーグル先生でも回答不可です。

え?中学と違って高校は自由って聞いたんで今のところどこにも入るつもりは無いんですが

相当動揺している為、声が少し裏返ってしまった。

なんだと!お前は帰宅部か!まあいい、どうせそんな事だろうと思ったからお前は生徒会に入れといてやったからな、感謝しろよ!今日これから挨拶に連れていってやるから

ええ?あの、勉強の時間が取れなくなってしまうんですが……それに生徒会の役員って、選挙か何かで決めるんでしょう?

大丈夫だ、おまえは書記補佐として生徒会のサポートをしてもらう、選挙など補佐かだら不要だ。お前のタイピングスキルは相当なものだって関口が言ってたぞ。

チッ、関口の野郎~余計な事を、と心の中で舌打ち。

あと勉強については お前ならこの前の中間だって、全ての科目で100点に近い点数だったじゃないか

いや、それは山勘が当たったのとこの学校のレベルが……

 正確に言うと山勘ではない。だって先生の顔見ればテストに出るところとか大体分かるから、でも模試や入試では役に立たないこのスキル。

なに~!

血管浮き出だして怒るのやめて、怖いから~

いや、なんでもありません

 結局内申の内容を人質に取られ放課後 3階の生徒会室に連行、いや連れて行かれ自己紹介をさせられた。

 生徒会の部屋は、3階の西側にあり佐藤につれて行かれ中に入ると何人かの役員らしき生徒がパソコンの前で書類を作成していた。

よお、清水悪いな忙しいところ

ああ、佐藤先生、

 そう、佐藤先生が役員と思われる1人に声をかけると身長がやけに高い清水と言われた生徒に書類を何枚か渡して僕を部屋になかば強引に招きいれた。

へえ~この子が、わかりました。じゃあウチで引き受けますんで

ああ宜しく頼むわ、じゃあな松川しっかりな!

 そういうと佐藤はドアをやや強く締め出ていった。ドアが閉められると僕はいきなりの展開に何を話していいやら全く訳がわからず、挨拶だけでも形だけしようとしどろもどろ自己紹介をしてみた。

あの、松川です

知ってるよ松川君何人から聞いてるから、あと同級生だからため口でいいよな?

 えっ、何人かって誰?先生以外に俺の事知ってるやついるの?

 動揺して思わず口がうまく回らず変な感じで

えっ?同級生?1年なんでしゅか?

 うわ、ダセ~!なんですかとタメ口で言おうとしてへんな赤ちゃん言葉になっちまった。 

そういったあと、清水はあっけに取られ

へ?しゅか?

 その後、生徒会室の奥のほうで書類を作成していた
別の女子と思われる役員の笑い声が大きく聞こえてきた

ハア?アはははははは~なにそれ~1年なんでしゅかだって~ヒィッ~ヒィヒィ~面白い~アアッ!ああ~書類が!!

すかさず、清水が奥にいた女子役員をたしなめた

おい、そこ笑い過ぎ!しかも他校に出す書類しくじってるし、それお前が全部書き直しな。あとちょうど良いよちょっとこっち来いよ、新しい人佐藤センセから紹介してもらったから

は~い

田中、紹介するよこちら松川君、松川君ここにいる笑声に品が無いのが田中、下の名前は怒るから後で自分で聞いてね

ゲス海、そんな事言って後で覚えてろよなあ~さてあなたが、松川くんね~よろしゅく~お願いしま~す。あとさっきの書類判子ずれっちゃたから作り直し手伝ってちょう~だい!

はい、あのよろしくお願いします

 顔が紅潮してくるのをごまかそうと、少し体を横向きにして隠しながら早くこの瞬間が終わることを、切に願う。

あれ、なんか顔が赤いよ、どうしたの?ねえ?

いや、なんでもないです

 頼む、これ以上話しかけないで!ついでに近い!
 それにしても、この田中さんって大きな瞳でまるで外人みたいな色白の顔、でも肩までかかった髪の色が綺麗な黒、ハーフじゃない感じでなんだこの人は。

変な子だね~

そこへまるで僕の事を全てお見通しのような感じで、清水が

おい、ハナ棒そのくらいにしとけよ、これ見て


その瞬間、田中の顔色が、怒気に満ちた阿修羅のような表情になり、

おまえ、清水、その呼びかた止めろってアレほど言ったろう!!

あっあの目は、清水に殴りかかるぞ、本気だ!咄嗟にそう思った。田中のこぶしが勢い良く、清水の顔に向かおうとした時

今はその件はいいから

 そういうと、さっき佐藤先生が清水に渡した書類を田中に半ば強引に押し付けるように渡した。

 田中さんは渡された書類の最初の何行かを読んでいると表情から落ち着きを取り戻したようだった、そしてその表情は少しだけ悪意に満ちた笑みを浮かべる顔つきに変わった。

えっ、ああそういう事分かった、ふ~ん女の子と話すのがへえ~だから佐藤ゴリラがここに押し込んだのか納得~

分かった、では~私はあまり近づきすぎないほうがいいよね~松くん?下の名前は何?

