集合時間に現れたミドリ先生は僕らの様子を見るなり、告げた。
勝敗を確認しようと思ったけど……その様子じゃ、勝者は一目瞭然ね
集合時間に現れたミドリ先生は僕らの様子を見るなり、告げた。
……
……
……
……
……
浮かれている茜と意気消沈している赤王子と青執事。
たしかに一目瞭然だ。
すると、
……だ
赤城くん?
イカサマだ! 難関破りはイカサマをしやがった! あんな短時間で茜を見つけられるはずねえ!
ーーーーイカサマとは言いませんが、私もタネが知りたいところです。アラタさん、何故茜様の居場所がわかったんですか?
突き刺さる二人の視線。
「タネ」って言えるほど大層なことでもねーけどな。
と、申しておるが?
……「タネ」なんかねーよ。ミドリ先生も言ってたろ? これは「どれだけ茜のことを想ってるか」競うって
言っちゃ悪いが、茜に対する想いは誰にも負けねえ!もちろん、難関破り! お前にもだ!
アラタさんに想いが負けないのは同感です。茜様への想いは私が一番です
おい、なんで僕も茜が好きみてーな流れになってるんだよ。
まずはそこを謝れ。
アラター……
お前はお前で不安げな顔して僕に救難信号を出すんじゃないよ。
また、昨日みたく二人の視線が鋭くなっただろうが!
わざわざ言われなくても……
わざわざ言われてなくても助けてやるっつの
えっ?
……うん!
おー♪
がんばれっ、アラタくん
あと、神様。
アンタはアンタで楽しみすぎだから。
ミドリ先生は誰よりも可愛いから許す。
二人には申し訳ないが……
間違いなく茜のことを一番想ったのは僕だ。だからこそ、僕は勝てた
なにぃ?
想いでアラタさんに私たちが劣ると?
そもそもお前らは勘違いしている。競っているのは「想い」だが「想いの強さ」じゃない
周りくどいぜ、難関破り。つまり、何が言いたいんだよ?
ミドリ先生の「想い」を言い換えるとだな、どれだけ「茜のことを考えて、茜の行動を予測できるか」なんだよ
茜の行動を……
予測できるか、ですって?
そう。ちなみにヒントは昨日の質問タイムのときに言ってたぜ?
ヒント?
「学食のおばちゃんが作るパンは好きだな! メロンパンとかカレーパンマンとかな! 食べれなかった日には食べたい日に取りおいてもらうくらい好き!」……そう茜は言っていたのを覚えているか?
確かに言ってたが……そりゃ、茜の好みの話だろ?
私も覚えていましたが、それが何故ヒントに? だから、学食にいたとでも?
「茜はパンが好き」という情報とあともうひとつ得られる情報がある……それは「茜と学食のおばちゃんは頼まれごとを聞いてくれるくらいには仲が良い」ということだ
……
で? 茜がパンが好きってのと学食のババアと仲がいいってだけで居場所がわかったのかよ?
あぁ。十分すぎるほどの情報だ
茜から居場所は聞いてないが、ルール上僕から赤王子と青王子のことは伝えてよかったからな。だから茜は昨日の時点で赤王子は身体能力を、青執事は人脈を使うことを知っていた。それ故に茜も下手な隠れ方では見つかってしまうことも当然知っている
そして、僕は一昨日の茜が赤王子と青執事と出会った時点で好みのパンを食べれていないことを知っている
食べれていないパン。
頼みごとのできる仲のいい学食のおばちゃん。
そして、下手な隠れ方ができない状況。
この要素からおそらく、こんな茜はやりとりがあったと推測される。
ーーーーというわけなんだ。おばちゃん、匿ってくれる?
おやおや、茜ちゃん随分モテるようになったじゃないか。3人の野郎に追いかけ回されるなんて
からかってないで助けてようーー
ははは! いいよ! 茜ちゃんにはいつもパンを買ってもらってるからね! ただし
ただし?
はい! マスクと帽子と割烹着! 働かざるもの食うべからず! さすがに調理はさせないけど、厨房で皿洗いとかできることは手伝ってもらうよ! あと、11時からのパンの品並べもね!
ありがと、おばちゃん! あと、この前食べらなかったパン、とっといといて!
おやおや、ほんとに食い意地が張った娘だねぇ……
ーーーーみたいなやりとりがあったのは、結果が証明している
くっ
つまり、私たちの行動が結果的に茜様の行動を限定させたと?
悪いが、そのとおりだ。パンが並ぶ11時までお前らは必死に茜を探し回っていた。おかげで茜がまだ見つかっていないと分かったし、僕は勝利を確信できた
勝負はあったみたいね。二人とも何か他に言いたいことはあるかしら?
