人狼ゲーム。

村人の中に混ざった人狼を見つけ出し、追放する多人数参加型推理ゲーム。

様々な役職を演じながら、黒か白かを疑い、見つけ出し、殺す。

簡単に概要を説明するとこんな感じらしい。
羽美は夜、与えられた個室で端末と置いてあったパソコンで情報を集めていた。

この個室は、学校の端にある校舎の一角だ。
何でも移住区扱いで、参加者にはそれぞれ個室が与えられているとか。
羽美の個室は、シンプルな和室。
掛け軸とかもあった。

羽美

ふぅん……

ざっと目を通した羽美。
勝敗は陣営によって異なる。
『第一陣営』は『人狼』の全滅。
『第二陣営』は『探偵』の全滅。
『第三陣営』は生存していること。
『第四陣営』は役職ごとに異なる。

役職も実に種類が多くとても素人じゃ覚えきれない。
それでも、頭に叩き込まないと。
羽美は気合を入れて、もう一度確認する。

『第一陣営』の役職。
村人、探偵、狩人、警備兵。
『第二陣営』の役職。
人狼、テロリスト、殺人犯、内通者。
『第三陣営』の役職。
村長、恋人、狐、野犬。
『第四陣営』の役職。
トリックスター、蛇、トラップマスター、小悪魔。

羽美

結構多いなぁ……

全部の陣営に4種類。
合計16種類。
参加者は30名。
そのうち、人狼と探偵が3名、恋人が二人、各役職が一人ずつ、残り全て村人という途方も無い数字だ。

役職の能力まで把握するとなると、暗記系の苦手な羽美には不利な補正がかかるかもしれない。
でもデスゲームである以上、妥協は出来ない。

羽美

わかりにくいなぁ……

羽美は文句を言いながら、全ての役職の能力と条件を探る。
先ずは自分の役職からだ。
それぞれ、役職にはシンボルマークがある。
彼女のシンボルマークは『鏡』だった。

『第四陣営』
トリックスター

勝利条件 全ての陣営の役職を一名ずつ殺害する。
敗北条件 死ぬ。

能力
一日に二度、昼と夜、他の役職に選択しコピーする。
コピーされた相手は自覚できない。
コピーした役職の能力は使用可能。
複数いる役職をコピーした場合、盗聴可能。
常に何かしらの役職を演じなければいけない。

羽美

わたしは常に誰かにならないといけないのね……
やり方次第で、いくらでも生き残れるし、誰でも殺せる……

羽美

だったら……ッ!

羽美は早速、端末を操作した。
今宵、彼女がコピーする能力は『第二陣営』のテロリスト。一晩に一人、襲撃して殺すことができる。
初夜から、彼女は保身ではなく好戦的に攻めていく。

羽美

邪魔になりそうな奴らを、片っ端から殺していこう
先ずは、あいつだ……

端末には自分の役職が変化し、テロリストという銃のシンボルに変わる。
常にカタチを変え、姿が留まらない読めない虚像。
トリックスターは名の通り、どちらにも味方し、場を引っ掻き回す人間にこそ相応しい。
羽美のような、漠然とした理由で行動を起こそうとしている人間には、ピッタリだった。

羽美は変化した役職を使い、まっ先に仕留めるべき相手に投票した。
羽美にとって現在尤も目障りな人間を、迷わず殺す。
簡単なものだ。
ただ、端末を用いて投票するだけで良いらしい。
自分の手は汚さずに済むなら悪くない。

羽美

これでいい……
五月蝿いのは、居なくなった……

分かっているのは役職と陣営の基本的なものだけ。
誰がどういう動きをするとか、彼女は詳しい他の役職の能力までは確認していなかった。
端末のルールには、ゲームの進行を妨げないコト、としか記されていない。
具体的に何をすると妨害になるのかは、自分で考えろということなのだろうか。

羽美

ふあっ……
さて、寝よっと……

和室の畳の上には布団が敷かれている。
欠伸をしながら、端末を机の上に放る。
今夜のやることを片付けてしまったので、もうするべきこともない。
デスゲームの初夜だというのに、マイペースに羽美は布団に潜ってそのまま眠ってしまった。

一応は顔見知りだ。
いや、世間的にはまっ先に庇うべき相手だと判断される。
なのに羽美にとっては、どうでもいいどころか単なる障害としてしか見られておらず、潰すときは軽い気持ちで実行。
秘められた闇の片鱗が愛や情けなどの温かい感情を飲み込んで、冷たい狂喜が羽美を染め上げていく。

羽美

…………

この日の夜、羽美は見たくもない悪夢をもう一度見ることとなる。
そして、目を覚ましたとき。
彼女は……本当の意味で、目を覚ましていた……。

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