美家 王子(びいえ おうじ)

ほら、これが
うちで飼ってる柴犬。
可愛いだろ?

スマホの写真→

責田 好(せめだ こう)

へえー、まだ小犬じゃん。
可愛いな

美家 王子(びいえ おうじ)

これからうちに
見に来ない?

責田 好(せめだ こう)

おう、行……
あ、悪りぃ。
先生のとこ行かなきゃ

美家 王子(びいえ おうじ)

じゃあ用事が終わるまで、
図書室で待ってるよ

責田 好(せめだ こう)

悪いな!
すぐ終わらせるから

美家 王子(びいえ おうじ)

すぅー、すぅー……

美家 王子(びいえ おうじ)

(あっ……。
本読みながら寝ちゃった)

美家 王子(びいえ おうじ)

(遅いなぁ、コウ。
まさか先に帰ってないよな?
探しに行くか……)

お、お前のことが好きなんだ!
俺と付き合ってくれ!

美家 王子(びいえ おうじ)

(うわ、まずい。
本棚の向こうで
男子が告白してる)

美家 王子(びいえ おうじ)

(出て行きづらいなぁ。
告白が終わるまで
ここに隠れてよう)

……ごめん。
キミとは付き合えない

美家 王子(びいえ おうじ)

(えっ!?
告白の返事してるの、
男の声だぞ!?)

そうか……。
やっぱり男同士じゃ駄目だよな。
俺、帰るよ……

美家 王子(びいえ おうじ)

(出て行ったか……。
告白された人も出て行くまで、
ここで待ってよう)

もう終わったよ。
出て来たら?

美家 王子(びいえ おうじ)

(えっ!
俺がいるのバレてた?!)

そ~っ…

美家 王子(びいえ おうじ)

(仕方ない、
顔を出すか……)

やっと出てきた?

美家 王子(びいえ おうじ)

(わあ……。
男の子なのに
綺麗な人だなぁ)

そこで寝てたんだよね?
ここに来たときから
気づいてたよ

美家 王子(びいえ おうじ)

ご、ごめん……。
盗み聞きするつもりじゃ
なかったんだけど

つもりじゃなくても、
結果的に盗み聞きに
なっちゃったわけだ?

美家 王子(びいえ おうじ)

うっ。
だからごめんって……

まあいいや。
キス一回で許してあげるよ

美家 王子(びいえ おうじ)

……えっ?!

それとも、
もっとすごいこと
してくれるの?

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ、えっと!
……そのっ!

ふふっ、ごめんごめん。
あんまり動揺してるから、
ついからかっちゃった

美家 王子(びいえ おうじ)

……はい?

安心してよ。
僕、男に興味ないから。
好きなのは女の子だよ?

美家 王子(びいえ おうじ)

な、なんだ。
ビックリした……

でもさあ。
よく勘違いされて、
さっきみたいに男から
付き合って欲しいって
言われるんだよね

美家 王子(びいえ おうじ)

はは……

美家 王子(びいえ おうじ)

(他人事だと思えない)

男のくせに、
男から告白されるなんて
変だと思ってるよね?

美家 王子(びいえ おうじ)

い、いや、思ってないよ!
むしろ親近感覚えるっていうか

親近感……?
キミも男から
迫られることあるの?

美家 王子(びいえ おうじ)

ああ、うん……。
すごくたまにね……

美家 王子(びいえ おうじ)

(頻繁にあるとは
口が裂けても言えない……)

責田 好(せめだ こう)

王子ー!
待たせたな!

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、コウ。
用事終わった?

責田 好(せめだ こう)

ああ!
じゃあ帰ろ……ん?
その人は?

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、えーと……

喜連 稲仁(きれ いなひと)

僕は喜連 稲仁(きれ いなひと)。
3年B組だよ

美家 王子(びいえ おうじ)

先輩だったんですか!
タメ口きいてすみません

喜連 稲仁(きれ いなひと)

別にいいよ?
……で、キミは何年生?

美家 王子(びいえ おうじ)

俺は2年A組の美家 王子です

喜連 稲仁(きれ いなひと)

名前が王子? へーっ!
確かに王子様みたいな
顔してるもんね?

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、顎を持ち上げないで
ください……っ

責田 好(せめだ こう)

おいアンタ、
ちょっと馴れ馴れしくないか?

美家 王子(びいえ おうじ)

お、おい。
引っ張るなよ

責田 好(せめだ こう)

お前もベタベタ触らせるなよ。
そんなんだから、
すぐ男に襲われるんだろ?

美家 王子(びいえ おうじ)

襲われてなんかないっ!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

うーんと。
もしかしてキミたち、
付き合ってんの?