 ええ!女の人と話すの苦手って分かっていただいたんじゃないの?
 でも、さっき本当に清水に殴ろうとしたからなここは穏便にさっさと済まそう

考基(こうき)です

へえ~こうきくんだね~、私は田中、宜しくね

はあ、宜しくお願いします

 人には下の名前聞いて、自分は言わないのね。
 そういうと田中は奥の机に戻っていった。

これから、生徒会の表向きの簡単な仕事から教えるから、まあ最初は、手書きの書類のPC打ち込みとかになるから、緊張しないで

わかりました

表向き?まあ、形式的って事かな?

そうだな、取り敢えず今日はあそこに1台空いているデスクトップがあるから座って電源入れて、この書類の書式が古くなったから、本年度用に変更してくれるかな?分からないところがあれば聞いてくれればいいから。

 そういうとA3位の書式がたくさん挟まったファイルを渡され更新作業を頼まれた、まあだいたい予想していた通りだな、でもいいか、暇な時はここで勉強して時間をつぶせば親父と母さんの喧嘩を聞かなくてもいいからな。
 そう思い書類の更新作業を始めてから1時間くらい経過した時、清水が自分のスマホの画面を覗いてとたんに表情を変えた。

あっ、チッ!またか、田中ちょっと来てくれ通常業務は中断だよまただ

ええ~?!また?ひょっとしてあいつ?困ったな~これ以外にも書類作りがてんこ盛りで残ってるのに~こんなときに2次業務なんて~清水1人で行ってよ~

だめだよ、第一もともとは田中のLINEつながりだろう?ちょっとは責任感じてくれよ!

分かったよ

 そうしぶしぶつぶやくと、田中は何かひらめいたようにこっちに顔を向け僕に話しかけようとした。

 僕は咄嗟に何故か分からないが、彼女の表情を見た途端無意識に声が出てしまった。

いやです、代わりに介抱なんか!

えっ?

えっ?

どうして、今からあなたに頼もうとした事分かるの?

いや、俺、今なんて、自分でもなんでこんな事いったかわからないや……

 そういうと、顔が硬直して何もいえなくなってしまった。清水はその様子をなんとなく察したか急いでいたからか場を取り繕ってくれた。 

いいよ、今日は急ぐし、俺がやるから

わかった、じゃあこうき君と私は立会いね

そうだなじゃあいこうか、田中タクシー呼んで

 この人たちは何をしようとしてるんだ

さあ松君もくるんだよ

裏口まで行くから、今日は靴もってきてないよね?

えっ靴?どうして靴なんか持ってこなければならないんですか?

裏口からタクシー乗るから

 へ?なんで裏口なんだろう、まあ取り敢えず靴を取ってくるんだな。

下駄箱から靴を取って裏口までくると、タクシーが止まっていた。既に清水と田中は乗り込んでいたので後から乗り込むと、清水は徐に

柏木町のショッピングセンターまで

 そう運転手に告げると車は街の中心部に向かって走り出した。

 ショッピングセンターに到着すると、一角に人だかりが出来ていた、人ごみを分けて入っていくと、既にセンターの救護係りの人が僕達と同じ高校の制服を着ているネクタイの色から3年生と思われる生徒の介抱をしていた、ただ介抱しているといっても、椅子で押さえ付けらた上からペットボトルで水を与えているだけだったが。


 その3年生の男子はだいぶ暴れた様子で息が荒かった、ちょっとでもスキを見せると、目が血走っていて今にもまた暴れだしそうだった。清水は近くにいた、責任者と思われるスーパーの救護係の人に声を掛けた。

すいません、ご迷惑をお掛けしました、同じ高校の生徒会綱紀委員長の清水と言います

 そういうと、名刺を1枚出してその人物に渡した。
 ええ!高校生で名刺?すごいね生徒会って名刺持てるの?知らなかったよ。

ああ、同じ高校の生徒さんね、この子なんだか奇声を上げながら非常階段上っていこうとしたから、うちの店員が止めたら暴れてね、椅子で取り押さえてしばらくしたらようやく動かなくなったんだけど、今救急車とか警察呼ぼうか迷ったもんだから、しかし、この子酔っ払ってるの?目つきが変だよ??


そう怪訝そうに救護係りの人が言うと

いや、ちょっと持病がいろいろあって薬を飲み間違えたらしいんですよ、さっき家族の人から電話があって、薬を待ちがえて持たせたと連絡が入りまして

ああ、そうなんだ、それで、へえ~最近の生徒会さんはそこまでやるの?大変だね~じゃあここは任せていいかな?

