そう言いながら、
木綿子は小さい方のアルバムを取って、
由佳に渡した。
あんた、山ノ井君と
ちゃんと付き合ってんの?
なんで?
毎日、毎日、
私達と帰ってるじゃん。
たまには山ノ井君と一緒に
帰ったりすればいいのに。
せっかく帰り道が一緒なんだから。
そうだよー。
そうなんだけどね~。
俊君、バイトと勉強で
忙しいって言ってた。
へぇ。
もう名前で呼んでるんだ。
うん。
それにしても、
男って本当に鈍いよね。
鈍い!?
もうちょっと、女心を
分かって欲しいなって言うかさ。
それ、分かるなー。
そういう話を聞くと、
バイトや勉強と絵美と、
どっちが大事なのよって
言いたくなっちゃうのよね。
あはは。
何、笑ってんのよ。
あんたの心配をしてあげてんのに。
えへへ。
まー、
他人の私が心配をしても、
仕方がないんだけどさ。
俊君ね、
今度の期末テストで
一番を取るんだって。
そうなんだ。
え!?
一番?
本当に!?
あはは~。
何、笑ってんのよ!?
私もそれを聞いた時に、
由佳達と同じ様な
リアクションをしちゃったんだ。
山ノ井君って、
一番を狙えるくらいに頭がいいの?
うん。
実力診断テストは5番だったって。
すごい頭いいんじゃん。
そうだよね。
私、最近やっと、
立ち直れてきたかな~って
思っていたけど、そういう話を聞くと、
ちょっとまだ凹むんだよね。
なんで?
由佳も俊君の事を
好きだったんだよ。
そうだったんだ~。
木綿子と親しくなったのは
最近だからね~。
小学生の時も由佳とは時々、
遊んだじゃん。
ね~、
希はどうしているの?
希とは高校が別々になったのもあるし、
高校に入ってすぐ、
希に彼氏が出来ちゃったから。
どいつもこいつも、
彼氏、彼氏って。
私の相手なんかしてる暇はないわ
っていう様な感じでさ、
そんな時に丁度、由佳から声を
掛けてくれたから、助かったわ。
私の方だって、
絵美と山ノ井君が出来ちゃうし、
木綿子が居てくれなきゃ私、
一人ぼっちになっていたところよ。
私が居るじゃ~ん。
あんたはもっと、
山ノ井君と遊ぶと思っていたのよ。
そうだよね。
そうしたら、全然、
山ノ井君とは遊ばないで、
私達と一緒に居るんだから。
そんな事を言われたって~。
それより平気なの!?
由佳?
それが、よく分かんないんだよね。
何が?
だから、立ち直ったと
思っていたんだけどさ、
山ノ井君の頭が良かった
なんて事を知っちゃうと、
うん。
逃した魚は大きいって感じで、
ちょっと凹んじゃうんだよね。
俊君は魚だったんだ。
ただの例えでしょう。
分かっているわよ。
意味は。
意味は!?
使い方は知らなかった。
まったく。
えへへ。
とにかく山ノ井君、
見た目は余りパッとしないけど、
その他のところは結構、
ポイントが高いんだよね。
でも、俊君の見た目、
カッコイイとかは思わないけど、
そんなに悪くもないと
思うけどな~。
私だって悪いとは
言っていないわよ。
パッとしないって
言っているだけでしょ。
パッとしないって、
十分に悪口の様な気がするけど。
そうだよね。
だったら、そこは私が
悪かったのかもしれないけど、
そこが問題なんじゃないでしょ。
そういえば、そうだね。
とにかく山ノ井君、
総合点は結構、高いんだよね。
うんうん。
私はちょっと、
ついていけないかな。
その上、更に
ポイントアップな話を聞くとねぇ。
そっか。
大きいでしょう!?
