街の中には、沢山のキャラクターが行き来していた。街の入口付近には、レグルスと同じレベル帯のキャラクターで溢れているが、少し遠くに移動してみると、それなりに高いレベルのプレイヤーも見られた。
 しばらくは、この街を拠点に活動することになるのだろう。

 病院、道具屋、教会、酒場。橘は、街の中をブラブラと見て回った。
 施設名から大体の役割は察することができた。

レグルス

すげーな。これ全部他のプレイヤーか。

???

もっと色々と見て回るのもいいが、折角ネットゲームやってるんだし、まずは……。

 レグルスは、真っ先に酒場へ入った。

 酒場の中は人で溢れかえっている。予想した通り、チャット欄はパーティプレイの呼びかけで埋まっている。

- パーティ -

 特定のプレイヤーと一緒にプレイをするためには、パーティと呼ばれるグループを組む必要がある。
 パーティを組んだプレイヤー間では、取得アイテム、イベント進行の共有・パーティ専用チャットが開放される他、インスタンスダンジョン(それぞれのプレイヤー・パーティ専用に生成されるエリア)への進入もパーティ単位で行われる。

 複数人でプレイする場合はパーティプレイ、1人でプレイする場合はソロプレイと言って区別される。

 一部のプレイヤーにとっては、どんな強敵の攻略よりも難易度が高い、最初の関門であることで有名。

レグルス

レベルが近いヤツは……と。

 プレイヤーを物色し始めたレグルスだったが、中々思うように見つからない。
 どのプレイヤーも、それなりのレベル差がある。

レグルス

しまったな。来る場所を間違えたのか?

……そういや、街の入口には初心者が集まってたな。あっちで探すべきだったか。

レグルス

街の散策をする前に、人集めときゃよかったな……ん?

 酒場から出ようとする橘の目に、1人のプレイヤーが目に止まった。
 人が疎らな壁際に佇むそのプレイヤーも、まだ始めたばかりらしく、レベルが同じだった。
 レグルスは、彼を誘うことに決めた。

レグルス

よう。今、暇か?

???

……はい。僕ですか?

 プレイヤーの頭上に表示された名前は、"ヤクルト"となっている。

レグルス

そうそう。ヤクルトさん。
暇なら一緒にどうかと思ってな。

ヤクルト

ええ。いいですよ。
丁度僕も、仲間を探していたところです。

それじゃ、パーティ申請送りますね。

 ヤクルトの申請を受け、2人はパーティ状態となった。

ヤクルト

仲間を探して酒場に入ったのはいいんですが、初心者の人達はここにあまり来ていなかったようですね。
全然見つからなくて。

レグルス

お互い同じミスしちまったな。

レグルス

……さて、こっちから誘っておいてなんなんだが、どうする?
ネットゲームは初めてで、最初に何をすればいいのかわからないんだ。

ヤクルト

なるほど。
それでは僕が決めてもいいですか?

レグルス

ああ。そうしてくれるとありがたい。

 2人はカウンターに移動し、依頼の一覧を眺めた。

 ヤクルトがその内の1つを選択する。

ヤクルト

この依頼は適正レベルが1ですね。
これにしましょう。

 ヤクルトが選択したのは、アイテムの収集依頼だ。

レグルス

これは?

ヤクルト

簡単なアイテム収集系の依頼ですね。
内容としては、特定のモンスターを倒し、そのモンスターが落とすアイテムを集める、といった具合です。

ヤクルト

対象は街を出てすぐの辺りで遭遇するモンスターですから、僕達でも問題なくクリアできると思います。

レグルス

なるほど、それじゃそれにしよう。
早速向かおうか。

 2人は難なく依頼を進めていった。遭遇する敵は1, 2発程度の攻撃で倒せる上、2人とも職業は戦士なので、相手の攻撃はほとんど効かない。
 依頼は順調そのものだった。

レグルス

序盤じゃこんなもんか。

ヤクルト

相手の攻撃も大したことないですね。

レグルス

こんな序盤から大したダメージ受けてちゃ困るけどな。

ヤクルト

ハハ、言えてますね。

っと、もう依頼品が必要数集まりましたね。

レグルス

お、本当だな。

レグルス

それじゃ、一旦街に戻るか。

ヤクルト

そうしましょう……おや。

 先程までのモンスターとは、また別の種類と遭遇した。レベルは2人より上のようだ。

 正面に1体、左右に1体ずつ。計3体が、2人を取り囲むように配置されている。

レグルス

妙な敵が出てきたな。
なんか強そうだぞ。

ヤクルト

あれはもしかしたら、レアモンスターかもしれないですね。

レグルス

レアモンスター?

