あれから、2ヵ月。

学校にも親にも、俺とあけみが付き合っており、あけみが妊娠していることは周知の事実となっていた。



……とにかく、色んなことがあった。



俺は親父に殴られ、母親には泣かれ、あけみの両親には土下座をした。

そして、両親たちと何度も話し合った結果、子どもを産むことを許された。

その代わり、高校を卒業すると同時に入籍すること、俺とあけみは大学を4年で必ず卒業し、ちゃんと就職することを約束させられた。

その間、子どもの面倒はお互いの両親が面倒を見てくれるという。



高校での生活も、始めは好奇の眼差しを向けられていたものの、2ヵ月経った今となっては(女子の目が冷たいということを除いては)気にならなくなっていた。

知らない生徒

パパになっても、せいぜい頑張ってくれたまえよ……ふふふっ

隼人

ああん? 言われなくても分かってんよ! おままごとじゃねーんだから!

知らない生徒

あ、ああ、そうかい……

こういう奴もいれば……。

ヤンキー

聞いたぜ……てめぇも大変だな

ヤンキー

何かあったら力になるぜ? 頑張れよな!

隼人

ああ、サンキュな!

こういう奴もいる。

ちなみに颯太に打ち明けた時は……。

颯太

お前だけはDT仲間だと思ってたのに……

隼人

黙ってて、何かスマン……

颯太

ところでさ……

隼人

ん?

颯太

DT卒業後って、その……やっぱり世界が変わるのか?

隼人

変わんねーよ! つーか、言うことはそれかよ!!!!!

と、来たもんだ。





一方、あけみの方は「つわり」はほとんど無く、見た目は少しだけお腹が出てきたかな? という程度である。





そして、今日は妊婦健診の日。




医師

今日で……20週と3日ですね

医師

んー、少し出血がみられるのと、子宮頸管がやや短いかな?

あけみ

あ、赤ちゃんは? 赤ちゃんは大丈夫なんですか!?

医師

大丈夫、週数通りに育っていますからね

医師

ただ、くれぐれも安静にしてください

医師

一応、お薬も出しておきますから

あけみ

良かった~☆






-病院の帰り道-




あけみ

昨日ね、赤ちゃんね、おなか蹴ったんだよ~

隼人

え? マジかよ!?

あけみ

うん! マジマジ!!!

隼人

すげーな!!!!!

隼人

そっか……そこまでもう大きくなってるんだな……

生命の神秘って奴に、俺は不覚にも感動していた。

あけみ

あれぇ? 隼人、泣いてるの?

隼人

ち、違う! ちょっと目にゴミが……

あけみ

ふーん? そうなんだ~☆

出産予定日は8月2日――。





出産まで十月十日(とつきとおか)とはよく言ったもので、今日は3月の半ばだから、早くも出産の半分までこぎつけているわけだ。





きっかけはどうであれ、俺とあけみの子どもが生まれてくることが待ち遠しくて仕方ない。




隼人

男の子だったら将来、この河辺でキャッチボールしたいな

あけみ

女の子だったら?

隼人

そうだな……

隼人

クッキー作って貰いたい! 「あーん」して貰ったりしてな!

あけみ

えー、あたしがいるのに!?

隼人

お前、クッキー作れねーだろ?

あけみ

や、やれば出来るもん……

隼人

うあ! でも、あけみ似だったらヤベーぞ!?

あけみ

ひどーい!

隼人

ははっ!

隼人

そういや、そろそろ子どもの名前、決めなきゃな!

あけみ

うん! いろいろ考え過ぎちゃって決まらないよ!

隼人

考えてたんだけど……男の子だったら「のぞむ」で、女の子だったら「のぞみ」ってのは、どうだ?

隼人

ちなみに、漢字はどっちも「希望」って書いてさ

あけみ

希望(のぞむ)くん……
希望(のぞみ)ちゃん……

何度も何度も、名前を噛みしめるあけみ。





そして、破顔して言った。




あけみ

うん! いいね!

隼人

だろ?

あけみ

私たちの「希望」だもんね!

隼人

ああ、その通りだ!

ついに名前が決まり、俺たちはお互いに微笑み合った。









そして「希望」に会える日を、心待ちにしていたんだ。









「その時」まで、出産というものは「普通」に迎えるもので、「普通」になされるものだと思い込んでいた。










それが、当然のことだと……思っていたんだ。









それから2週間後。










妊娠週数22週と3日。










「希望」はたったの500グラムでこの世に生まれてきた――。


















pagetop