何か、酷い夢を見ていたようだ。

目の前に、ブラを丸出しにした知らない少女が、俺達の教室に立っていたのだから…。

さて、そろそろ目を覚まそう。

早く起きないと、学校に遅れるしね。

大野信一

・・・

羽島桜

・・・

あれ? まだ夢の中なのかな?

もう一度、目を開けて確かめよう。

大野信一

・・・

羽島桜

・・・

うん、そうだよね。

やっぱり、いるよね。

てか、さっき叩かれた頬っぺたが、まだ痛いし。

羽島桜

あの~

少女は俺を見下ろし、恥ずかしいのか、顔を赤らめながらこう言った。

羽島桜

私の膝から退いてもらっても、いいですか?

俺は今まで、全然気づかなかった。

少女の膝の上に、頭を乗っけていたことを。

大野信一

・・・

少しの沈黙で、全てを理解した。

大野信一

うわ!! ごめん!!

高校生の欲望ベスト10に入る行為を意識が飛んでいる間、してもらっていたとわ!… もったいない!

ワンガリー・マータイもビックリだよ!

羽島桜

あの…さっきは急に叩いたりして、ごめんなさい

大野信一

別にいいよ。ブラを見ちゃった俺にも責任はあるから

羽島桜

いいえ、私が勝手に脱いで、勝手に見られたのに、何も悪くない貴方を叩いた私が、一方的に悪い訳で…

大野信一

いや、中を確かめないで入った俺が悪かったよ。本当にごめん

羽島桜

そこまで言うなら…

大野信一

あと、こんなに可愛い子に教室で膝枕してもらえて、それだけで叩かれた事に後悔はないからね

羽島桜

・・・

…あれ? 俺、なんか不味い事言ったかな?

大野信一

そ、そう言えばさ!!

俺は無理矢理、話を反らしてみた。

大野信一

何で、こんな所でブラを丸出しにしてたの? 女子専用の更衣室ならちゃんとあるのに

羽島桜

だ、誰も来ないと思ったので…な、なんとなくです!!

あれ? さっきより怒ってる?

大野信一

そ、そーなんだ! あれ? じゃあ、君が転校生?

羽島桜

そ、そうですが? あ、もう時間なんで、お先に失礼します。

そう言い残して、少女は教室を後にした。

まだ、名前もブラを丸出しにしていた理由も聞いてないのに…。

まあ、後者の方は、大体想像はつくけどね。

さっき、少女は体操服やジャージを持っていた。

恐らくは、服の採寸でもしていたのだろう。

でも、それすら教えてもらえなかった。

やっぱり、さっきの発言に怒ってるらしい。

なんでだ??

少女が出ていった10分後ぐらいに、一番最初のクラスメイトが登校してきたのだが、それまでに、超特急で仕事を終わらせた。

花形海松良

信一、おはよう

大野信一

おう、日花チェク係の花方海松良(はながたみるよ)くん

花形海松良

仕事はちゃんとしたかな?

大野信一

もちろんだとも。しっかり、水をあげたぜ?

花形海松良

どれどれ…

花方くんは花の隅々まで、舐め回すようにして、仕事のチェックを行った。

花形海松良

うん、オッケイだね

大野信一

だろ?

花形海松良

次回もよろしく頼むね

大野信一

おうよ! お前は毎朝大変だな

花形海松良

仕事だからね。しっかりやらないと

流石は花方くん。

女の子からモテモテの理由がよくわかるよ。

だって、俺でも惚れそうだもん。

花形海松良

はい、これは今日やってくれたご褒美

花方くんの手の上には、キャラメルがあり、それを遠慮なく頂いた。

大野信一

ありがとな。花方くん

花形海松良

いいよ。こんなに早く来て、仕事をしてくれたんだもんね

はい、俺完全に惚れました。

嗚呼。花方くんが女の子なら…。

それから、花方くんと色々な話をして、時間を潰した。

伊村延彦

オッス! 信一。今日は早いな

大野信一

日花で早く来たんだよ

伊村延彦

あ、俺もそろそろか…何時起きだよ…

延彦、ドンマイ。

チャイムが鳴ったと同時に、教室のドアが開かれた。

美濃麻実

みんな、席につけ

毎度お馴染み、クラスのスイートエンジェルが教室に入ってきた。

美濃麻実

よし、それじゃ! みんなに報告があります

転校生の事だよな…。

伊村延彦

麻美たん結婚すんの!?

いきなり訳のわからない勘違いをしたのは、我がクラスの誇るクソメガネ、伊村延彦だった。

転校生が今日来るって言ったの、お前だろ?

美濃麻実

お! よくわかったな!

「「「「えーー!!」」」」

クラス全員が驚いた。

マジかよ…。

委員長寿

麻美たんに手を出す男は、俺が殺す

こちらもクソメガネ、委員長寿くんが殺害予告を言い出した。

美濃麻実

冗談だ。一旦落ち着け

なんだよ。やっぱり嘘か。

てか、麻実たんの天使スマイルまじで可愛いな。

美濃麻実

それじゃ、入れ

麻実たんの合図で、ドアが開き、予想していた人物が、堂々と我がクラスに足を踏み入れた。

美濃麻実

今日から我がクラスに転入する事になった…

羽島桜

羽島桜(はしまさくら)です。よろしくお願いします

美濃麻実

彼女は帰国子女で、訳あって日本に帰って来ることになったため、少し時期がズレたが、うちの学校が彼女の転入を引き受けた。みんな、仲良くしてやってくれ

へー、帰国子女だったんだ。

羽島桜

・・・

彼女と一瞬目が合ったが、顔を反らされてしまった。萎えるわ。

帰国子女か~

付き合いて~

付き合ったら自慢できるしな

羽島桜

・・・

クラスの男達の会話を聞いて、少し顔を曇らせたのが、俺にはわかった。

そう言う事か。

どうして、俺に怒っていたのか、わかったよ。

先生、羽島さんに学校を案内してあげる予定はありますか?

