いあー、疲れたねぇ……
数人減ったけどまぁ、結構帰ってこれたんじゃない?
みんなー、お疲れー

天都

だから何でお前が取り仕切ってんだよ……
一応黒幕だろうが

ゲームは無事終了した。
彼らは来た時のように目隠しをされて、乗用車で運ばれて、集合場所まで送り届けられた。
時刻は既に真夜中だ。
事後の始末は全て主催者側が引き受け、賞金は口座に自動的に振り込まれているようだ。

乗用車が走り去るのを見送りながら伸びをするエビ。
唯一、反則的手段の生き残って、賞金がもらえなかったゾンビ狼はのんきなものである。
四人ばかりが死んでしまったが、言われてみれば半数以上が生き残って帰ってきている。
まだ、良いほうかもしれない。

春菜

生き残ったことを喜ぶべきなのかな……
でも……喜べないよ……

時雨

俺は個人的には、喜ぶ方だと思うぜ

時雨

ま、三城は巻き込まれただけだから、違うかもしれねえが……

時雨の言うとおり、春菜は巻き込まれただけで、何も覚悟もなかった一般の学生。
それが戻ってきたら、殺人を犯した罪人なのだ。
あの場所でのことは、表沙汰にならないとは言うが、罪悪感は残る。

未来

これで……あの子が……
あの子が助けられる……
よかった…………

未来は未来で、目的が果たせたようだ。
安堵して、夜空を見上げていた。

神無

……天君はこれからどうするの?

神無はエビにツッコミを入れている天都に問う。
天都は、妹の頭を撫でながら、答える。

天都

家に帰るさ、月子と一緒に

月子

ええ、帰りましょう兄さん

嬉しそうに目を細めてごろごろと喉を鳴らす月子。
まるで猫のような仕草だった。
神無はそう、と虚ろな瞳で彼らを見る。
星の光が、彼女に反射して天都の目に映る。

黒花

あぁ、いたいた
お二人とも、ちょっといいですか
この度はお疲れ様でした
わたしの無双プレイのお手伝いをしてくれてありがとうございました夜伽さん
妹さんも、お達者で

そこに黒花が駆け寄ってきた。
彼女は二人に楽しめたのは二人の助力のおかげだと礼を述べて、頭を下げる。

天都

俺は別に何もしてないけど……

黒花

いえいえ、大変面白いものを見せてもらいました
楽しませてもらえたお礼です
これ、どうぞ

天都の手に、彼女は何かくしゃくしゃの紙切れを手渡す。
それは一枚のメモ用紙。
中身は何かの電話番号だった。

黒花

わたし直通の番号です
くれぐれも、無くしたり、他の人間に知られたりしないでくださいね?
これは、本当に信用できる人間にしか渡さない、トップシークレットですので

兄妹がそれを見て首を傾げて、神無も覗き見しようとして、黒花に睨まれて逃げていった。
彼女は駄目らしい。

天都

いや、何の為に……?

黒花

困ったことがあったら、わたしに連絡をください
わたし、一応名の知れた何でも屋を営んでいるんです
こう見えても社会人なんで
面倒ごとを警察よりも早く手短に片付けてあげますよ?

黒花曰く、こっち系の裏業界で有名な何でも屋なのだと説明する。
非合法、合法問わず請け負った仕事は完遂するのがモットーらしい。

黒花

わたし、気に入った相手には依怙贔屓する人間なので
何のためと言われたら、保険です
この手のパイプは秘密さえ守れば最高の武器になりますよ

黒花は不敵に笑っている。正直、目が怖い。
天都が戦慄するが、月子はそれをひったくる。

月子

値段は?

黒花

格安でやらせてもらいますよ?

月子

そうですか
では頂いておきますね

月子もニヤリと北叟笑んで、それをポケットに仕舞い込む。
妹に有効なカードを与えてしまったようだ。
天都は軽く後悔した。
これ、こいつが更に過激なことをするきっかけにならないといいけれど。

黒花

それでは、お二人とも
この場は、一度さようなら
また会える時を楽しみにしています
次も一緒に楽しみましょうね

黒花は背を向けると、手を振って薄闇の中に消えていった。
結局彼女は何者だったのか、天都は知らないまま。
できれば二度と会いたくはなかった。

んじゃぁ、あたしも帰るわ
じゃーねーみんなー

ひらひらと手を振って、エビも走って帰っていってしまった。
わりと元気そうな走り方だった。

未来

あたしも帰るわ
学生寮から家出みたいなカタチで逃げてるから、そろそろ捜索願とか出されてそうだし

未来

あ、そういえば夜伽兄
ちょっといいかな?

