黒幕は、あっさりと自分の仕業だと白状した。
淡々と悪びれもせずに。
連続で襲撃失敗した挙句に無様を晒したと軽く説明して、彼女は最後にこう締めくくる。

そういうわけだから
急いでるんだ、早く入れて殺してよ

どこか急かすように、彼女は急げを繰り返す。
死にたがっているわけでもないし、延命にしては真逆すぎる。
戸惑う生き残った参加者達。
そんな中。

黒花

…………
皆さん、望み通りにしてやりましょう

切り出したのは黒花だった。
へらへら笑っていた表情は引き締まり、真顔になりゲームを終了させる事に優先するように言う。

黒花

遠慮はいりませんよ
人を殺せなかった人狼は、所詮この程度
どの道、二人はわたしの前では無力だったのですから

人狼の襲撃を全て防ぎきった、完璧なる読み。
『狩人』がそれを言うと、狼よりもこちらの方が余程恐ろしいと、彼らは感じた。
真剣な顔の彼女の言うまま、相手を選択。
投票の時間になり、人狼に投票する。

天井のスピーカーが追放者が決まりました、と告げる。
途端。

ッ……!

苦しそうにもがき出す桜。
胸を押さえて膝を付く。
だが、悲鳴は上げなかった。

成程……
そういうことね……

一人納得したように、呟くと倒れ込む。
そのまま、俯せのまま動かなくなった。

天都

……死んだのか?

時雨

あぁ、間違いなく死んでいる

時雨が倒れる彼女の脈と呼吸を調べて、死亡を確認。
人狼を村人たちは追放した。
天井から、気の抜けたファンファーレが流れ出す。
ゲーム終了、おめでとうございます。
あなた達は見事人狼を追放いたしました。
勝者には、賞金が支払われます。
暫く、そのままお待ちください。
そう、機械音声が伝えた。

春菜

お、終わった……ね……

緊張が切れたように、椅子に力なく座り込む春菜。
その一言で漸く、ゲームを終わらせたという実感を彼らに与える。

月子

や……やりましたっ!!
兄さん、私達勝てたんですっ!
これで手術費用は集まりましたよ!

月子

一緒にこれからも生きていけるんですっ!
兄さんから、私は絶対に離れませんっ!

月子が嬉しそうに兄に飛びついて、大喜びをしている。
ゲーム中は決して見せなかった一面。
全開で兄に甘えている。

天都

ん、まぁ……勝てたのはいいんだけど……
何かあっけないな
人を殺した気がしない

時雨

いいんじゃないか、相棒
そんな自覚はないほうがいいだろう
互いに生き残ったじゃねえか

天都は何か納得しないように言う。
時雨は察した。
そこでくたばっている人狼の様子に、違和感を感じているのだろう。
今は素直に喜ぼう。
今更、人の死に怯えるほどでもない。
ここ数日で、ぐっと『死』に強くなったと時雨は自覚していた。

天都

あ、そうだ
時雨

時雨

あぁ、そうだな

それよりも、と二人の男は主語なしで通じ合い。
天都は甘えてくる月子を宥めて、立ち上がる。
時雨と天都が対峙する。そして。

天都

うぉっ!?

時雨

ぐはぁっ!!

全力で、互いを殴った。
クロスカウンターが、二人の顔にヒットする。
綺麗に、二人は仰向けで後ろに倒れた。

未来

何よ突然ッ!?

神無

天君……?

未来と神無が吃驚して、目を見開いた。
二人は、大の字に転がって能天気に笑っていた。

天都

アハハ……痛ってぇ……
時雨のパンチはいい切れ味してるな

時雨

こっちも、な……
久々のストレート、マジで効いたぜ……

あっ、と神無は思い出す。
そういえば、終わったら一発殴って、ゲームの中の事は水に流すとかなんとか言っていた。
でもまさか、本当に殴るなんて。

月子

兄さん……一応、私達病人ですよ?
何してるんですか?

春菜

天ちゃんらしいね

付き合いの長い二人は、呆れたり微笑んだりしている。神無の知らない、人とのつながり方らしい。

未来

殴り合いで流すって……
夜伽兄、あんた病人なのに何で体育会系みたいなことしてるの?

天都

俺らの昔っからの流儀なんだよ
謝る代わりに一発殴って終わらせる
後腐れはしねえように、さ

頬を真っ赤にした馬鹿二名が起き上がる。
助け起こされる天都達。
そんな中。

いやー、いいもの見せてもらったよ
殴り合いで分かち合う、青春だね!

桜……いや、エビまで普通に起き上がった。
近くに、たまたま神無がいた。
ボリボリ後頭部をかきながら立ち上がるエビを見て、神無は凄く怯えた。

神無

ひっ!?

残像が見える速度で天都のいる所まで移動、しがみつく。
彼女を見て凍りつく一同。
エビは……生きていた。否、生き返った?
常識的に考えて、有り得ない光景がそこにあった。

天都

お前……どうして……?

時雨

バカな……!?
脈も呼吸もない状態で、いきなり立ち上がっただと!?

時雨が度肝を抜かれて、幽霊でも見ているかのように彼女を見ている。
呆然としている天都の周りには仲の良い女子たちが揃ってしがみついている。
そんな中、一歩前に出る少女。

黒花

予想通り、やはり生き返りましたか……
エビさん、貴方どうやら普通じゃないようですね?

