（私……
富士吉田　華玖麗には、
誰にも言えない
秘密がある）

ねえねえ。
あたしらこれから渋谷に
行くけど、華玖麗も行く？

渋谷……？
まんだらけ？

はっ？
何言ってんの？

あ、ううん。
渋谷に何しに行くの？

Seventeeenに載ってた
WEEGOの新作買いに行くんだ～

どれどれ？
見せて

前から思ってたけど、
華玖麗って
Seventeeen専属モデルの
桃子ちゃんに似てない？

そ、そうかな？
私こんなに可愛くないよ

絶対似てるって～！
華玖麗は桃子ちゃんみたいに
おしゃれだし！

あはは……。
ありがとう……

華玖麗って漫画とか
アニメとか見なさそうだよね。
そういうの嫌いでしょ？

ど、どうかな？
嫌いってほどでは……

（誰も本当の私を
知らない……）

（本当の私は、
隠れ腐女子だ
っていうことを！！）

（でも、みんなの前では
リア充を通してる私）

（腐女子趣味がバレたら
確実に公開処刑される……。
何としても隠し通さないと！）

あ、ごめん

い……いえっ！
こっちこそボーッとして
すみませんでし……

イケメン→

……た？

（作り込みすぎず、
さりげなく決まった
無造作ヘア！）

（そして、いい感じに
着崩された制服！）

（この人からは……
リア充の匂いしかしない！）

ん？
俺の顔になんか付いてる？

いーえっ！
何も付いてません！

責田くん！
早くＢＬ王子の後を
追いましょうよ！

（へえー、責田くんって
名前なんだ……）

あっ、待てよ！

（今、ＢＬって聞こえた
気がするけど、
それはきっと空耳）

（だって彼は腐女子とは
無縁の存在だから！）

（あれから彼を付け回して
学年が一つ上の先輩であることを
知った……）

（そして責田先輩と
付き合えば腐女子臭が消せると
思った私は、バレンタインに
乗じて告白したのであった）

フッ……。
まさか、こうも
上手く行くなんてね……

なんか言った？

いいえ！
なーんにも！

お待ちなさい！
この泥棒猫！

ふ、藤吉さん……。
初対面の人にいきなり
それはどうかと思うよ

……王子？！

な、なんですか、
あなたは？

あっ……まさか？！
責田先輩の元カノ？

いやいや。
藤吉はそういうのと
違うから

そうです！
元カノはここにいる
ＢＬ王子です！

俺もそういうのと
違うと思うんだけど

ＢＬ王子？？？
そこにいる男子が……
元カノ……？

藤吉がわけわかんねえ
こと言うから、
富士吉田さんが
混乱してんだろ

わけわかんないのは
その女です！
責田くんと別れてください！

ちょ、ちょっと
落ち着こうか、
藤吉さん？

ＢＬ王子もちゃんと自分の
気持ちを伝えてください！

王子の気持ち？

……いや、
こんな所で話しても
コウが困るだけだよ

（彼女がいる前で、
親友に戻りたいとか
話してもな……）

王子……？
手に持ってるそれは、
まさか俺に渡すチョコか？

あっ、これ？
まあコウの分だけど、
藤吉さんが渡せって……

お前の気持ち、わかったよ

……えっ？

本当は俺たち、
両思いだったんだな？
王子はそれを認めるのが
怖かったんだろ？

はい？

王子……！
俺もお前のことが好きだ！

いきなりハグ？！
脈絡が無いにもほどがある！
離せえええ～っ！

ううっ……。
なんて感動的な
光景でしょう

せ、責田先輩……

ごめん、富士吉田さん。
俺、本当はこいつが
好きなんだ……

……ッ？！

ちょっと待てよコウ！
いきなり振るなんて
ひどすぎるだろ！

確かにひどいよなあ。
ああっ……！
俺はどうすればいいんだ？！

どうすればって、
俺とは親友に戻って、
その子と付き合い続ければ
いいんじゃ……

お前と……親友に？

そうだよ、コウ。