未来も帰ると言いながら、天都に近づいてくる。
不穏な空気を感じて、月子が威嚇しているのを無視して、天都が問うと月子に慣れた未来は要件を告げる。

未来

今度、あんたウチの学園こない?
あたしの番号教えるからさ
あんた中々ルックスも性格も良い男だし、紹介してやりたいのよ

ここ数日で何故か天都の事を気に入ったのか、未来はフラグの立つことを言い出した。
途端、ぶわりと殺気立つ月子。
警戒するように聞き耳を立てている春菜。
困ったようにオロオロしている神無。
言葉を失う時雨。
彼の女難はまだ続いているらしい。

天都

え、遠慮したいんだけど……

未来

まぁまぁ、そんなビビらなくても何もしないわよ

未来

ゲームは終わったけど、痛くもない腹を探ったこともあるし
夜伽妹と三城とは喧嘩しちゃったしお詫びさせてよ
ウチの学園、結構規則厳しいけどあたしの権限でどうとでもなるからさ
一条とかも連れて、遊びにきてよ
歓迎するわ

どうやら、未来は詫びを入れたいらしい。
ゲームの中とはいえ、失礼な言動を繰り返したことには、ちゃんと謝りたいと言う。

月子

お詫び、と言われると……困りますね

春菜

いいんじゃないかな?
久遠寺さんがそう言うなら

神無

私は……行ってみたい、その学校

三人は天都にちょっかいを出す不埒な女子を追い払うことも含めて、彼ごと招待に乗ることにした。
天都も、周囲を囲まれて拒否権を奪われて、そのまま連れて行かれることに。

未来

あたしこう見えても生徒会長だから
多少は融通聞くし、楽しみにしててね

未来

あ、あとあの子達男に飢えてるから
デコイ用意するなら、光野も連れてくるといいわよ

さらっと怖いことを告げる未来。
あの性格で会長やっているってのも驚きだが、女子校とはやはり男に飢えているのか。
時雨も巻き添えを受けることになった。

時雨

フッ……囮は任せろ天都

天都

お前、聞き分けよすぎだろう……

あっさりと了承する時雨。
どうもこの相棒、天都の事になると本気になるらしかった。
天都の周りには、本当にまともな人間が誰もいない気がするのは気のせいか。

未来

ふふっ、それじゃあね

未来も帰り際、何度も振り返って彼らに手を振りながら闇の中に溶けていった。
残されたメンツは、家の方向が同じだということが分かった。
神無が一番遠いらしいのだが、時雨が送っていくことになった。
自分から名乗り出るとは、本当に紳士である。

天都

じゃあ……帰るか、月子

月子

はい、兄さん
帰りましょう……我が家へ

二人はこれからも共に生きていく。
天都と月子は双子の番鳥。
片方が居なくなることは考えられない。
どんな時でも、どんなことがあっても。
決して離れることはない。
二人は手を繋いで、友達と共に帰路についた。
デスゲームを乗り越えた先にある、日常に帰るために。

人狼ゲーム 番鳥
最終話
ゲームクリア

おしまい

これは……夢……か……

嫌だなぁ、もう……
まだ、こんな夢見るなんて……

わたしだけがこんな目に合うなんて……
理不尽だよ……
不条理だよ……
不平等だよ……

憎いなぁ……恨めしいなぁ……
全てが憎いよ……全てが恨めしいよ……

普通の人が羨ましい
普通の人が妬ましい
全部全部、壊れちゃえばいいのに
全部全部、崩れちゃえばいいのに

あ、そうだ……

いいこと思いついた

だったら、壊せばいいんだよ。

わたしはトリックスター
引っかき回して、好き勝手する役目

今わたしは、ゲームの中にいる
役目通りなにしてもいいんだよね?

ならやってやろうじゃない
友達だろうが、何だろうが……

全部食い殺してあげようっと

ニューゲーム
人狼ゲーム 友食いに続く……

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