――官邸会議室――

戦況報告いたします。突如現れた地球外生命体と思われるものが、西部の都市を破壊。今は廃墟と化してはおりますが、そこの残党は我々が殲滅。じきに復興へと動き出せるかと

……

 魔女を撃退した翌日、次の三日月夜に向けて、会議が行われていた。

そうか、ご苦労だった。――前衛はどうだ、敵の情報を

 上座に座るスーツ姿の男が、薄い表情で銀髪の少年に問う。

はい。空中に突如黒い渦が発生し、魔女……と呼ばれる敵はそこから出現。レーダーによると女のような人型をしているとのこと。宙に浮いたまま、何か特殊な力で凶暴な怪物たちを操っている模様

ふむ……

一般人は未だその怪物たちに襲われている。ローザ様が作ってくださったブレードで対抗しておりますが、日が経つにつれ成長し、獰猛化しているようです

で、その魔女とやらは取り逃がしたのか!?

 淡々と報告する少年に向かって、声を張り上げる上官らしき男。

……空中で消えました

そんな手品かよ!? もっとまともな手がかりを頼むぜ!

申し訳ありません

 少年は目を伏せ、やるせないような表情を見せる。

医療班、被害は?

現在確認されている死者は259名、負傷者は1万人に及び、重傷者の手当てが追いついておりません。遺憾ながら今後も死者数は増加すると想定されます――

我々も早く現場へ戻してください、長官!

 医療班、そう呼ばれた眼鏡の女性が、おとなしそうな風貌に似合わず、声を荒げた。

まあ待て、気持ちはわかるが……このままでは全人類が滅亡する。冷静に対策を講じるのだ

……

ドクターローザ、我々に抗う術はないのでしょうか?

 銀髪の少年の横に座っているローザと呼ばれる少女は、あどけない子供のように足をばたばたとさせながら答える。

ありますよー。RAVEは多少ながら魔女に傷を負わせましたっ! だからRAVEの威力をもっと上げるのですよー

しかしRAVEは貴方が2年かけて開発した軍事兵器。魔女にも効いたことは幸運でしたが、そんな数日で強化できるのもなのですか

可能性はあるのですよっ

 ローザは、ぴょいと椅子から立ち上がり、自信ありげににっこりと笑う。

いかに?

やっつけた敵さんの中に高エネルギー集合体の結晶を発見したのですよー。それを応用すれば行動不能にすることぐらいは可能だと思うのですー

ふむ……その結晶の回収が最優先事項ということですな

 長官は顎に手をやり、少し考えるしぐさをした後、軍服を着た男たちに指示を出す。

では、君たち二人で直ぐ回収に向かってくれ。時間が惜しい

承知!

了解です

 そこへ、ローザは立ち上がって手を挙げた。

はーい! あたしも行きますよー

またですか!! 貴女に何かあっては地球の未来はないのですぞ!

 机をバンと叩き、声を荒げる長官の男。

でもでもー、あたしも同行しなければ、次の襲来までに間に合わないですよー?

くっ……青夜君、危険はないのか?

無論、危険すぎます……!

まぁまぁ。状況的に必要なんですよね? 俺たちがいれば大丈夫っしょ

はいっ、その場で必要な結晶を見分けることができるのは、あたしだけだと思いますからっ

では私も同行します。何かあればすぐに手当てができるよう

わかりました……俺も命に代えてもお守りします

 少年は不本意そうな表情で同意する。

頼んだぞ……

(うしっ!)

 こそっとガッツポーズをするローザ。

ドクターローザ。くれぐれも勝手な行動はせぬよう……

はいはーい! がんばりますー!

うむ……。では、会議をすすめる。次の予想出現地についてだが――

 ――その後も作戦会議は続き、人類の希望を剥ぎ取るような報告ばかりで閉会した。

青夜君、ちょっとよいか

はい

 長官は銀髪の少年、青夜を階段で呼び止めた。

ドクターローザの頭脳は、この国の希望であり、象徴である。しかもまだ子供だ。なにがあっても……

わかってますよ。政府はそうやって大事に大事に、小さな頃から鳥かごへ『幽閉』してきたんですもんね

幽閉……そうとられても仕方がないが、あの方の頭脳は危険なのだ。間違った使い方をすると――

使い方ね……。いいですよ、俺はただ守るだけです。ずっとあの方の護衛を任されてきたんでね

期待しているぞ。戦闘力はもちろん、君のその献身的な姿勢を買っているのだ。我々に向けてではない、ドクターローザへのな

……俺には仕事以外、何もないですから

……あの日のこと、まだ思い出すか?

……いえ

 青夜は虚ろな目でそう呟いた後、再び階段を下り始める。

もう行きます。ローザ様が待ってますので

青夜さん! 青夜さん! あたし人生2度目の遠征なのですよー!

ええ……そうなってしまいましたね

まずはお洋服を買ってー、お菓子を買ってー

……旅行気分だと死にますよ

えへへ!

――ところで、昨日は守ってくれて、どうもありがとうございましたっ!

当たり前です。俺は貴女を守ることが仕事ですから

なんかその言い方、冷たくないですかー

 青夜の顔を覗き込み、拗ねるように頬をふくらませるローザ。

すみません、こういう性格なもので

ほんっと真面目ですねー!

ところでぇ、あの魔女さん、光の球をドバーって出すやつ、まるで魔法みたいでしたねっ!

なにをおっしゃいますか。この世に魔法なんてもの

でもでもっ、魔法使いとか女の子ならやっぱり憧れるんですよー!

貴女は世界屈指の科学者なのですよ。しっかりしてください

あはは、そうでしたっ! ごめんねっ!

(科学者である前にあたしも女の子なんだけどなあ……)

 こうして青夜たちは、魔女に対抗し得る唯一の兵器、『RAVE』の改良の為、廃墟と化した西部の都市へとエネルギー結晶を集めに向かうこととなった。

 その遠征が、青夜とローザ、そして地球の未来に大きな影響を及ぼすことになるとは、このときはまだ誰も知らなかった――

第一章 第一話『科学者と魔女』

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