颯太

隼人

隼人

……

颯太

隼人って!

隼人

……

颯太

おい! 隼人!

隼人

はっ!

颯太

どうした? ボーっとして

隼人

べ、別になんでもねーよ

本当は何でもなくない。

昨日、あけみから聞いた言葉が頭の中をリフレインしている。

隼人

冗談だよな?

あけみ

冗談?

隼人

悪かったって! 確かに冷たくしてしまってたかもしれないけどさ……

隼人

慣れから来る甘えって奴でさ……

隼人

お前のこと、ちゃんと心から大好きだから、そんな試すような嘘つかなくていいからさ……

あけみ

……嘘じゃないよ

隼人

え……じゃあ、マジで?

あけみ

うん、これ、くっきり線が出てるでしょ?

あけみが差し出したのは妊娠検査薬。

棒状のものにくぼんだ窓があり、そこに線が出ている。

あけみが言うには妊娠していると、線が浮かび上がるという。



……つまり、結果は陽性。

隼人

……

あけみ

ねえ、一緒に病院に行ってくれるよね?

隼人

びょ、びょ、病院!?

あけみ

うん、産婦人科! 本当に妊娠しているか、診て貰わなくっちゃ!

隼人

ちょ、ちょっと待て! 落ち着け!

あけみ

? 落ち着いているけど?

隼人

違う! 落ち着くのは俺だ!

何が何だかよく分からない。



展開に付いて行けない。

隼人

とりあえず、お前は早く帰れ! 明日の放課後、ちゃんと話そう!

あけみ

う、うん……分かった!

もちろん、昨日は一睡も出来なかった。

そして、もうすぐ放課後がやって来てしまう。

放課後……だ。

あけみ

隼人~来たよ~!

颯太

ふっ、奥さんのお出ましか……

あけみ

いつも旦那がお世話になってます!

隼人

……旦那じゃねーし

あけみ

……

颯太

じゃ、ごゆっくり~

そそくさと立ち去る颯太。

その気の使われ方が意味もなく俺をイラつかせる。



俺はあけみを促すと、無言のまま一緒に屋上へと上がった。





















隼人

……で、体調は大丈夫なのか?

あけみ

体調? 大丈夫だけど?

隼人

いや、その、なんだ……「つわり」っていうのがあるんだろ?

あけみ

今のところは大丈夫!

隼人

そっか、ならいいけど

あけみ

で、いつ病院に行く? 早い方が良いと思うんだ

隼人

あー、そのことなんだけどさ……

あけみ

隼人

妊娠が確定したとして……産むの?

あけみ

産むの? って……どういうこと?

隼人

い、いや、俺たち、まだ学生だしさ……

あけみ

うん、そうだね

隼人

まだ、就職もしてないし、そもそも結婚もしてないわけで……

あけみ

ウン、ソウダネ……

隼人

そんな状態で、子育てなんて、出来るのかなって……

あけみ

エ? ソレッテ……

あけみ

「産ムナ」ッテ……コト?

あけみが一歩、にじり寄る。

無意識に俺は一歩、後ずさった。

隼人

えっと、いや、あ、あのさ……

あけみ

ドウイウコト?

あけみ

ネエ?

あけみ

ドウイウコトナノ?

また、あけみが一歩、にじり寄って来る。



俺の知らないあけみが、目の前にいた……。

隼人

いや、その、さ、はは……

あけみ

ナニ笑ッテルノ?

あけみ

ネエ?

あけみ

ナニガオカシイノ?






また、一歩。





さらに一歩、もう一歩。





背中にはいつの間にか、金網の感触。





これ以上はもう下がれない……!!!!!





隼人

な、名前も考えとかなくちゃだな!

あけみ

……

あけみ

男の子だったら格好良い名前、女の子だったら可愛い名前がいいな☆

あけみ

あ、でもキラキラネームはダメだよ!

隼人

だな! はははっ!

俺は覚悟を決めるしかなかった。

隼人

ところで妊娠したこと、誰にも言ってねーだろーな?

あけみ

? 言ったけど?

隼人

親にも相談して、これからのこと、考えないといけねーしな……って

隼人

えーー!!!!!!

あけみ

麗花ちゃんと小春に言っちゃった!

隼人

ちょっ、おま……

ちょうどその時、校内放送が鳴り響いた。

「えー、山崎隼人と戸塚あけみ、至急、生徒指導室まで来るように」

隼人

くはっ……

半分、口から魂が抜け出た気がする。

そして、仰ぎ見た空はこの上なく青かった……。





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