気がつくと私は、見覚えのあるバーの中にいた。
私の真後ろには扉がある。
一度ここを訪れた時に入ってきたであろうドアは、少し離れた向かい側に存在していた。
つまり最初にここへやってきた時とは違う入口から入ってきたらしいが、例によって記憶はない。
私は身代わりの川というものを、小舟に乗って渡ったはずである。
意識が薄れていき、これが死というものなのだと実感したはずなのに。
私は何が起こったのかを整理するように、目の前に見えている物を一つ一つ確認していった。
上から浴びせられるライトの光を反射させて、薄く光沢を帯びたカウンター。
そのカウンターの奥の棚に並べられた酒瓶もまた、光を浴びてキラキラと光っている。
カウンターと逆の方の壁際には、中性ヨーロッパを思わす弓、価値があるのか判断不可能な絵画、個人的には可愛いと思ってしまう鳩時計、そこになぜかフライパン……といったように、不規則な品々が陳列されている。
もしかするとこれはこれでお洒落な飾り付なのではないかと思うのも、確かに覚えのある感想だ。
私を身代わりの川まで案内してくれた、水樹と水実という二人の子供もそこにいる。
水樹はカウンターの中でグラスを磨いている。
水実はカウンターの席で頬杖をつきながら、一冊の本を読んでいた。