――全員が、談話室に集まった。
各々、未来の顔を見て驚いていた。

時雨

生きていたんだな、あんた
俺はてっきり今日死んでいるのはあんただと思っていたぜ

黒花

光野さんに同感ですね
よく冷静な判断が出来たじゃないですか

…………

残された人物達に、苦い顔で黙る未来。
失礼極まりないが、死んだと思われていたのも事実なので反論できない。
同時に、欠けている一人――立夏は死亡したと全員理解した。
春菜が『狐』だったと伝えて、主導権を未来に託す。

未来

…………
あたしから、みんなに提案があるわ

重い口調で、未来は切り出した。
視線が集まった事で、彼女は語りだす。

未来

もうゲームも終盤よ
今日か明日には、決着がつく
だから……みんなの考えを聞きたいと思うの
それで、追放する人間を……決めましょう

未来が先んじて彼らに伝えていたのは、もう終わりの近いこの状況で、無闇に人を追放するのは良くない。
全員の考えを、一通り聞いてから考えようというものだった。
異議はあるかと問うが、誰も何も言わない。
考えを言っている最中は、無駄な口論になるので、口を挟まないという前提で、進めることになった。
異論はないと判断して、未来は自分の考えを言い出す。

未来

残ったグレーは……如月、光野、その二人だけ
どっちかが黒だと、あたしは考えるわ

未来

あたしはね、エビは『狂人』ではないかと疑っているわ
きっとエビは、隠れている『狼』の心当たりがあると思う
『狼』を助けるために、場を混乱させる為に偽の『蛇』を名乗っている
本物は、グレーに紛れて潜伏していると思うのよ

未来

無論、あたしに占われれば、一発でバレるけど……『蛇』はあたしに牽制ができるからね
注意を引いて、こちらを躊躇させることで、足止めをしてる間にあたしを『狼』が殺せばいい
互いを知らなくても、人数が減れば自ずと見えてくるから、顔を知らなくてもきっとそうだと思うわ

未来

だから……あたしは、残りのグレー二人のどっちかを、追放する方針にしたいわ
確率として、半々で黒を潰せる
下手に『狂人』の誘いに乗る必要はないわ
リスクが大きすぎる

……普通はそう考えるだろう。
『狂人』は『狼』側の人間であり、嘘をついて手を貸すのが役目だ。
役目を放棄していない限りは、結論はこうなる。

神無

…………

放棄していればどうなるか。
裏切っていればどうなるか。
答えは、これだ。

未来

きっと昨晩は、一条を狙ったんでしょうね
彼女は『村人』だもの

昨晩襲われたのは神無ではないかと伝えてある。
未来の目線はこうだ。
彼女は現在勝敗に関係ある唯一の『白』。
神無は『村人』だと思われる。
そして襲われたと仮定しておくと、彼女は『狩人』ではない。
守られていたから生きている。
そして残りの二人のどっちかが『狼』と『狩人』。
賭けに出るつもりのようだ。

そう述べた上で、彼女はグレーを減らす選択肢を取りたいという。
黙って聞いていた他のメンツ。
次に意見を言いたいのは誰だ、と未来が問う。
そこで挙手した男が一人。

時雨

次は俺が意見したい

眼鏡を光らせる時雨だった。
彼は顎に手を当てて、眉を顰めた。

時雨

俺自身、腑に落ちないことがあるんだが……一応言わせてもらおう
俺は『狼』じゃない
俺を殺すと、全滅して負けるぞ

時雨

俺の追放は勘弁してくれ
それに、疑問があるんだ
一条が何なのか……俺にはよくわからん
そいつは本当に『村人』か?
少なくても『狩人』ではあるまい

……事実上のカミングアウトだった。
時雨はこう言いたいのだ。
俺が本物の『村人』だ、と。
びくり、と神無は反応してしまう。
眉を顰める未来。
訝しげに見てくるエビと月子。

時雨

まぁ……大方、そうだろうと思ったがな
俺の視点からすれば、全部の役職は浮き彫りになっているぞ
一条は『狂人』で、エビが『狼』、恐らくは如月が『狩人』、そして俺が『村人』だ
俺は無害だからな
殺すのはやめてくれ

時雨が村人、か……。
天都はその言葉を聞いて、だいじょうぶかと思う。
まだ『狼』は、生きているのに。
狙われたら最期、死ぬ。

神無が視線に怖がって、天都の背中に隠れてしまう。
ちらっと、彼の背中から様子を覗き見る。
ぐるるるる、と月子が不機嫌に唸り声を上げて威嚇するが無視していた。

時雨

一条を責めるのはやめてやってくれ
彼女は俺の相棒の友人だ
彼女の味方するという言葉に偽りはなかった
それだけの話だろう?

攻撃的な視線に怯える少女に相棒は優しく微笑んで、そのまま天都にも言った。

時雨

俺はお前の敵じゃねえよ
追放先は、お前に任せるぜ天都

これで終わりだ、と告げて時雨は次を促す。
次に怖々手を挙げたのは、バトンを渡された神無。
ちらりと天都を見上げて、自分が生き残る方法でやれ、とアイコンタクトで伝えられて、頷く。

神無

私は……
エビを、追放することを提案したい

神無

私は能力は持ってないから……
黒でもなんでもいい
怪しい人を追放したい
そこには妹さんもそれには入ってる……
でも……私は天君の不利益にはなりたくない
私は、天君の味方だから

神無

優先するなら、エビから……
エビが何であろうが『狼』じゃなかった場合は、妹さんも……追放する

彼女はそれだけ、と小さな声で言って沈黙した。
次に天都が、神無に賛成すると簡潔に言って、月子に回す。

月子

エビを殺すなら賛成です
エビでオーラスですからね
万が一違ったときは私も殺していいですよ?

