それから俺らは、だんだんと二人が仲良くなる過程を、断片的に見続けた。


 二人で食事をとり、サンザシが目を輝かせ、そんなサンザシの姿を見て魔王が微笑むところ。


 世界地図を広げ、魔王とサンザシが寄り添いながら、いろいろな国の話をするところ。


 古い音楽機器をだましだまし使いながら、二人がワルツを踊るところ。


 大きな図書室の中で、サンザシが情報の多さにあっけにとられ、魔王がすべて読んだことを知らされさらに目を丸くするところ。




 俺の知っているシーンもあった。


 窓からの月明かりだけが、優しく部屋を照らしていた。


 そこは、寝室だった。部屋の真ん中に、大きな天蓋つきのベッドが置いてある。


 ベッドの端にイスを寄せ、サンザシがちょこんと座っていた。ベッドに端で横になっている魔王は、静かにサンザシに話しかけた。

眠れない。月明かりが眩しすぎる

カーテンを閉めましょうか?

いや……サンザシ、もう帰ってしまうんだよな

ええ、もうそろそろ

なんだ、つまらないな……でも、楽しいよ

どっちですか

楽しいんだ……サンザシ、俺は、こんなにも楽しいと思ったことはない。

でも、いつも楽しくあろうとしていたんだ

 サンザシは、優しく魔王に微笑みかける。

どういうことですか?

……ひとりの時も、つまらないと思ったときも、いろいろ悩んだときも……俺は楽しさを探し出した

楽しさを、ですか

ああ、そうだ……目の前が楽しければ、それでいい。

そう思って割りきってしまえばいい。

俺が、納得できるのならば。

ひねくれた考えだとはわかっているがな。

そんなことはありません!

 サンザシの大きな声に、魔王は目を丸くした。

 サンザシはいたって真剣な表情のまま、静かに微笑む。

……魔王様、それはとても素敵な言葉です

 サンザシの目にたまった涙が、月明かりに照らされてきらりと光った。

サンザシ、辛いことがあるのか?

ええ、あります。

寂しいことも、切ないことも。

でも、今のお言葉を聞いて……私は救われました

救われた……?

ええ、私は、今とても楽しいのです。幸せなのです。未来は少し怖いですが、目の前の……あなたといるときは

 ふ、と魔王は笑って

私も楽しい

 と、子供のような笑みを浮かべる。

サンザシ、頼みがある

なんでしょう

もう少し、そばにいてくれ

 サンザシは、くすりと小さく笑って、はい、と返事をした。

ミドリ。俺はこのシーンを、見たことがある

え、いつ?

セイさんに見させられたんだ。

君のいる世界に行く前……正確には、この夜の出来事を、トウコとサンザシが話しているシーンだけど……



 ボーナストラックだとセイさんが言っていた。



 名前のところだけ聞き取れなくされていた。ーー様。あれは、魔王様、だったのだ。


凄く、幸せそうに話していた……それに、あの言葉も、魔王に言われた言葉だったんだ。

サンザシの、大切な、忘れられない言葉だって

私も、タカシ君から聞いたよね……

……そうだったね

  ミドリが目をふせる。

あの二人……

ああ。誰が見ても分かる

 俺は、いとおしそうに魔王を見るサンザシを見つめた。


 俺の知らないサンザシが、そこにはいた。


 誰が見ても分かる。




 二人は、ゆっくり、ゆっくり、恋に落ちていった。

嘘だ

 唐突に、真っ暗な部屋へと俺達は移動した。


 部屋には、魔王しかいない。よく目を凝らせば、そこはいつもサンザシと魔王がいる部屋だったのだが、明かりはおとされ、空気も心なしかよどんで見える。

嘘だ

 かすれる声で魔王は呟き、は、と小さく漏らした。

嘘だな、嘘だ、嘘だ。

俺は信じない。

魔力をたくさん持っている俺を、恐れぬはずがない。

仲良しのふり、そうだ、彼女はロジャーの手下。

きっとロジャーのやつが俺と契約を結びたいために、送ってきた、そうだ、そうに

 歯を食いしばる魔王は、虚空を見つめながら、絞り出すように言った。

そうに決まっている……!

魔王様!

 サンザシの声に、魔王ははっと顔をあげた。

 サンザシの声が合図となったように、部屋に明かりがぽつぽつと灯る。

……どうか、されたのですか?

 魔王の険しい表情を見つめ、サンザシはしかしおびえることもなく、心配そうに歩み寄った。

いや……はは、何、面白いことを考えていた

面白いこと、ですか?

そうだ。

書物にあったのだ、神と、神ではない生き物が

 にたり、と魔王は笑う。

恋に落ちることのできる方法が

7 記憶の奥底 君への最愛(15)

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