責田 好(せめだ こう)

へっ?!

美家 王子(びいえ おうじ)

はは……。
男同士で付き合うわけ
ないですよ

喜連 稲仁(きれ いなひと)

なるほど、片思いかぁ。
切ないね……

責田 好(せめだ こう)

ぐぬっ……!
人の気にしてることを!!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

あ、ごめん。
怒らせるつもりは
無かったんだけど……

責田 好(せめだ こう)

片思いなんてのは
わかってるんだよ!
バレンタインチョコだって、
本当は義理だってのも
百も承知なんだよ!!

美家 王子(びいえ おうじ)

ほらほらコウ!
もう帰るぞ!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

なんかまずいこと
言っちゃったかな?

美家 王子(びいえ おうじ)

別にまずくないですよ。
こいつがちょっと
ズレてるんです

責田 好(せめだ こう)

ズレてて悪かったな。
お前が可愛いのが
イケナイんだろ!

美家 王子(びいえ おうじ)

……コウ!

責田 好(せめだ こう)

な、なんだよ

美家 王子(びいえ おうじ)

いい加減にしないと
一人で帰るぞ

責田 好(せめだ こう)

ちぇっ、わかったよ

喜連 稲仁(きれ いなひと)

えーと……コウくん?
気にしてること言って
ごめんね

責田 好(せめだ こう)

……別にいいです

美家 王子(びいえ おうじ)

そ、それじゃあ
喜連先輩、
さようなら!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

うん、バイバイ

喜連 稲仁(きれ いなひと)

(美家 王子くんか……。
あの子も男に迫られて
苦労してそうだったな)

喜連 稲仁(きれ いなひと)

(でも……あの友達の気持ち、
ちょっとわかる気がする。
王子くん、可愛いかったもんな)

喜連 稲仁(きれ いなひと)

(……ん?
何考えてんだ僕は。
王子くんは男だろ)

ガルルルッ!
わんわんわん!

責田 好(せめだ こう)

うわっ、なんだこの犬!
俺の顔見たらいきなり吠えたぞ?

美家 王子(びいえ おうじ)

おかしいなあ。
俺には会ったその日から
なついたんだけど……

美家 王子(びいえ おうじ)

ふわあぁ……

美家 王子(びいえ おうじ)

(眠いなぁ。
深夜までラノベ
読むんじゃなかった。
授業中に寝ちゃいそうだ)

京漆 秋生(きょうしつ あき)

おはようございます、
王子先輩

美家 王子(びいえ おうじ)

あ、秋生くん。
おはよう

京漆 秋生(きょうしつ あき)

最近、空き教室に
来ないですね……。
何かありました?

美家 王子(びいえ おうじ)

ああ、ごめん。
友達と仲直りして、
一緒に帰ること多くなってさ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

罠を仕掛けて、
ケンカさせようかな……

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ?
今、なんて……?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

何も言ってませんよ?

美家 王子(びいえ おうじ)

そうかなぁ。
何か不穏な言葉が
聞こえたけど……

京漆 秋生(きょうしつ あき)

なんて言ったか
聞きたいですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

う、うん

京漆 秋生(きょうしつ あき)

今ここで王子先輩を
抱きしめてキスしたいって
言ったんです

美家 王子(びいえ おうじ)

それは絶対に
言ってない!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

ははっ、
リアクション大きすぎですよ。
可愛いからいいですけど

美家 王子(びいえ おうじ)

またそうやって
撫でるし……

喜連 稲仁(きれ いなひと)

……!

美家 王子(びいえ おうじ)

あっ、喜連先輩

喜連 稲仁(きれ いなひと)

やっぱり王子くんって、
男にモテるんだなあ

美家 王子(びいえ おうじ)

変な言い方しないでくださいよ。
頭撫でられてただけじゃ
ないですかっ

京漆 秋生(きょうしつ あき)

…………

京漆 秋生(きょうしつ あき)

──チュッ

美家 王子(びいえ おうじ)

……んんっ?!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

!?

美家 王子(びいえ おうじ)

な、な、何考えてんだよ!
なんで人が
見てる前で……?!

京漆 秋生(きょうしつ あき)

頭を撫でるだけの
関係じゃないってこと、
わかってもらおうと思って

美家 王子(びいえ おうじ)

わかってもらう
必要ないでしょ?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

あ、ごめんなさい。
キスするのは
二人きりの時じゃないと
嫌なんでしたっけ?

美家 王子(びいえ おうじ)

ご、誤解されるような
言い方するなよ!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

あのー……。
僕、お邪魔かな?

