-花言葉を抱きしめて-

皆さん、こんにちは!

名古屋からやってきました、大庭美波です。



高校のときは「みなみん」って呼ばれていました。



もし、宜しければそう呼んで下さいね。



最近のマイブームはコンビニにあるデザートを食べ比べすることです。



冬のいちごフェア、終わってしまって残念なんですけどね。



趣味とか誕生日とか、知りたい人がいればあとでお話しましょう!



はい、私の自己紹介はこれで終わりです。

どうぞ、よろしくお願いしますね!

……とまあ、こんな感じで大学生活が始まった訳だ。



それが昨日の話。

じゃ、また月曜ね~

うん、またね!

オリエンテーションで意気投合した友達は、遠恋中だとかで朝の健康診断が終わったら、地元まで帰ってしまった。



他人事ながら、やっぱり遠距離だと厳しいんじゃないかな、とは思う。



現実の距離が心の距離まで支配してしまう、その残酷さ。



彼女もそれを知っているから、大学生活2日目だというのに戻ってしまったのだろう。



まあ、明後日の講義登録の説明会には顔を出すって言ってたけど。



私とは言えば、もう高校卒業までに蹴りは着いた、というか、地元に戻ってもあいつは別の彼女がいる訳で、私の出る幕はない。



私は私、こっちで新しい人を見つけようと思っている。



……で、その最有力候補が下宿先に引っ越ししてきてから入学式までの暇な間、近所をブラブラしてて発見した花屋さん。



そこで働いているお兄さん……とうか、おじさんがちょっと気になってる。




今日はいるかな……っと。



あ、いたいた。

こんにちはっー!

あ、いらっしゃい

たぶん、歳は40歳前半くらいだと思うんだけど、この照れたような微笑が好印象だよね。



少し歳とって人生を知ってしまって疲れたけど、その分、優しさの意味を知っている、みたいな。



この人に会うためにここに来るのは、ひい、ふう、みい……4回目だ。



……っていうか、ほぼ毎日来てる?



今までは普通に花を買って、ほんの少し当たり障りのないトークをしてただけだったけど、ちょっと頑張ってみよう。

よく来てくださいますね

近くにお住まいですか?


と、いきなりチャンス到来。

は、はい!

そこの角を曲がって20メートルくらい進んだところにタバコ屋さんありますよね?

うん、あるね

で、そこを左に折れてしばらく行ったところに郵便局があって、その前の歩道橋を渡って真っ直ぐ進んで、3つ目の角を右に曲がってすぐにあるアパートに住んでます

……って、言うほど近くないじゃん

へー、もしかして『暁荘』っていうところじゃない?

そうです!

あそこはね、昔、僕も住んでいたんだ

最近、立て直して随分、綺麗になったよね

今ではアパートというよりはマンションみたいになってるけど……

そうなんだ

ちなみに203号室に住んでたんだよ

うそー!? 私も同じ203号室なんですけど!

奇遇だね

まあ、建て直したから部屋の造りとかは全然、違うだろうけど……

意外や意外、こんな展開があるなんて、話してみるもんだ。



もしかして、赤い糸で結ばれているのかも……なんて、先走りすぎだってば。

お兄さんはもしかして店長さん、なんですか?

うーん、店長は家内のお父さんだからね

えっ……

家内って……奥さんのことだよね。

そりゃあ、結婚してておかしくはないけど……。

そういえば、君の年頃くらいかな?

大学生になり立ての頃、この花屋の前を通りかかって初めて家内を見たとき、一目ぼれしちゃってね

それからまあ、色々あって結婚した訳だよ

へー、それはすごいですね

細めた目で私の知らない遠い昔を思い出してるお兄さんに、そう答えていた。

いきなり失恋……か。

あなた~

花の配達お願いできる?

ああ、ちょっと待って

店の奥から出てきた人が奥さんらしかった。

歳は……とっても若いっぽいけど、私よりは年上なんだろうな。

どうします? 何か買われますか?

あ、えと、その……

花言葉で『失恋』っていう意味の花、ください

え……

お兄さんは明らかに困った様子だ。



私はさらに意地が悪くなって、もっと困らせたいと思った。

失恋したんです

でも、奥さんのいる人だから、私は諦めるしかなくて……

そう……それは苦しいね

月並みかもしれないけど、これから先、きっと良い人に出会えるよ

そう……だと良いんですけど

声が温かくて優し過ぎて、不覚にも涙が出そうになった。



昔から変わらない、感情が高ぶるとすぐに泣いてしまうこのクセ。



心無い人には「涙を武器にする嫌な女」だとか言われたこともあったけど、別に泣きたくて泣いている訳じゃない。



でも、今の私、やっぱり嫌な奴だ……お兄さんを困らせようとして……。



あ、やばい、我慢しようと思えば思うほど、胸に込み上げて来る。

……っ!


アウト、でした。

大丈夫

ひぇ!

いきなりお兄さんは私を抱き寄せた。



……っていうか、ここは天下の公道。



しかも奥さんが見てる、かも。

お、奥さんが見てますよ

家内はそんなに心の狭い女じゃないよ

……

敵わないな、と思うと涙も自然に引っ込んだ。



さよなら……ものすごく短かった恋心。



最初で最後に抱きしめてもらえて、なんか少女マンガ的な展開だけど嬉しかった。



……それに結構、お兄さんは浮気者なのかも、なんて。

もう……大丈夫です

そう、良かった

照れたような微笑み。



また、この微笑みを見たいから、また違う人を好きになれたら、絶対に花を買いに来よう。



それまではこの笑顔はお預け。

あの、お願いがあるんですけど聞いてもらえますか?

うん? なんだい

『新しい恋』という花言葉のお花をください!

……

ああ、いいよ!

お兄さんは大きく頷くと、咲き誇るたくさんの花へとその手を伸ばした。



そして、持って来てくれたのは……ハイビスカスの花。



お勘定をし、花を受け取る。

どうか、いい恋をしてね

はいっ! ありがとうございます!

花を……花言葉を抱きしめて、私は走り出す。


さあ、新しい恋に出会いに行こう!

-FIN.-

「花言葉を抱きしめて」

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