わっ! また!

合図くらいほしいね

 いいながら、俺は目の前の二人を見ていた。

 サンザシと、魔王だ。魔王は大きな椅子にふんぞりかえるようにして座り、サンザシは彼の前にちょんと立っている。

 俺たちの位置からだと、魔王は正面の姿が見えるが、サンザシの背中しか見えない。


 サンザシは、大きな魔王の気が変われば、いつでもぱくんと飲み込まれてしまいそうなほどに、小さく見えた。

 まるで、鷲と雀の対談のようだ。

さて、もう三日連続か

 あの日から、三日が経過しているようだ。

 サンザシはええ、と元気にうなずいた。

飽きないのか

飽きません!

なぜ来るんだ?

魔王様が、寂しいかと思って

寂しい?

 はん、と魔王はわざとらしく笑う。

こんな大きな屋敷に一人で何年も暮らしているのだ。寂しい、などと思うか

思いますよお! 

私だったら、寂しくて泣いてしまいます

 ふーん、と魔王は自分のあごを大きな指でなぞる。

寂しくなると、泣くものなのか?

魔王様は、寂しさをご存じないのですか?

……知らなければならないことか?

いえ、ただ、ご存じないのかなあと思って

寂しさ……か

 ふむ、と魔王は顎を撫でる。

感じたことがないな。

生まれたときから、この屋敷に一人でいるのが当たり前だった。

来る客は皆、俺の魔力のことしか口にしない。
俺は魔力ではない、俺なのに

 サンザシは、首を小さくかしげた。

そんなにすごい魔力をお持ちなのですか?

ああ、貴様には想像がつかんくらいにな

でも、その魔力を魔王様はお使いにならない。

なら、魔王様は、魔力ではなく……魔王様なのに……なのに、ん?

 言いながら混乱したようだ。

 サンザシの、首をかしげる角度が、どんどんと大きくなっていく。ははと魔王は楽しそうに笑った。

難しいことは考えるな。

お前には、理解できないくてよいことだ

なんですか、もう! 

私だって負けません! 
魔王様が理解できないことを、私は存じておりますよ!

ほう、何だ?

寂しさ、です

 きっと、サンザシは優しく微笑んだに違いない。

魔王様に、いつか教えて差し上げますね

ほう、やってみろ

 魔王が、優しく微笑んだ。

7 記憶の奥底 君への最愛(13)

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