京漆 秋生(きょうしつ あき)

いーえ?
それじゃあ俺、
もう教室に行きますから

美家 王子(びいえ おうじ)

秋生くん……

美家 王子(びいえ おうじ)

…………

喜連 稲仁(きれ いなひと)

行っちゃったね

美家 王子(びいえ おうじ)

いつもはあんな態度
取らないのになぁ

喜連 稲仁(きれ いなひと)

構ってあげないから
すねちゃったんじゃない?

美家 王子(びいえ おうじ)

そうなんですかね。
うーん……

喜連 稲仁(きれ いなひと)

とにかく、
王子くんがよく男子から
迫られるのはわかったよ

美家 王子(びいえ おうじ)

そ、その認識はあまり
嬉しくないです……

喜連 稲仁(きれ いなひと)

どうして?
同じ境遇だから仲良く
なれそうだと思ったんだけど

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ……!
そ、そうですね!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

なんで驚いた顔してんの?

美家 王子(びいえ おうじ)

今までこの悩みを
分かち合える人がいなかったから
なんか新鮮で……

喜連 稲仁(きれ いなひと)

あははっ、そっか。
僕もそうだよ。
これから仲良くしようね?

美家 王子(びいえ おうじ)

はい!

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

綺麗な顔の男の子と、
愛を語らうBL王子……。
なんて百合なんでしょう

美家 王子(びいえ おうじ)

朝から……
っていうか、人の顔見るなり
何言ってんの藤吉さん?

喜連 稲仁(きれ いなひと)

ゆり?
どういう意味?

美家 王子(びいえ おうじ)

百合っていうのは、
女の子同士で恋愛するって
意味なんですけど……

喜連 稲仁(きれ いなひと)

なんで王子くんと僕が
百合なの?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

大分類ですとBLですけど、
小分類だと男の子同士でも
百合と言う場合があるんです!

美家 王子(びいえ おうじ)

言わないよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

言いますよ~。
綺麗な顔をした攻めと、
可愛い受けが絡んでたら、
それは百合なんです!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

あのー。
期待させて悪いけど、
僕は男に興味ないよ?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

は?
何言ってるんですかこの人?
急におかしなことを
言い出したんですけど

美家 王子(びいえ おうじ)

いや普通のことしか
言ってないよね?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

だって……!
BL王子を見ても、
何も思わないだなんて!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

うーん?
男に迫られて大変そうだな、
とは思うよ?

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

そ、それだけですか?
好きにならないんですか?

美家 王子(びいえ おうじ)

藤吉さん。
この人はよく男に告白されて、
すごく困ってるんだよ。
男に興味ないってのは本当だよ?

ぴくっ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

よく男に告白される?
それは本当ですか?

喜連 稲仁(きれ いなひと)

ああ……うん、まあ。
全部断ってるけど

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

お願いします!
今度、その告白現場に
立ち合わせてください!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

立ち合わせて……
と、言われてもなあ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

どうかこの通りです!
男子が男子に求愛されてる
場面を生で見せてください!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

どういう趣味してるんだ。
土下座されても困るよ

美家 王子(びいえ おうじ)

ふ、藤吉さん。
みんな見てるから
土下座はやめようよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

この人がBL現場への同行を
許可してくださるまで、
頭を上げません!!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

ふう、仕方ないな……。
いいよ、許可するよ

美家 王子(びいえ おうじ)

えっ?!
い、いいんですか?

喜連 稲仁(きれ いなひと)

僕について回るだけ
なんでしょ?
どうせすぐに飽きるよ

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

ありがとうございます!
私は藤吉 姫と申します。
よければあなたの
お名前を教えて下さい!

喜連 稲仁(きれ いなひと)

僕は喜連 稲仁だよ。
よろしくね

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

はい。
こちらこそよろしく
お願いします

美家 王子(びいえ おうじ)

(藤吉さん……。
いつもは俺に注目してたのに、
他の人に興味を持つなんて……)

喜連 稲仁(きれ いなひと)

王子くん?
顔色悪いけど、大丈夫?

美家 王子(びいえ おうじ)

大丈夫です

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

本当に顔色悪いですよ?
保健室に行きましょうか?

美家 王子(びいえ おうじ)

いいよ、別に。
じゃあ、もう教室に行くから

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

は、はい。
では、また……

藤吉 姫(ふじよし ひめ)

振り向きもせずに
行っちゃいましたね

喜連 稲仁(きれ いなひと)

(もしかして王子くんのこと、
怒らせちゃったかな?
後でフォローしないと)

第16話 綺麗な人は百合系男子 - 前編

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