すると、俊之が自転車で公園の外にやって来た。
山ノ井君、遅いねー。
遅いって、
まだ幾らも経っていないじゃない。
そう!?
絵美、電話をしてみたら?
嫌だよー。
もうすぐ、来るって。
木綿子って、
せっかちなんだね~。
私、待つのって苦手なんだよね。
すると、俊之が自転車で公園の外にやって来た。
俊之は自転車を公園の外で留めて、
公園の中に入って来る。
うぃ~っす。
ごめんね~。
呼び出しちゃったりして。
そりゃ、構わねーけど、
絵美も来てたのか。
長谷川もか。
山ノ井君、
女の子を待たせちゃ駄目だよ~。
仕方がねーだろ。
これでも急いで来たんだよ。
俊君、勉強の邪魔をしちゃって、
ごめんね~。
だから、それは構わないって。
んで、話って何?
山ノ井君さぁ、
絵美とどうなってんのかなぁって。
ん!?
絵美から聞いてないの?
聞いたけどさ、山ノ井君、全然、
絵美と遊んでないでしょう!?
ああ。
その辺、ちょっと、
おかしいんじゃないのかなって。
なんで?
だって、
付き合っているんでしょう!?
う~ん。
何、悩んでんのよ!?
いや、今さ、
交際を中断しているんだ。
中断!?
そそ。
何で?
何で?って、
お前の元気がねーからじゃん。
えっ!?
私!?
全部、聞いたよ。
絵美ー!!
由佳は絵美を睨む様に怒った。
ごめーん。
絵美は手の平を合わせて謝った。
由佳は再び俊之の方に向き直って言う。
じゃあ、何!?
私に同情をしてるって言うの?
そう。
俊之の返事を聞いた由佳は俯いてしまった。
由佳の体は小刻みに震えている様だ。
数瞬の沈黙が辺りを包み込む。
その沈黙を切り裂く様に由佳が怒る。
何で、あんたなんかに
同情をされなきゃなんないのよ!?
そりゃ、佐藤の言う通りだ。
本当、むかつく!!
ははは。
私がそんなに、あんたの事を
好きだったと思ってんの!?
どうなのよ!?
実際は!?
そんな訳はないでしょう!
そっか。
しょっちゃって!
最低!!
それだけ怒れるだけは、
元気になったみたいじゃん。
え!?
とにかくよー。
何よ!?
絵美は俺が絶対、幸せにしてやる。
佐藤には心配をかけねーよ。
そ、そういう事は絵美に
言ってあげなさいよ。
少し戸惑いながら由佳が言った。
まあ、そういう事だ。
まだ何かあんの!?
何もないわよ!
早く帰ればいいじゃん!
じゃあ、そうするわ。
絵美、長谷川、後を頼むな。
俊之はそう言うと、
公園の外に留めてあった自転車に乗り、
自宅へと帰って行った。
俊之が自転車を漕ぐ音が、
だんだんと小さくなっていく。
絵美、あんた、
何、ボーっとしてんのよ!?
だって。
そりゃあ、ねぇ。
あんな風に言われたらねぇ。
すごく格好が良かった。
やってらんないわ。
由佳!?どうしたの?
由佳は俯いたまま、何も答えられないでいる。
由佳、泣いているの!?
絵美にそう言われた途端、
堪えていた涙が由佳の頬を伝った。
そして由佳は絵美にしがみついて、
わんわんと泣く。
悔しいじゃん。
うん。
私、同情をされたんだよ。
うん。
好きだった男の子に
同情をされたんだよ。
うん。
悔しいじゃん。
うん。
山ノ井君、全部、
解っていたみたいじゃん。
何を?
全部よ。
うん。
それに、
何?
あんな事を言われたら、
もう諦めるしかないじゃん。
それは、そうだね。
私が引きずっていたのはさ、
諦めきれていなかったからだったんだ。
そっか。
さっき、気が付いた。
うん。
山ノ井君、私に諦めさせる為に、
あんな事を言ったんだよ。
うん。
悔しいじゃん。
うん。
きっと同情をされた私が
怒る事も解っていたんだ。
そうかな~!?
絶対、そうよ。
そうね。
それで今、私がこうして泣くって事も
解っていたんだよ。
うん。
悔しいじゃん。
うん。
全部、解られちゃっていたんだよ。
うん。
それがまた悔しくて、悔しくて。
由佳。
暫く由佳の啜り泣く声だけが辺りに響く。
そして木綿子が由佳の肩に手を掛けて言う。
由佳、今日は思いっきり、泣きな。
うん。
由佳。
今日、泊まってっていい?
当たり前でしょ。
今日は帰さないんだから。
じゃあ、取り敢えず、
由佳んチに戻ろう。
うん。
そして三人は由佳の家へと帰って行く。
時刻は夜の10時になろうとしていた。
公園の所々でツツジの花が街灯に照らされて、
妖しい香りを漂わせていた。