飛竜の発着場にて――

側近

くれぐれもお気を付けくだされ

アズール

ありがとっ! 行ってきます!

火哉! 姫をしっかり守るんだぜ!

火哉

任せてっ!

俺たちのぶんまで頑張ってくれよ!

火哉

うんっ! 行ってくる!

 風の国へは海を渡らないと行けないため、火哉とアズールは飛竜に乗って向かう。
 王女の遠征とあって本当は沢山の護衛を付けたいところだが、遠距離飛行が可能な飛竜は一体しかいないので、二人は大勢の国民に見送られながらの出発となった。
 どうかご無事でと、民衆は二人が見えなくなるまで祈り続けたそうな。

火哉

みんな優しいぜ。オレ、水の国が大好きだ

アズール

国を守るため、そしてみんなを守るために、絶対に聖剣を持ち帰ろうね!

 やがて二人を乗せた飛竜が風の国シルフへ着く頃には、日も傾いていた。

火哉

ここが風の国、シルフか……

 飛竜から飛び降りる二人。

アズール

ありがとっ! ここでしばらく待っててね

火哉

よし、さっそく王に会いに行こう!

アズール

そうね、まずは空から見えた城下町に行くわよ

火哉

……すんげえ静かだね。まだ晩飯時だぜ

アズール

……そうね

火哉

人っ子一人いねえし、声も聞こえねえ

アズール

それもそのはず……風の国はね、弓や槍を得意とする戦闘民族が住む国なのよ

火哉

じゃあなに? オレたちを隠れて見てるかもしれないってこと?

アズール

……おそらく。警戒されてるのかも。とりあえずお城へ向かいましょう

火哉

おーい!!! 俺たちは怪しいもんじゃないぜー! 水の国から来たよー!!! 聖剣おくれー!!!

アズール

ちょ、ばかっ!

火哉

???

アズール

なにが「聖剣おくれー」よ! ばりばりに怪しいでしょ!!

火哉

しかし返事がない……ただの屍のようだ

アズール

あれは!

 アズールは城の入り口でなにかを見つけ、駆け寄る。

アズール

火哉、あんたのジョーク、冗談じゃ済まなくなったわよ……

火哉

うわあっ!

アズール

ここの門番かしら。何者かにやられてるわ……

火哉

あぶないっ!

ガルル……

アズール

きゃあああ!

 突然飛びかかってきた獣は、アズールに噛みついた。

アズール

痛っ!!

火哉

このやろっ!

ガルルッ!!

アズール

アイスニードル!

グ……グガ……

アズール

やったわね……

火哉

ちくしょう、いきなり姫に怪我させちまった……

火哉

ヒール!

アズール

ありがと……

火哉

あちゃー、女王との約束……

アズール

私が傷を負ったらクビってやつ? 大丈夫よ、あんたがそのヒールで治してくれたらバレないって

火哉

確かに唯一使える魔法だけど……先生いわく、オレのは本物の治癒魔法ではない、まがいもののヒールらしいし……

アズール

治ってんだからいいじゃん! 気にしないで、ほらっ、いくわよ

火哉

つか、このモンスターが門番をやったのかな?

アズール

違うわね。この人は槍で突き刺されているわ

火哉

じゃあなに? 国内での揉め事ってこと?

アズール

とにかく中へ入ってみましょう

アズール

失礼します!

火哉

誰かいませんかー?

火哉

なんだ、みんな引っ越しちまったんじゃねーの?

アズール

火哉、危ない!!

火哉

うわあああ!!

 火哉の目の前を矢がかすめる。

 複数の人間たちに囲まれ、槍を突き付けられる火哉とアズール。

ラフィリア

動くな!

火哉

ちょっ!?

アズール

待ってください!

貴様らは何者だ……!

第一章 第二話『風の民』

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