それは……事故だった。
たまたま通りかかったあけみが、たまたま道に飛び出してしまった女の子を、たまたま走ってきた車から助けようとしただけのことだった。
幸い、女の子は事故に遭うことはなく、車は走り去った。
ただ、助けようとした衝撃で、あけみは破水してしまった。
うずくまるあけみに、助けた女の子の母親が救急車を呼んだ。
そして、緊急搬送されたあけみは、破水から2時間後、「希望」を出産した。
……産まれてきたのは「のぞみ」、女の子だった。
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……
あけみが悪いんじゃねーって!
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……
だから……いいって……謝んな……
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……
あけみ……
それは……事故だった。
たまたま通りかかったあけみが、たまたま道に飛び出してしまった女の子を、たまたま走ってきた車から助けようとしただけのことだった。
幸い、女の子は事故に遭うことはなく、車は走り去った。
ただ、助けようとした衝撃で、あけみは破水してしまった。
うずくまるあけみに、助けた女の子の母親が救急車を呼んだ。
そして、緊急搬送されたあけみは、破水から2時間後、「希望」を出産した。
……産まれてきたのは「のぞみ」、女の子だった。
奥さんの容態は安定しています
希望は? 希望は大丈夫なんですか!?
娘さんはNICU(新生児集中治療室)の中の保育器にいます
今は安定していますが……まずは3日間が勝負です
あの……それはどういう……?
医師の説明によると……。
22週というのはもちろん、産まれてくるには早すぎる週数だ。
肺は完成していないため、人工呼吸器は欠かせない。
また、脳出血、感染症、動脈管開存症等の危険性、輸血、ステロイドの投与などなど……。
あらゆる器官が未発達のため、何が起きても不思議ではない状態。
そして、母親の胎内から外界に投げ出されたこの3日間が、第一の山だと言う。
なお、在胎週数22週の赤ちゃんの生存確率は、40%と言ったところです……
そう、なんですか……
この医学が進んだ現代において、生存確率がたったの40%……?
命を取り留めても、慢性肺疾患を始め、様々な障害が残る可能性があります
そんなことはどうでも良いです! とにかく希望を助けてください!!!!!
……
はい! スタッフ全員、全力で希望ちゃんの治療をさせて頂きます!!!!!
先生に頭を下げ、部屋を出た。
すると、あけみが助けた女の子の母親がいた。
俺を認めると、深々と頭を下げる。
本当に申し訳ございません
うちの娘を助けて頂いたばっかりに……
帰ってください
えっ……
俺、とてつもなく酷いことを言ってしまいそうで……とにかく、帰ってください……
で、でも……
お願いですから、帰ってください!!!!!
ほ、本当にごめんなさい……
すれ違いざま、手に持っていた包みを俺に押し付けると、女の子の母親は去って行った。
……
俺は中身を確かめることなく、それをゴミ箱に投げ捨てた。
……
考えたくはないが……もし、もし、希望が死んでしまうようなことがあったなら。
俺はあの母親とその娘に対して、平常な気持ちを保つことが出来るか……自信がない。
いや、今は希望が無事に育ってくれることだけを祈ろう。
よしっ!
今後、何が起きても泣かないように、涙と不安も投げ捨てる。
俺はもう父親になったのだから……。