あけみ

ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……

隼人

あけみが悪いんじゃねーって!

あけみ

ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……

隼人

だから……いいって……謝んな……

あけみ

ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……

隼人

あけみ……





それは……事故だった。



たまたま通りかかったあけみが、たまたま道に飛び出してしまった女の子を、たまたま走ってきた車から助けようとしただけのことだった。



幸い、女の子は事故に遭うことはなく、車は走り去った。



ただ、助けようとした衝撃で、あけみは破水してしまった。



うずくまるあけみに、助けた女の子の母親が救急車を呼んだ。



そして、緊急搬送されたあけみは、破水から2時間後、「希望」を出産した。



……産まれてきたのは「のぞみ」、女の子だった。




医師

奥さんの容態は安定しています

隼人

希望は? 希望は大丈夫なんですか!?

医師

娘さんはNICU(新生児集中治療室)の中の保育器にいます

医師

今は安定していますが……まずは3日間が勝負です

隼人

あの……それはどういう……?

医師の説明によると……。


22週というのはもちろん、産まれてくるには早すぎる週数だ。



肺は完成していないため、人工呼吸器は欠かせない。



また、脳出血、感染症、動脈管開存症等の危険性、輸血、ステロイドの投与などなど……。



あらゆる器官が未発達のため、何が起きても不思議ではない状態。



そして、母親の胎内から外界に投げ出されたこの3日間が、第一の山だと言う。

医師

なお、在胎週数22週の赤ちゃんの生存確率は、40%と言ったところです……

隼人

そう、なんですか……

この医学が進んだ現代において、生存確率がたったの40%……?

医師

命を取り留めても、慢性肺疾患を始め、様々な障害が残る可能性があります

隼人

そんなことはどうでも良いです! とにかく希望を助けてください!!!!!

医師

……

医師

はい! スタッフ全員、全力で希望ちゃんの治療をさせて頂きます!!!!!

先生に頭を下げ、部屋を出た。



すると、あけみが助けた女の子の母親がいた。



俺を認めると、深々と頭を下げる。

女の子の母

本当に申し訳ございません

女の子の母

うちの娘を助けて頂いたばっかりに……

隼人

帰ってください

女の子の母

えっ……

隼人

俺、とてつもなく酷いことを言ってしまいそうで……とにかく、帰ってください……

女の子の母

で、でも……

隼人

お願いですから、帰ってください!!!!!

女の子の母

ほ、本当にごめんなさい……

すれ違いざま、手に持っていた包みを俺に押し付けると、女の子の母親は去って行った。

隼人

……

俺は中身を確かめることなく、それをゴミ箱に投げ捨てた。

隼人

……

考えたくはないが……もし、もし、希望が死んでしまうようなことがあったなら。



俺はあの母親とその娘に対して、平常な気持ちを保つことが出来るか……自信がない。



いや、今は希望が無事に育ってくれることだけを祈ろう。

隼人

よしっ!

今後、何が起きても泣かないように、涙と不安も投げ捨てる。



俺はもう父親になったのだから……。




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