く……
くっそおおおおおおおお! 覚えてろ、難関破りぃいいいいいい!
そう言って赤王子は荒々しく出て行った。
……茜様にひとつ聞いてもいいですか?
ん?
11時以降は変装してるとはいえ、外に出てるわけですよね? 私たちが先に見つかる可能性は考えなかったのですか?
うん! だって、
アラタなら絶対だれよりも先に見つけてくれるって信じてたもん
おー、頼られてるのぅ、使徒よ♪
ちんちくりんが勝手に買いかぶってるだけだ
……
はははっ、完敗ですね……アラタさん
ん?
茜様をどうかよろしくお願いしますーーーーそれでは
そう言って青執事は静かに立ち去っていった。
言われなくてもよろしくしてるっつーの
やっぱり、アラタくんが真っ先に茜ちゃんを見つけたわね。私の目に狂いはなかったな
そう言ってうんうんとうなづくミドリ先生。
可愛い。くぅ! どうせなら、先生とデートしたいです……
じゃ、後は頼むわね、アラタくん
まかさせてください、ミドリ先生。ではこれから僕と一緒にお食ーーーー
ふんっ!
いてぇ! 何急に足踏んでんだ茜!
じゃ、またミドリ先生。色々ありがとでした
ふふ、いいのよ、茜ちゃん……頑張ってね?
はいっ!
先生、僕に労いの言葉は?
じゃ、またね茜ちゃん
おい、いよいよ自然体でスルーされたぞ!
つくづく、阿呆な使徒じゃのう
手を振りながらにこやかに先生は去っていった。
さてと、
一件落着だな。帰るぞ、茜
おう!
あ、そういや神様
む?
この頼みごとを受けることが僕の願いにもつながるって言ったよな? あれ、結局どういう意味なんだ?
簡単じゃ。身近な者を守れんでどうして本当に大切な者が守れようか
そういうことね
それにの、使徒よ
あん?
我もお似合いだと思うぞよ? お主と茜とやらは
笑えねえ冗談だな
おーーい! アラター! 置いてくぞー!
今いく!
へっへー
? なんだよ?
アタシ、楽しみにしてるからな? アラタがどこ連れてってくれるか
あぁ、メシか。じゃ、今日は回転寿司でも……
違うわ、ボケェ!
うぉっ
ほら、不本意だけど……一番先に見つけたのはアラタだからな、その……
でででで、デート……
……!
なんだこれは。
何でこのちんちくりんのことが一瞬可愛いと思った?
僕は誰よりも可愛くてきれいなミドリ先生一筋だったはずだろ。
アラター……?
へっ? あ、あぁ、どこにいくかだよな?
分かった。考えとくよ
! さんきゅー、アラタ!
やれやれ。まぁ、「友達」として、どっか行きたいってことだよな、うん。
そうに違いない。
アラター
どした
アラタに相談してよかった。ありがとな
どしたんだ、改まって
んーなんていうか…………
助けてくれたのが、アラタですごく嬉しかったんだ。「あぁ、やっぱりアラタはいつもアタシのこと助けてくれる」って
……ま、助けるって僕も言ったしな
それでも、やっぱり嬉しいんだ……ね、アラタ
あん?
アタシ、アラタのこと好きだぞ
……お財布クンとして好かれて、光栄でございます
はははは! アラタならそう言うと思った
間違ってないだろ? ほら、はやく帰るぞ
…………
ん?
歩いている後ろから袖口をきゅっと摑まれる。
そうして、見えた茜はどこか儚げで、泣きそうな顔していた。
……別の場面で似たような表情を見たな……
……間違ってない、けど。間違ってるんだよなー
へ?
次の瞬間。
僕の目の前いっぱいに目をつぶった茜の顔が広がった。
……え、なんで今僕、こいつの唇と唇がこんにちわしてんの?
なんで、今。
僕と茜はキスしてる?
数秒経ち、僕と茜の唇が離れる。
…………
もちろん、お財布としてのアラタも好きだけど、
オトコとしてもアラタが好き
…………
じゃ、でーとの場所とアラタからの返事、待ってるからな! またなー!
そう言って、茜は笑顔で走り去っていった。
僕は魂が抜けたようにその場から動けなかった。
…………神様
む?
今何が起こったんだ?
青春じゃ
…………
さっきの目を閉じた茜の顔が浮かぶ。
思い出すたびに。
この映える夕日のように火照る僕がいた。
……どうしろってんだよ、茜……
ふふっ♪ ほんとに退屈させないのぅ、使徒よ