窓から差す光が眩しい。
そしてけたましく鳴り響くアラーム。
ダブルパンチからの奇襲により優真は強制的に眠り起こされた。

眠い……

欠伸をしながら呟く。
時刻は5時30分
学園を登校するのにはやや早い時間帯だ。

優真はベットから離れてタンスからトレーニングするのに着る服に着替えた。

一階に下りキッチンへ。
冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して玄関へと向かった。

外に出ると、眩しい光に目を細める。

よし、走りますか

朝のランニングは優真の日課だった。
これがないと一日が上手くいかないと言ってもいい。

走るスピードはやや速め。限界と思われる半分に調節しながら走り、3キロ程度の距離では物足りなく感じる。

住宅地を掛け走り、河川敷を走る。
程よく身体が温まるのを感じると、走った道を戻り、やがて小さな公園へとたどり着く。

ふぅー

手に持っていたスポーツドリンクを飲んで一息。
突然止まると心臓に負担が掛るので歩きながらだ。

おはよう、ユウくん

春奈か。おはよう

桐崎春奈(きりさきはるな)。
それが彼女の名前であり、幼馴染でもあった。
朝早くここに居ることはもはや常連なので優真は大して驚いたりはしない。

春奈の足元には小さな犬がいて、いつもここで朝から散歩をしている。

ポチは幸せ者だな。飼い主に愛されているんだぞー

なでなですると、ポチは嬉しそうに尻尾を振るう。

ユウくんはすごいね。いつも走っているんでしょ。私は運動音痴だから無理だよ

俺も昔は運動音痴だったよ。それは春奈も知っているでしょ?

そうだよね。ひたすら努力をした結果なんだと思う。私も努力したらユウくんみたいになれるかな?

残念だけど多分無理かな?

ええー!

とても驚いた様子だった。
まさか否定されるとは思わなかったのだろう。

努力をした人は伴って結果が返ってくる。けど春奈は俺みたいにはなれないんだ

そうだよね。私どんくさいから……

違うよ、そう言う意味じゃないんだ。誰も他人の真似はできない、だって人には得意不得意があるから。

だから俺は春奈みたいな人にはなれないし、春奈は俺みたいな人にはなれない。
同じ時期同じ鍛錬を積み上げてきたはずのアスリートが全く同レベルの実力にならないことが物語っているだろ?

た、確かに……

そう言うこと。別に春奈をないがしろにした訳じゃないんだ

そっか……私はユウくんにたいにはなれないんだ……

俺は春奈の良いところをいっぱい知ってるよ

私も知っているよ。ユウくん良いところ。

えーと、料理が美味しいし、優しいし、カッコイイし、運動できるし、頭もいい

あはは、ありがとう

面と言われてみて恥ずかしく思う。
頭脳面では実際は春奈のほうが頭がいい。
なんたって学園一位の座は春奈だ。

じゃあそろそろ家に戻ろうかな

時計をみて、時刻は6時半過ぎていた。
ちょうどいい時間帯である。

ねぇユウくん

優しい笑みだった。

私はいつでもユウくんの味方だからね?

突然だな。どうしたんだよ?

ユウくんは一人で背負っちゃうから、いつでも私に頼ってもいいんだよ。悩みがあるなら相談してよ

俺は大丈夫だよ

……そう、ならいいの

ごめんね突然、ああ何言ってるんだろう私!

くさいセリフだと思ったのか恥ずかしそうだった。
優真の気持ちには確かに嬉しさがあって、そんな春奈の様子をみて、なんだか無性に可愛く見える。
いや、春奈はいつも可愛い。自慢の幼馴染だ。

じゃあ学校で

うん、バイバイ

公園が出た後、歩く足を止めた。
もう春奈の姿も犬の姿も見えない。
優真は彼女の名前を呼ぶ。

ゆい?

なに? お兄ちゃん

俺は決してすごい奴でも強い奴でもないんだ

うん、知ってるよ。私はお兄ちゃんの妄想だから、お兄ちゃんのことなら何でも知ってる

……それでもがむしゃらに前に進むしかないんだ。そしたらいつかは光が差すってものだろ

頑張って!

ああ、今日は忙しい日になる。だから唯、お兄ちゃんを見守ってほしい

もちろんだよ! 

それから、唯の姿はそこで途絶えた。
さて、今日も一日が始まる。

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