高校三年生になった。



 クラス替えでうらべっち君とは別れたが、アキオ君とホアチャー君は引き続きあと一年の付き合いとなった。


 アキオ君は三年生になってもレギュラーになれなかったらしく、部活をやめてバイトを始めた。


 本人曰く、時間を無駄にしたくないとのことだ。



 アキオ君の席の周りに集まってその話をしたとき、ホアチャー君は負け犬と称して大笑いしていた。


 だが、その後ホアチャー君は自分の席へ戻るときに、少し寂しそうな表情を見せた。



 山根さんとは別のクラスになった。


 とはいえ、部活へ行く時や帰る時間帯で出会うこともあるので、そんな折に示し合わせ今でも図書室でネームを読ませてもらっている。




 ある日のこと。



 山根さんと二人でいるところを再び目撃したというホアチャー君が、アキオ君と共に僕の席までやってきた。

ホアチャー

お前、マジで山根と付き合ってんの?
他にいいのいくらでもいるだろ

渡利昌也

例えば?

 ホアチャー君の言葉に対する僕の返答が予想外だったようで、彼は一瞬たじろいだ。

アキオ

そりゃあれだ。
まいちゃんだろ。
それからなみっちにみなぽん。
それからそれから

 ホアチャー君に代わり、アキオ君がノリノリで女子の名前を挙げていく。


 僕が苦手なタイプばかりだ。

ホアチャー

とりあえずアキオ、もういいって。
それよりお前。
山根のどこがいいんだよ

 ホアチャー君は、終わりの見えないアキオ君の指折りを止め、話を振り出しに戻した。

渡利昌也

いや、ほんとに山根さんと付き合ってるわけじゃないよ。
でも、人のいいところって話してみないとわからないこともあるよね

 ホアチャー君とアキオ君が目を丸くして僕の顔を見た。

アキオ

なんだなんだ、わたりん。
急に大人な発言しちゃってよぉ

ホアチャー

はは、なるほどね。
人間見た目じゃないってか

渡利昌也

あ、いや。
山根さんもちゃんと見たら可愛いところあるんだよ

 おっと。


 何を口走っているんだ僕は……。


 とも思ったが、実のところ本心だ。



 寝癖つきっぱなしの髪や光るメガネ。


 いつも暗い表情が彼女の印象を下げているが、時々僕は山根さんの顔を見てドキッとすることがある。

ホアチャー

はいはい、わかったよ。
好きなんだろ山根が。
んなら何も言わねぇよ

渡利昌也

ち、違うよ

アキオ

ええやんええやん。
可愛いんだろ?
ならええやん。
確かにちゃんと見たら可愛いかもな。
少なくともホアチャーの彼女よりはよ

ホアチャー

なんだとコラ!

渡利昌也

え?
ホアチャー君、彼女いるの?

アキオ

最近できたんだと。
三十点くらいの彼女が。
ププッ

ホアチャー

独り身の分際で上から物言ってんじゃねぇよ

アキオ

いや、俺はほら。
みんなのアキオ君だから

 ここから先はいつも通りの会話へとつながっていく。


 だが、山根さんへのイケてない発言に流されることなく、僕は僕の思っていることを言うことができた。



 『可愛いところあるんだよ』発言は少しばかり余計だったかもしれないが……。



 ところで、三年生になって他に変わったことといえば、倖田さんとの関係だ。



 山根さんに代わり、倖田さんと同じクラスになったのだ。



 倖田さんのことは人間としては好きだ。


 とはいえ高圧的な態度がどうも苦手だった僕は、しばらくは彼女と会話することもなかった。


 だが、同じ美術部員がクラスに僕と倖田さんしかいないということもあり、徐々に会話の頻度が増えていった。


 部活のお知らせ事がほとんどだが、倖田さんからおすすめの画材や画家、イラストレーター等を教わったり、テレビで美術絡みの特番があることを僕から倖田さんへ伝えたりした。


 流石に二人並んで部活へ行くなんてことにはならなかったが、以前よりはだいぶ自然体で倖田さんと話ができるようになった。



 僕は以前から、三年生になったら好きな人が変わるものと思っていた。


 その相手がもしや倖田さんになるのではあるまいかと、僕は妙な心配をしていた。



 今のところ、山根さんとの関係は全くブレていない。


 変わらず僕は山根さんのことが好きなんだと思う。


 そうえいば、中学生までの僕はどのタイミングで好きな子をシフトしていただろう。


 一年単位だったのは覚えているが、変わり目はいつだ。



 進級と同時に『今日からあの子を好きになる、よし決めた』なんてことは流石にないだろう。



 クラスが変わることで好きな人と会う機会が激減し、代わりに同じクラスの娘を徐々に好きになる。


 これが自然の流れか。


 となると今は山根さんと会う機会もあるが、疎遠になると心変わりするはずだ。


 好きな子が変わるのはその時だと僕は思った。



 そんな軽い気持ちの癖に告白するわけにはいかないし、そんな度胸もない。


 とにかく今はただ、安らかな気持ちになれる山根さんとの時間を楽しむことにしよう。



 そして、次の好きな子が倖田さんになることだけは全力で避けようと思う。

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