逃した魚。
そうかな~。
そりゃ、あんたはいいわよ。
私が逃した魚、
釣り上げちゃったんだから。
えへへ。
私さ、健二の時は、
すぐに立ち直れたんだけどねー。
そうだよね。
健二の時はさ、
健二の方から私を
好きになってくれたからさ。
そうなんだ。
お父さんに別れさせられた時は、
大喧嘩して、沢山、
泣いたりもしたんだけど。
へぇ~。
後から分かったんだよね。
何が?
私がそんなに健二の事を
好きじゃなかったって事。
ふーん。
だから、結果的には、
それで良かったのかもって思ったんだ。
由佳って結構、
ドラマをしてるんじゃん。
だよね~。
そうかな!?
そうだよ。
今時、お父さんに無理矢理に
別れさせられるなんて。
でしょ!?
だから、私まだ、
お父さんの事を許していないんだ。
そうなの!?
だって、お父さん、健二の事を
悪者にして別れさせたのよ。
由佳のお父さんは
由佳の事を思って、でしょう。
それは、そうだろうけど、
健二の事を悪者にしたのも事実よ。
由佳も色々と大変なんだねー。
私もって事は
木綿子も色々、あるの?
当たり前でしょ。
私だって年頃の女の子なんだから。
何があったの?
私の話は今度でいいわ。
今日は由佳の話。
ほら、続けて。
どこまで、話をした!?
由佳のお父さんが
川崎君の事を悪者にしたって。
そうそう。
でも、私はお父さんとは違って
健二の為にもと、
結果的にだけど別れる事になって
良かったんじゃないかって。
なるほどね。
そして、それは私自身の為にも
良かった事だと
思ったりもするんだ。
結局はお互い様って事ね。
だって、そうでしょ!?
何が?
私からしたら、
大して好きでもない相手の事を、
好きだと勘違いをしたまま、
一緒に居るのは良くないでしょう。
うん。
健二からしても、勘違いをされたまま、
一緒に居られたって迷惑なだけじゃん。
迷惑って言うのはちょっと、
言い過ぎな感じがするなー。
迷惑は言い過ぎだとしても、
間違いではないでしょ!?
うん。
だからさぁ、
解った瞬間に吹っ切れたというか、
うん。
完全に納得して、
すっきり出来た感じだったんだ。
そか。
でも、それって結構、
ずるい感じがするなー。
なんで?
それって、由佳が川崎君の事を
好きになれなかった
言い訳の様に聞こえるけど。
木綿子って結構、
きつい事を言うね。
でも、ずるかったり、言い訳をする事が
悪い事だって言っている訳じゃないのよ。
どういう事?
みんな、そうやって多少、強引にでも、
自分を納得させて前へ進もうとしたり、
過去に決着をつけたり
するんじゃないのかな。
要するに、そうするのが
当たり前なんじゃないかって事。
木綿子の言う通りかもしれない。
でも、今回はそれが出来ずに、
ちょっと引きずっている。
そっか。
それで引きずっている自分に、
また凹むんだ。
由佳。
そりゃ、何でも簡単に
納得が出来たら、悩みなんて
なくなっちゃうんだろうけどね。
みんな絵美のせいなんだからね。
分かっているの!?
え!?
なんで、そうなるの!?
あんたが山ノ井君の事、
好きだって事を隠していたからよ。
そうだったんだ~。
その事なら、本当にごめんなさい。
まったく。
私が山ノ井君の事を
好きになったって言ったら、
絵美はもっと前から山ノ井君の事を
好きだったなんて言うから。
だって~。
なんで、もっと前から、
教えてくれなかったのよって事。
恥ずかしかったんだもん。
私、それを知っていたら、
山ノ井君の事を好きになって
いなかったのかもしれないのよ。
そうだね~。
そういう話だったら、
私も絵美に非があると思うな。
だから、本当にごめんなさい。
じゃあ、なんで私が
山ノ井君の事を好きになったら、
言う気になったのよ!?
由佳も俊君の事を
好きになったって事が
嬉しくて、つい。
あははは。
あんた、ちょっと、
おかしいところがあるよね!?