絶句する彼らの中で唯一、黒花はエビを見ても驚かなかった。
寧ろ、予感があったのか彼女に堂々と問う。

あれ、驚いてない?
そっかそっか!
如月は他にもやったことあるんだっけ?
道理で驚かないわけだ

黒花

質問に答えていませんね
では、質問を変えましょう
メタ推理、あるいは邪推しますが……『アクティブ』への参加経験がありますか?

『アクティブ』?
聞き慣れない単語を黒花は言う。
だが、エビには通じたようだ。

うっそ?
如月『アクティブ』知ってるの?

黒花

ええ、実はわたしの妹が前回主催されたゲームに参加していましてね
散々な目にあって、挙句には『百人切り』という異名を持つ危険な人物と争って半殺しにされて帰ってきたんですよ

黒花

本人は満足そうにしていましたがね
もう一度遊んでもらいたいらしくて『百人切り』にストーキングするとか言ってました
ま、それはおいといて
その時のGM代理が、曰くつきの死なない身体を持っていた、と聞いていまして
恐らく……あなたは、祈りが呪いに反転してそのまま解放されましたか?
願いを叶えるゲーム、というのが妹の参加したゲームのキャッチフレーズでして
死人を条件付きで復活させることができるらしいんですよ
エビさんもそのクチでは?

黒花が言うと、エビは唖然としていた。
核心を付く一言だったのだろうか。
忌々しそうに舌打ちして、彼女は説明する。

祈りが呪いに反転する、か……
最初からこの願いは呪詛だよ
あたしを蝕む、ただの呪い……
見てのとおり、あたしはそういう身体なんだ
多分前回? って奴は知らないけど、あたしもその代理知ってるよ
志田奈々……
あたしをこんな身体にした人殺しの名前

あの女……あたしを殺しておいて、もう一度生き返らせた挙句に、延々と苦しめとか言って中途半端な状態にして逃げてくれたがったのよ!

しかもあたしを生き返られたついでとか言って、あたしの願いまで叶えやがったんだよ!
あたしの覚悟、知っていた上で!
舐め腐ってにも程がある!!

バンッ、と机を平手で叩いて怒鳴るエビ。
何に憤っているのか、サッパリだったがその志田なる人に、彼女はプライドを侮辱されたらしい。
その憤りが、彼女を更に怒らせるとか。

黒花

……何を叶えられたんです?

……あたしの死んだ家族の、黄泉がえり……
あたしは、それを叶えたくてゲームに参加して、負けたの
でも、あいつ……権限とか何とかっていって、終わった後に全員の願いを強制的に叶えたんだよ

エビは悲痛な声で、黒花に説明する。
肩を竦める黒花。

そんなおかげで、あたしだけゾンビみたいな身体になってさ……
まあ、死なないだけで年はくうよ
だから、不死だけど不老じゃないの
時間しか、あたしを殺せないから
一応、今は家族と暮らしてるよ
それなりに大団円でね

でもさ……結構歪なんだよね、今の環境
あたしがこんなんだって言うのを、説明できないし……

聞いている限り、悪いことをしているようには聞こえない。
エビ的には許せないらしいが、志田なる人を責めるのかお門違いだと天都は思う。
ただ、生き返った理由は納得できた。
成程、ゾンビ化してるのか。
言うまでもなくオカルトだが、いきなり人が死んでいるのを見ているから、どこか頭は理解していた。

あぁ、あたしの用事ってのは、帰ったら弟達とゲームする約束してるんだ
一週間ぐらい友だちと旅行に行ってくるって言って外出してるから、早く終わったなら早く帰りたいわけ

天都

そんだけかいっ!?

エビは全く抵抗しない理由として、無駄な足掻きはしない方が時短になると考えて、スッパリ諦めたらしい。
思わずツッコミを入れる天都。

あ、あたしは家族が一番大事なの!
優先順位は家族がナンバーワンでしょ!!

腕を組んで、ドンッ! と効果音が聞こえてきそうなほど構えるエビ。
人狼の中身は、ただの家族愛が強すぎる変な人でした。

春菜

そうだね
それが正しいと思うよ
弟さんと少しでも一緒にいようとするお姉ちゃんって、素敵だと思う
理想的だよ

月子

上に兄妹がいるから言えます
その行動、イエスです

神無

家庭的で……いいと思う……

時雨

なるほどな
家族愛があることは確かに良いことだ
優先順位が高いことも共感できるぜ

他の連中は大半うんうん、と頷いている。
どういうことだ。

天都

えぇー……

未来

夜伽兄、あたしはあんたと同じよ

天都

そうか、よかった
味方がいて……
空気がぶち壊しじゃねえか

未来

余韻もへったくれもないわね
想像とは全然違うわ……

常識人二人は、人狼の実態を知って双方、項垂れた。
ゲームが終わった。
同時に悟る。
世の中は広い。
こんなゲームもあれば、時間だけが殺せる数少ない相手の不死者もいる。
そんなこんなで、諦めの良すぎる人狼を追放したら、中身は家族愛に溢れたゾンビさんで、何事もなかったように生き返りましたとさ。

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