月子は相変わらずアンチエビだった。
次に渡された春菜も、似たようなもの。

春菜

二人に賛成だよ
エビさんでいいと思う

エビ殺しに考えが纏まりつつあった。
次に、その様子をニタニタ見ていた黒花が口を開いた。

黒花

『狼』には分が悪いんじゃないですか?
場を掌握しているのはどうやら『共有者』の片割れみたいですよ?

実に愉快そうにチェシャ猫のような笑みを浮かべて、不愉快そうな顔のエビを見て言う。

黒花

そうそうエビさん
わたしを『狂人』だと思っているようならご生憎様
わたしは光野さん言うとおり、『狩人』ですよ

そんでもって、あっさりと自分の役職をばらしてしまった。
唖然とする未来。
ぱくぱくと口だけが虚しく上下している。
天都、神無、時雨はだろうなと想い、正体を知っていた月子は意図を理解しニヤリと笑う。
春菜はポカーンとしていた。

黒花

この性格は元来のもんでしてね
っていうか、わたしは元々『蛇』が妹さんだと知ってたんですよ
やる前から手を組んでいたものでしてね
偽物が『狩人』だって言ってこいつは黒だと分かったから一条さんの案に乗ったんですよ
そのせいで、恐らくバレたんでしょうけど

黒花

意識して周りを茶化して『狂人』みたいに振舞ってました
まさか引っかかるとは思いませんでしたよ
あんな大根役者の演技に

黒花

因みにあなたの動きは面白いようにわかりましたよ?
最初に言いましたけど、わたしは別種とはいえ一応経験者
警戒しておくべきでしたね

黒花

わたし、これでも戦場帰りなんで

やれやれと肩を竦める黒花。
小馬鹿にしたような仕草に、次第に顔が険しくなるエビ。
最後にエビの番だが……その前に限界がきてしまったようだ。

未来

あんたが『狩人』だったの!?
ちょ、巫山戯たことしてんじゃないわよ!

再起動した未来が、黒花に噛み付いてしまった。
黒花はケラケラ笑って言い返す。

黒花

まぁまぁ、久遠寺さん
ふざけていたのは意識して、です
多少大袈裟にしていましたが、本来わたしは楽しければ何でもいいんですよ
そういう意味で、久遠寺さんの喧嘩のシーンは最高でしたよ

未来

このっ……!

ぎりぎりと拳を握る未来。
黒花は向き直り、天都を見る。

黒花

色々助かりましたよ、夜伽さん
あなたのおかげで、楽しい三日間でした
無双プレイが出来て、非常に満足です

天都

なんでだろう、神無の恩人なのに……
感謝する気持ちが湧いてこない

素直な感想だった。
こいつ、確かに強かった。
黒花の読みのおかげで狼は誰も殺せず完封され、挙句にこの始末だ。
あまりの無敵っぷりに相手に同情さえしてしまう。

黒花

でしょうね、わたしはこんなんですし
夜伽さんには女難出てそうですし
然し……こんな状況でハーレム作るとは、中々のやり手ですね
実妹含めるとか、上級者とでもいいますか

黒花

夜伽さんで遊ぶのも、面白そうです
わたしも混ざっていいですか?

そしてこの始末。
こっちに来ようとする黒花。
背筋に嫌なものが走る天都。
逃げようとするが。

月子

如月……
これは、私の兄ですよ?

春菜

遊びで近寄ってこないで

神無

…………

女性陣に、全力で拒否されている。
もっと楽しそうに、彼女は笑う。

黒花

あぁ……楽しい、すごい愉しいっ!!
いいですよ、拒否されたら全力で奪うのみです
逃げても追いますし、隠れても探しますよ?

天都

くるなッ!!

エビや未来の存在を忘れて、彼らは天都争奪戦を開始。
置いてけぼりにされた彼女達は、やれやれと頭に手を当てていたり、喚きながらその輪に突撃していったり。

何か思惟に耽ていたエビこと、桜。
やがて諦めたように、机に突っ伏した。
大きな声で、彼らに伝えた。

うーん……こりゃ、詰みっぽい……
四面楚歌だし……
しゃーない、あたし投了するよ!

みんな! これで終わりになるからさ!
あたしを追放してくれていいよ!
これでゲームクリアだね!
おめでとう!

ハキハキした喋り方で、彼女は極めて明るく自分の殺しを認めた。
黒幕とは思えない、フレンドリーさ。
今までの眠そうな雰囲気は、微塵もない。

あたしが言うとおり、ラスト狼だよ
ちゃちゃっと殺していいからさ
早めに終わらせてくれない?

天都

やけにあっさり、認めるな……

天都がやりづらい、と思いながらぼやく。
それを聞いて、桜は大笑い。

あははっ!
そりゃあね!

あたしはこっちの方が素なんだよ
それに、今更怖いもんでもないしね!
この後、用事もあるからさ
さくっと殺して欲しいわけ
時間が惜しいんだよ

桜の言い分は妙だった。
死ぬのに、用事がある?
首を傾げる一同。
一応、ゲームはこれでオシマイらしい。
しかし、何か釈然としない。

黒花

んっ?
この人、何時かの人と同じ?
まさか……

黒花だけはこの反応に身に覚えがあった。
あの少女を彷彿とさせることに。

黒花

もしや、同類ですかねえ……?
でもあのゲームとは別のGMが開催しているはずなのに……?
そもそも、奴らの派閥は、もう処分されていて、生きてはいないはずでは?

黒花

ともあれ、やってみますか……

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