なんにしても書いてみるか。
小説書くぞ! と美由に宣言してから二週間後。
いつもより格段に早く仕事を終えて午後七時過ぎに家に帰ってきた俺は、ひとまずデスク替わりの四角形ちゃぶ台の前にあぐらをかいた。
ちゃぶ台の上には新品のデスクトップパソコンが置かれている。
美由はバイトで家にはいなかったが、掛け持ちの日ではないはずなので、一時間もしないうちに帰ってくるだろう。
一人で集中できる貴重な時間と捉え、俺は早速小説のネタを考えてみることにした。
しかしブランクがあるせいなのか、最近小説を読まなくなったせいか、全然ストーリーが浮かんでこない。
購入したてのパソコンを前に腕を組み、目を閉じて唸ってはみるものの、俺の脳みそはだんまりを決め込んでいた。
なにかいいネタが掘り起こされないものかと、ちゃぶ台の古傷を指でカリカリしていると、いつの間にかその行為に没頭している自分にハッとなる。
なんということだ。
せっかく仕事を早くあがれたというのに、貴重な時間が流しそうめんのようにツルツルと流れていく。
そうだ、こんな時は散歩だ散歩。
歩きながらだと考えがまとまったり、いいアイデアが出てきたりするもんだ。
俺は軽くヨレたTシャツにトレパンというなんともだらしない格好のまま外へ出て、夜の静かな住宅街を歩き出した。