そう!?
普通、自分が好きな相手を
他の人に好きになられたら、
困ると思うけど。
うーん。
だって、ライバルになるって事じゃん。
それは、分かっているけど、
けど、何よ!?
由佳だったから。
私だったから!?
うん。
他の子だったら、
困ったのかもしれないけど、
由佳だったから、なんか、仲間が
増えた様な感じがして、
嬉しかったんだ。
やっぱり、あんた、変よ。
でも、らしいと言えば、
らしいと思うけど。
普通は逆だよ。
逆って!?
親しい人と好きな人が
かぶったら、余計に複雑だって。
うーん。
私は絵美が山ノ井君の事を
好きだったって聞いて、
複雑だったんだよ。
そうだったんだ。
普通はそうだろうね。
でも、普通じゃないところが
絵美らしい。
もー。
ひょっとしたら、山ノ井君も
普通じゃないんじゃないの!?
木綿子の言う通りかもしれない。
なんでー?
だって、
せっかく彼女が出来たのに、
全然、デートもしないで、バイトや
勉強ばかりしているなんて、
普通の男の子じゃない気がするわ。
それに絵美と付き合える
男の子なんて、それだけで
普通じゃない気もするよ。
木綿子、ひどーい。
とにかく目の前で、
いちゃいちゃされるのも、
腹が立ったりするのかもしれないけど、
余りなんにもないのも、それは
それで気が気じゃないって言うか。
由佳はそうかもしれないわね~。
じれったいと言うか、
一言、言ってやりたく
なっちゃうんだよね。
言ってみたら!?
えー!?
そんな事、止めようよー。
いいじゃん。
その方が由佳も
すっきりするってもんよ。
うー。
山ノ井君、
もう家に帰って来ているかな!?
そんなの分かんないよー。
電話をしてみればいいじゃん。
絵美、電話をしてくれる!?
私は嫌よ。
じゃあ、いいわ。
木綿子、そこの卒業アルバムを取って。
どっち?
どっちだっていいわよ。
ずっと同じ学校だったんだから。
そうだったわね。
そう言いながら、
木綿子は小さい方のアルバムを取って、
由佳に渡した。
本当に俊君に電話をするの!?
ここまで来たら、
一言、言ってやんなきゃ、
気が収まんないわ。
そう言いながら、
由佳は卒業アルバムを開いて、
俊之の家の電話番号を探す。
勉強の邪魔をしちゃ悪いって。
一日くらい、平気だって。
見ーつけた。
そう言うと、由佳は自分の携帯で電話をした。
数回の呼び出し音の後、俊之の母が電話に出る。
もしもし。
山ノ井さんのお宅でしょうか!?
はい。
佐藤といいますけど、
俊之君はいらっしゃいますか?
同級生の子かしら!?
はい。
ちょっと待っててね。
そう言ってから、俊之の母は俊之を呼びに行く。
暫くすると、俊之が電話に出る。
もしもし、佐藤か!?
何の用?
ちょっと
話をしたい事があるんだけど、
今、出て来れる?
さっきシャワーを浴びてきて、
これから飯を食おうと
思っていたんだけど。
じゃあ、
ご飯を食べた後でいいわよ。
いいよ。
飯より先にそっちを済ませるよ。
別にそんなに急ぐ訳じゃないけど。
食後にすぐ、
出掛けたりしたくないんだよ。
そっか。
じゃあ、どうすればいい?
今、自宅か!?
うん。
だったら、佐藤んチの近くに
公園があっただろ!?
うん。
これから、すぐに、
そこへ行くから待ってて。
分かった。
そう言うと、由佳は電話を切った。
どうすんの?
そこの公園に来てくれるって。
私、どうしようかな。
一緒に来てよ。
私も行こうっと。
そして三人は由佳の部屋を出て、
近くの公園へ向かう。
時刻は夜の9時を回ったところだった。
いいところで〜(^^)
気になる展開!