冬弥と初めて出たってから二週間後。
バイトから帰る道中でパラパラと雨が降りだした。
雨は少しずつ強まっていき、家に着く頃には土砂降りになっていた。
床に配置したコップやボウルが部屋の天井から滴り落ちる雨水を受け止め、一定のリズムを刻んでいる。
住み始めた頃は割と綺麗な部屋だと思ったのだが、なかなかの雨漏り具合とシャワーの温度の不安定さだ。
家賃が安いだけのことはある。
外の雨音に気だるさを覚え、まったり読書でもしようか。
そう思って壁に配置した枕にもたれて座り込んだ矢先、私の携帯が鳴り響いた。
冬弥の携帯の番号は自分の携帯のアドレス帳に登録していたから、彼の名前は液晶にちゃんと出てきていた。
それなのに私は数秒の間、誰なのかわからなかった。
墓参りの時に出会った彼だと気付いた途端に激しくなった心臓の鼓動を、深呼吸で落ち着かせて携帯に出る。
それが冬弥からの初めてのお誘いだった。
受話器越しの冬弥の声は一人で紅茶を飲んでいる時に聞こえてくるクラシックのように、私の体をサラリと通り抜けていった。
私は心地いい音楽を聞きながら指でリズムを取るような感覚で、彼の声に相槌をうっていた。