天叢雲剣さん?
天叢雲剣さん?
静香と話すために、少し移動をすると、何か異様な気配を感じた。
神聖な感じと、少しの禍々しさ。
それと、奇妙に魅かれるような感じ。
近くまで来ると、それが人の形をしていることがわかった。
抱えるように、細長いものを持っている。
人?
翔さん以外にも居るのか?
てか、この人、
人間でいいの?
←
よくわからない。
人間だよね?
天狗の面をつけてるだけで。
どうした?
すみません。ちょっとあの人に話しかけてもいいですか?
あの人?
そこの……
ボクたちが行く道の少し先にいる人を示した。
…………いいよ。
なんだ?
今の間。
慶子の手を離し、小走りでその人の前に行った。
あの……
……。
顔色、悪いな。
乳がでかい薄着の女の子……。
細長いものは剣のようだ。
でも、刀ではなく、もっと古そうに見えた。
あの……。
……。
大丈夫?
……生きてるのかな?
人形のようにも見えて、その子に触れようと、頭に手を伸ばした。
触るな。
ああ、ごめんね。
すぐに手を引っ込める。
しゃべっただけで、急に人に見えてきた。
中学生くらいの女の子。
…………。
翔さんたちも追いついてきて、慶子はボクの手を握った。翔さんが何か言いたげな感じがしたけど、何も言わなかったから置いといた。
キミは、ここの子?
わらわが見えるのか?
見えるよ?
おぬし、名は?
経次郎。
経次郎か……。
ならば違うのう。
誰かを探しているの?
いや、昔、おばばにな。
「頼朝の手に渡ってはならぬ」
と言われたんだ。
おばば?
でも、何より頼朝という名前が出て、嫌な予感がした……。
二位の尼と言っておったかの?
その子は嬉しそうに言った。
え…………。
たぶんだけど、二位の尼は清盛さまの奥方で、三種の神器を持ち、安徳天皇と共に海に沈んだ人……。
…………。
ものすごく嫌な予感がした……。
キミの名前は?
わらわを知らぬのか?
おぬし、天狗じゃろ?
ここに来たばかりの
人間だから……。
人間?
その子はボクに近寄ってきて匂いを嗅いだ。
…………。
顔がくっつきそうなくらい近くまで来てたから驚いた……。
人間の匂いもするが、かすかに天狗の匂いもするぞ。
とても不吉な言葉を聞いた気がした……。
天狗とは、天狗の面をつけているだけではないのか?
人間と天狗は匂いで判別できるのか?
そして、匂いで判別できるということは、種族としても違うのか?
ボクは翔さんの方を見た。
もしかして、父は……。
半分天狗だよ。
…………。
衝撃の事実?
おぬし、
海爾の息子か?
はい。
それなら言っても
構わぬか……。
わらわは天叢雲じゃ。
…………。
持っている剣がですか?
なんか、敬語になった……。
いやいや、
わらわが天叢雲。
そういうお名前の女の子
ということですよね?
そうでもあるが、
わらわは付喪神じゃ。
高天原から降りてきたわらわが付喪神にならぬのなら、いったい誰が付喪神になるというのじゃ。
付喪神は、長い年月を経た物品に、神や霊魂などが宿ったものだったはず……。
ということは……。
←
まさかと思うけど
あの刀……。
翔さん……
これは、どういう……。
女の子より、翔さんに聞いた方が早い気がした。
海爾さんに頼まれてたんだよ。
天叢雲剣の捜索。
それ頼んだの
八百年前ですよね?
言ったけどさ、「探して来い」って……。
「殿のご意向は、何年経とうと達成せねば」って言ってたよ。
今出て来ても、ボクには意味がないんですけど……。
勇者の剣が完成しますぞ。
じゃねえよ。
クソ親父……。
そんなことないっしょ。
世界なんちゃら秘宝とかって言われてるんだよ。
興味ないの?
う゛……。
RPGにも出てくる伝説の秘宝……。
ホントはものすごく興味がある……。
ゲームなどで天叢雲剣が出てくると、周囲のモンスターが強くなっても使い続ける。
天叢雲剣は、強い剣ではあるが、最強ではない場合が多い。
だから、レベル上げにひたすら挑み、攻撃魔法に頼ったり、味方に強い武器を持たせたりして、自分が動かすキャラにはひたすら持たせ続ける。
でも「本物」は
違う気がする……。
それに、実際に手にできたとしても……
もう、
渡すべき相手がいないんだ……。
探していたけど、ボクが欲しかったわけではない。