清水と応対した40代後半と思われる救護係の責任者の男の人は最初は少し怪訝な表情をしていたが、清水の毅然とした態度に信頼感を寄せ始めているのが表情から分かった。

どうもすいません

じゃあいくか、松川君も、悪いけど、彼の肩もってくれる?

 さっきまでは今にも暴れだしそうな感じだったその3年生は、流石に暴れ疲れたらしく、少しだけ落ち着いたように見えた。しかし、二人で男子の肩をつかんだその時一瞬悪寒が走った、恐る恐る目を見ると僕に敵意をむき出しにしているのが直ぐに分かった。

 やばい殴られる!とそう思ったその瞬間、清水はいつの間にか注射器のようなものを取り出し、彼の右腕を捲り上げて手際よく何かを注射していた、その後直ぐにその男子生徒はぐったりとおとなしくなっていった。

さあ、もう大丈夫だから、いこうか

はっ、はい

あと、田中は彼の持ち物をひとまとめにして持って来てくれ

はいよ!


3人で目つきがおかしいこの氏名不詳の3年を車に押し込むと、タクシーはその場を急いで走り去った。

タクシーの中でいまいち事態の展開を読めていない僕の戸惑いに気付いたのか、清水はやさしそうな作り笑顔を浮かべて

有難う、助かったよ

と言うとその後続けざまに運転手さんに

すいません、高校に戻ってもらえますか、

 と伝えた、しかしその直後温和を装った清水の表情はどこか恐ろしげな表情に変わり生徒会室にいた時とは全く別の表情になっていた、そしてその冷たい表情のまま携帯を取り出すと、どこかに電話を掛けて

今ピックアップしました、しばらく休ませてから帰したほうがいいと思うので保健室の鍵をいつもどうり開けておいてください

それだけ短く低い声で言うと電話を切ってしまい、沈黙していた。
 20分ほど走り、タクシーはまた学校の裏口につけられまだ正体が戻っていない3年生を保健室まで運びベットに寝かせやった、なんだか訳分からないこと言い続けている。


清水は、冷静に状況を踏まえているようで

ここでちょっとやることがあるかから先に生徒会室に戻っていいよ

あっ分かりました

っていうかどうして同い年なのに、ため口きけないんだろ俺。

 生徒会室に戻ると田中さんは僕の緊張をほぐそうとできるだけ明るい表情で出迎えてくれた、やさしいんだな。

よっ!初日から、2次業務とは!あんたも運が悪いね!


といって、近づいてきた。

はい麦茶をどうぞ、暑かったよね~

いや前言撤回!緊張ほぐすつもりないでしょうこの人!

ありがとうございます、あのうすいませんちょっと近いです、もうちょっと

ええ~これくらい普通だと思うけどね~

 そういうと、意地悪にもっと近づこうとしてきた。身長は僕よりも5センチくらい高いかな、なんか綺麗だなだけどやっぱり無理!

いや、これ以上は頼みます目の前がモノクロになってくるんで

はい?何言ってんの?

ああ、駄目だ目の前がやっぱりモノクロになってくる、そう夏の炎天下でやる全校朝礼で何十分も立たされて急に気持ち悪くなって倒れてしまうあの感覚。もうだめだ自分の体重が重く感じる、シャットダウン!! 僕はその場でがっくり崩れるもう知らない。


ちょっとまつくん!!まつ君!

 なんだかどこかで声が聞こえてくる、ああそうか田中さんに近づかれ過ぎて倒れたんだ。気が付くと、生徒会室の奥にある応接セットのソファーにいつのまにか寝かせられていた事に気が付いた。傍には清水が座っていた。

あああ、すいません

あたふたと起き上がろうとする僕。ああダサすぎ!嫌になってくる

いいんだよ、そのままもう少し横になっていた方がいいよ。それよりすまなかったね、佐藤先生からのレポートを読んでいたのに配慮が足りなかった。あと田中!こっちにあまり近づき過ぎない程度に来て謝れよ!

ごめんなさ~い、でも~まさか本当にあんたそんなに女の子に免疫ないなんてこれからどうやって社会生活していくのかね~

こら!お前はいつも言いすぎだぞ!

は~いごめんなさい~では私は奥で1次業務に戻ります

ああ、まあ今日は緊急で2次が入ったから時間も遅いしやれるとこやったら帰っていいよ

は~いでは田中は適当にやって帰りま~す

 田中はそういうと奥のほうで書類の作り直しを再開した、清水は何か書類を見ている。

 あの3年生は何なのだろう?っていうかこの人たちは何でこんな事をしているんだろう?あとさっきショッピンセンターで清水が救護係の人に言っていた時に起こった疑問がまた沸き起こる。

いや、ちょっと持病がいろいろあって薬を飲み間違えたらしいんですよ、さっき家族の人から電話があって薬を待ちがえて持たせたと連絡が入りまして

 あの説明をしたときの目つき、あれは本当の事を言っていない目だった。なぜあんな嘘をついてまで彼をかばったんだ?2次業務ってなんだ?

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