ヤクルト

はい。

ゲームを始めた時に、ちょっとお話した上級者の方が教えてくれたんですけどね。

各地域には、超低確率で出現するレアモンスターが設定されているそうです。

レグルス

ふーん。
あれがそのレアモンスターなのか?

ヤクルト

はい。恐らくは。
この地域のレアモンスターは「剣を持ったキノコ」だって言ってましたし。

レグルス

完全にアイツじゃねーか。

レグルス

レアってことは、やっぱり倒したらいいことあるのか?

ヤクルト

レアモンスターは他のモンスターよりも遥かに経験値が多く、落とす装備品も強力なものが多いそうですよ。

レグルス

へぇ。
そういうことなら、なんとしても倒さないとな。

レグルス

と、言いたいところだが。
あいつら明らかに俺達より格上だぞ。
勝てそうか?

ヤクルト

聞いた話では、レアモンスターは遭遇者よりやや強い程度に設定されるそうです。

なんとか倒せる範囲とは言っていたんですが、ゲームを始めた直後の僕達が勝てるかどうかと言われれば……微妙かもしれませんね。

ヤクルト

レアモンスターからの逃走成功率は100%です。
無理そうであれば、諦めて帰るのも手ですね。

レグルス

なるほどな。

ただ、折角のレア遭遇をフイにするのは惜しい。
少なくとも、勝ち目が無いわけじゃないんだろ?

ヤクルト

やりますか?

レグルス

ああ。

 2人が剣を構え、戦闘態勢に入る。
 それに合わせて、キノコ達も行動を開始した。

 左右のキノコは比較的近くに居るが、正面のキノコはやや離れている。
 正面のキノコが2人の位置に到達するには、まだしばらくかかるだろう。

レグルス

正面のアイツがリーダーかもな。
こっちへ到達する前に、左右の2体を片付けてしまおう。

ヤクルト

了解です。

 ふた手に別れ、左右のキノコとそれぞれ対峙する。

レグルス

よし、行くぞ!

 レグルスの攻撃を受け、順調にキノコの体力を削っていく。
 が、キノコの攻撃により、レグルスの体力も削られていっている。正面に1体控えている状態で、これ以上ダメージを受けるのはまずい。

レグルス

真っ向勝負じゃ最後まで持たねぇな。
何かいい方法は……。

レグルス

お、このスキルなんて良さそうだな。

 橘が選択したスキルは、相手を吹き飛ばすスキルだ。
 持っていた盾を相手に打ち付け、距離を離した。

 再び向かってくるキノコをかわし、背後に回る。

レグルス

後ろからならどうだ?

 レグルスの連撃が、キノコの背後へ直撃する。

 正面からの削り合いで弱っていたキノコは、そのまま倒れた。

ヤクルト

上手いですね!

ヤクルト

僕の方はもう少しかかりそうです。
正面のキノコをお願いできますか?

レグルス

ああ。任せとけ。

 丁度、正面のキノコが2人の元へ到達した。

 レグルスが相手を引き付けるように近づく。
 思惑通り、キノコはレグルスを狙うように動いた。

レグルス

さっきと同じ感じで行くか。

 キノコの周りをグルグルと移動しながら位置を調整する。そして、ついに背後を取った。

レグルス

よし。食らいな!

レグルス

……え?

レグルス

!?

ヤクルト

うわ!?

 レグルスが攻撃を加えるよりも早く。
 キノコが身を捻ったと思うと、そのまま回転しながら武器を振り回した。
 攻撃を受けたレグルスは大きく吹き飛ばされ、そのままヤクルトにぶつかった。

レグルス

す、すまん。
アイツ、背後にも攻撃を……。

ヤクルト

いえ……。
それよりも、まずいですよ……。

レグルス

え?

 目の前には、ヤクルトが戦っていたキノコが居る。

 キノコは2人めがけて剣を振り上げ――。

レグルス

……死んだな。

ヤクルト

死にましたね。

レグルス

すまんな。
油断したよ。

ヤクルト

いえ、僕の方こそすみません。
1体目に手間取ってしまいました。

ヤクルト

でも、惜しかったですね。
もう少しで倒せそうでしたよ。

レグルス

ああ。
いつかリベンジしないとな。

ヤクルト

そうですね。

ヤクルト

ともあれ、依頼品自体は集まってますから、酒場で受けていた依頼は完了しています。
今日はそれを報告して終わりにしましょう。

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