第一章
『聖剣』
第一章
『聖剣』
この二人がなぜ聖剣を求め、旅をすることになったのか、話は少し遡る。
水の国ウンディーネ
女王の間
アズール、火哉、よく退けてくれましたね。褒美を授けましょう
あざっす!
ありがたき幸せでございます。しかしながら、魔王を取り逃がしてしまいました。次こそは必ず……
そう、まだ終わってはおりません。平和を手にするまで、みなチカラを合わせ共に戦いましょう
かしこまりました! 水の女神に誓って!
さて、今後の計画じゃが……やはり魔王討伐の為、聖剣の力を得たいと思う
……他国の力を借りるってことか?
無理だろ……ここ何十年も、外交は途絶えているってのに
でも世界の危機だぜ。この国ももうあとがないってんじゃねえか……?
静粛に!!
魔王討伐に聖剣の力を必要とするのは、伝承により皆知っておろう
あれって、おとぎ話じゃなかったんすね!
遠い昔にも魔王が現れた歴史があり、そこでは二本の聖剣を使い、魔王を討伐したそうじゃ
二本あるんですか!
うむ。そして現在、風の国シルフにそのうちの一本が存在するとの情報を得ておりますのじゃ。差し当たり、その一本を持ち帰って来てもらいたいと
行く行く! オレがその剣で魔王を倒してやるぜ!
火哉のやつ、やっと役に立てたからかテンション高いなぁおい!
まあ、今まで無能と言われ続けてきたからな、気持ちがわからんでも無い
普通に貸してくれるんですかね?
……わかりませぬ。誰でも使えるようなものなのかもわからんが、世界の危機じゃし。少なくとも何らかの協力は得られるであろうと考えておりますのじゃ
……して、アズール様たちにはその直接交渉のため、風の国シルフへ向かってもらう!
かしこまりました! 必ずや、聖剣を持ち帰ります!
オレたちに任せてくれっす!
では、おいきなさい
はっ、失礼致します
アズールや……くれぐれもご無事で
ありがとうございます! お母さま!
じゃ、行ってきまーす!
火哉。お待ちなさい。……貴方にはまだお話があります
はっ、なんでございますですか!?
お前はまだ、アズール様の盾をやるのか?
そりゃあ、姫が望むかぎり尽くしてやんよっす!
お前は弱い。なぜ火の民とのハーフであるお前を……ろくに魔法も使えんお前を、アズール様は盾としておいておられるのか……
わたくしも少々心配しております。貴方達が幼き頃から親しき仲であることは承知の上ですが、今回のような命を懸ける戦となりますと……
……そうっすよね
ならば、交代を!
ええー!!
剣術を扱えるものは他にもおるのじゃ! アズール様がお前を指名されるから付けてやっただけじゃからの!
そんなぁ……
火哉……そなたは、どう考えておられるのですか?
オレ……オレは……
今は弱いかもしんねーっすけど……
やっぱり命にかえてもアズール姫を守りたいっす! そのためならなんだってするぜ!
……わかりました
殿下……!
ただし、こたびの遠征でアズールが一度でもキズを負ったら、貴方を解雇とさせていただきますわ
マジっすか……わかった。それでいいよ
火哉! 話ってなんだったの?
まあ……頑張れよって感じかなー?
なにそれ! あんた弱いんだからクビ! とか言われたんじゃないのー?
あはは!!
はぁ……
でも、聖剣を手に入れただけで本当に勝てるのかなあ。魔王軍のあんな凄い魔法、まともに食らったら死んじゃうよね!
だいじょうぶ。姫はオレが守るからよ!
いやいや、きっとあんたが一番にやられるでしょうが
ぜってー傷つけさせねえもん! オレの大事な姫だもん!
はいはい。たよりにしてますよーっと
水の女神ウンディーネ。
彼女が作ったとされるここ水の国では、
争いも無く、食物・気候にも恵まれ、
平和な暮らしが数十年続いていた。
王女であるアズールは、
水属性魔法の使い手。
それも歴代きっての優れた才能がある。
水魔法は日常生活にも重宝する魔法。
そのため水の民は幼いころから
魔法学が義務教育に組み込まれていた。
よってアズールに対しては、
皆、羨望の眼差しを向けている。
水魔法なしでは繁栄なしと
誰もが知っていたからだ。
しかし、そんな穏やかな街に
ある日恐怖の戦慄が走った。
魔王復活の知らせ――
魔王……それはおとぎ話として
語られるぐらいでしかなかった、
今を生きるものは誰も知らないような存在。
魔王復活の噂から間もなく、
魔王は、ここ水の国を襲撃してきた。
十数体の魔人やゴーレムを連れて、
街を破壊する魔王。
争いを知らない民衆は、
倉庫に眠っていた武具を纏い、
ありあわせの歩兵団を発起する。
だが、生活利用程度の水魔法では
魔王軍にかなうはずもなく、
多くの犠牲者を出した。
そして水の王女アズールも立ち上がる。
まだ齢幼い少女ではあるが、
当代随一の魔法使い。
彼女の幼馴染みである少年、
火哉と魔王軍を迎え撃つ。
火哉は出生の事情により
ある一つの魔法しか使えない。
その代わり、幼いころから
剣術を学んでいたのだ。
魔法に剣がかなうはずがない。
無能が無駄な努力を……
と蔑まれながらも、
火哉は剣術を磨いていた。
そしてその努力が実を結んだのだ。
魔王軍を火哉がひきつけ、
アズールの水魔法で撃退する。
こうして一体、また一体と
やっつけることに成功。
魔王は撤退した。
しかし、
いつまた襲撃されるかわからない。
魔王の討伐、それしか
平和を取り戻す道は残されていない。
こうして、彼らの
聖剣を求める旅が始まる――