俺と仲直りしよう

仲直り……。
仲直り、か……

責田くん、
私からもお願いします。
ＢＬ王子と仲直りしてください

……クソッ！
友達に戻るなんて無理だ！

どうしてそんなこと
言うんだ？

だってお前のこと考えると
やりたくてしょうがなく
なるんだよ！

やりたいって何をだ

そりゃ決まってるだろ。
エッ──

いや。
やっぱり言わなくていい

なんでだよ！
お前が質問したんだろ？
最後まで聞けよッ！！

聞きたくない！！

…………

責田先輩の気持ちは、
よくわかりました。
私、潔く身を引きます

意外に物分かりが
いいですね

だってこんなに
美味しい展開を
邪魔するなんて……

はい？

あっ、いえいえ！
愛し合ってる二人の仲を
裂くことなんて、
私には出来ませんから！

ああっ！
ちょっと待ってよ！！

王子……

キスしようとすんな！
あの娘、彼女なんだろ？
追いかけろよ！

今カノはお前だし

俺がいつ！
お前の今カノになった！

今でしょ！

は、林先生のそれは
ちょっと古いよ？

（腐女子とは無縁だと
思ってた責田先輩が、
まさかＢＬの攻めだったなんて！）

（脱腐女子には
失敗したけど……
彼氏を男に取られるなら本望！）

わが腐女子生涯に
一片の悔いなし!!

はあ……。
今日は色々ありすぎて
疲れた……

責田くんと仲直りできて
良かったですね！

う、うん、そうだね。
チョコを全部配って、
無事にノルマも達成したし

あっ、そうだ。
渡したい物が有るので、
うちまで来てくれませんか？

うん、いいけど

（渡したい物って、
どうせまたＢＬ漫画とか
ＢＬ小説だろ……）

ここが藤吉さんの家？
すごく大きいね……！

そうですか？
そんなのどうでもいいから
早く入りましょうよ

（もしかして藤吉さんって、
お金持ちのお嬢様なのかな？）

渡したい物って……
これ？！

はいっ。ＢＬ王子への
日頃の感謝の気持ちを込めた
バレンタインチョコレートです！

嬉しいけど……。
すごい大きさだね。
これ、何kgあるの？

5kgですよ。
ちなみにスマホと大きさを
比較するとこんな感じです

デ、デカイ……

そして乾電池と
厚さを比較すると
こんな感じです！

ぶ、分厚い……

ところでさっきから
チョコの上に置いてある
ハンマーは何なの？

これですか？
チョコレートを砕くための
ハンマーですよ

チョコを……砕く？

かじりつくつもり
でしたか？
ＢＬ王子がそうしたいなら、
それでもいいですけど……

こんな上半身スッポリ
隠すようなチョコ、
このまま食べないよ！

ですよね？
じゃあ、ビニール包装を
剥がして……

行きますよ！
ハアッ！

ちょ！
いきなりハンマー
振り回さないでよ！

ハアッ！

ふ、藤吉さん？
ハンマー振り回したら
危ないって！

ハアア……ッ！

藤吉さん……。
ちょっと怖いよ……

はあっ！！

（駄目だ。
すでに藤吉さんの耳には
俺の声が届いていない）

やぁっ！

（チョコの破片が
飛び散ってる……。
壮絶な光景だ……）

とうっ！

えいこのっ！

ハアハア……。
ふう～っ……

も、もういいよ。
これくらい細かくなったら
十分だよ

そうですね。
あーっ、スッキリした！

（藤吉さん……。
能天気に見えるけど、
実は結構なストレスが
溜まってたんだな……）

それじゃあＢＬ王子、
食べましょうか？

あ、ああ……うん

美味しい～♪

そうだね。
結構美味しいよ、これ

お口に合ったみたいで
良かったです。
どんどん食べてくださいね

（よく考えたら、
バレンタインに女の子から
チョコもらうのって
初めてだな）

（しかも、藤吉さんから
もらえるなんて）

……ありがとう、
藤吉さん

ふふっ。
どういたしまして