え・・・えと・・・

ど・・・どうしよう・・・。
すごく気まずいです。
どれくらい気まずいかと言うと、小さいころに父さんの部屋で薄い本を発見したのを母さんに発見された時くらいの気まずさです。

あ~。とりあえず・・・こんにちは・・・?

え?あ。うん。こんにちは。

何時の間に居たんだろう?
いや、それよりもあの尻尾と耳・・・。
あれ?こいつってもしかして・・・

戸惑いながらも挨拶を返してもらえたことに安堵する。

ただ、少女は何処となく訝しむような・・・。
いや、蔑むような眼でこちらを視てきていた。

こんにち・・・わふっ!

やべっ!この方って・・・

それに対して、イヌッコロはイヌッコロで焦った様子でこちらから眼を逸らす。

ねぇ。あなたってオタクってやつ?
その耳と尻尾って・・・えと、なんだっけ?
ゴスプリだっけ?

少女よ。それは「ゴシックプリティー」の略か何かかな?

なにそれ萌える。
それは是非是非、君にそのゴスプリな恰好をしてもらいたい。

コスプレな。

あ、それそれ。コスチュームプレイ!

って、やっぱり喋ったあああああああああっ!?!?

犬が喋って何が悪い!

これは中々に気持ちの良い開き直りだ。
嫌いじゃない。

耳と尻尾はコスプレじゃなくて自前だよ。
あと、略さずに言うと別物に聞こえるからやめようね。

それと、そっちのイヌッコロ。
狛犬とあろう者がこんなところで何してんのさ。
油売ってないで、ちゃんと社を守りなよ。
犬神さんに言いつけるよ?

実は少女と話していたこいつは、この町にある「犬神神社」に仕える狛犬だ。

「呪い」の代名詞とも言える犬神だが、「呪い」は「のろい」だけではなく「まじない」とも読む。

一言に「呪い」と言っても悪いものだと限らないわけだ。
つまり、犬神も崇められる対象となり得るわけだね。

・・・人間からしてみればだけど。

じ・・・自前・・・?

い・・・犬神様に・・・?

僕の言葉を聞いた少女は「犬が喋った」ことそっちのけで呆然とした様子だった。

無理もない。

人間にはこんな尻尾も耳も生えていないのだから。

え?イヌッコロ?
絶望したような顔で真っ白になってるよ。

それって、あなたは人間じゃないってこと?

・・・そうだね。僕は人間じゃないよ。

僕は白狐。俗に言う妖怪とか妖獣ってやつ。

本当なら人間に正体をばらしてはいけない。

しかし、僕は何故だか「この少女にはばらしても良い」と感じた。

まぁ、姿も気配も消してストーカー紛いのことをしていたのだから、そのお詫びということで。

・・・。

だけど、僕は知らなかったんだ。

ね、ねぇ。もしよかったらだけど・・・

まさか、こんなにも眼をキラキラさせて僕を見つめてくる少女が・・・

その尻尾を・・・

まさか、こんなにも手をワキワキさせて僕に近づいてくる少女が・・・

モフモフさせて!!!

うぇえええええええええええっ!?!?!?

―――――「変態」だったなんて・・・。

初対面の人(?)たちには挨拶しましょう。

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