一人の女子が、そう提案した。

美濃麻実

そうだな。彼女に学校を案内してくれる人はいるか?

「「「「はい!!!」」」」

クラス全員が一斉に手を挙げた。

美濃麻実

それは困ったな…よし、日花の奴、手を挙げろ

大野信一

はい

美濃麻実

お前でいいや。昼休みにでも、案内してやれ

大野信一

はーい

羽島桜

・・・

よし、また話すチャンスきた!

だが…彼女の顔は何だか、こっちを睨んでるようにも思えた。

てか、クラス全員が俺を睨んでるよね!

あー、やっぱりやりたくない…。

そして、昼休み…。

大野信一

ここが食堂で、その前にあるのが売店で…

なんとか、来てもらったけど…やっぱり、俺には耐えられない!

羽島さんからの視線もそうだが…。

横を歩く人の目が俺を睨んでる様にしか思えない。

あの子か、帰国子女って

へー、まあまあ可愛いじゃん

てか、隣にいる奴とのギャップ(笑)

おい! 俺の事をバカにしたのは誰だ! 表に出ろ!

羽島桜

・・・

ん~、また、恐い雰囲気漂わせてるよ~。

羽島桜

私、クラスに帰ります

大野信一

え、でもまだ案内が…

羽島桜

結構です。そのうち覚えますし

だめだ。ここで帰したら、もう二度と話す機会が作れない気がする。

俺が謝るまで、帰してたまるか!!

大野信一

最後にもう一ヶ所だけ行こう!

羽島桜

え? ちょっと!

俺は強引に、羽島さんの手を引いて案内を続けた。

なんだか誘拐してる気分。

そして、連れてきたのは校舎裏。

羽島桜

なんですか、ここに何かあるんですか?

大野信一

いや、特に何もないけど…

羽島桜

じゃあ、告白ですか?
ごめんなさい。今は付き合う気になれません

ガーン。告白してもないのにフラれたよ。

人生初の失恋。

こんな日には、家に帰って、さだまさしでも聞くか。

…って、全然ちげー!

クソ! 完全にあっちのペースだ。

もう、強引に言ってやる!

羽島桜

用がないなら帰りま…

大野信一

ごめんなさーーい

ふっ! 言ってやったぜ!

プライドもクソもあったもんじゃない。

羽島桜

なんで…謝るん…ですか…

大野信一

何も考えず、可愛いとか言って、本当にごめん

そうだ。

彼女は可愛いとか言われたくないんだ。

理由はわからないけど、嫌な事を言って、謝るのは当たり前だよな。

羽島桜

私はそんな事を…

大野信一

いや、いいんだ。無理に気を使わなくて…

羽島桜

そんな事を怒ってるんじゃないんです!!

一瞬、俺の思考が停止した。

え? そんな事を怒っていない?

…わけがわからない。

羽島桜

私は…帰国子女というだけで、みんなに好かれるのが嫌なんです!!

大野信一

え? じゃあ、可愛いとか言われて俺に怒ったのは?

羽島桜

怒ってません! 可愛いって言われて、怒る人なんていませんよ!

大野信一

そうなんだ~。安心した~

どうやら、俺の勘違いだったようです。

いや~、よかった。

羽島さんは、何かを言いたそうに体をモジモジさせている。

急にどうしたんだ?

羽島桜

あ、あの…よかったら…アドレ…

早川実

信一! 昨日、ハンカチ落としていったでしょ?

大野信一

あー! 昨日、ずっと家中探してたんだよ。
ありがとう

俺と羽島さんの間に、割り込むような形で、昨日はあれほど痛い思いをさせてくれた実が、ハンカチを届けてくれた。

早川実

ハ、ハンカチなんて洗って無いんだからね!!

大野信一

おい、俺はまだ何も言ってないぞ

てか、凄く綺麗になってるし、アイロンもかけてあ…

大野信一

痛って~~~~

なんで‥腹パン‥されなきゃ‥いけないんだよ…。

早川実

何もやって無いんだからー!!

そのまま、走って校舎の方に行ってしまった。

てか、俺に腹パンした時点で、何もやってないは無しでしょ。

その前に…なんで俺の居場所がわかったんだよ。

あと、随分とタイミング悪く乱入してきたな。

図ったとしか思えないよ。

大野信一

で、さっき何て言ったの?

俺は羽島さんに話を戻した。

羽島桜

う~

大野信一

あれ?どうしたの…

羽島桜

もー知りません!!

そのまま、走って校舎の方に行ってしまった。

なんなだよ…。

俺は、女心の難しさを改めて実感した。

~放課後~

大野信一

ふぁ~、よか寝た~

起きた頃には、教室には誰もいなかった。

大野信一

俺もそろそろ帰るか

椅子を立ち上がった時だった。

一枚の紙が、ゆっくりと地面に落ちていくのが、目に入った。

その紙を拾い上げると、文字が書かれていた。

「今日のお礼のつもりで、受け取って下さい」

その文の横にメールアドレスが記されていた。

俺には、これが誰の物なのか、一発でわかった。

大野信一

羽島さんからか‥

よっしゃー!!

羽島さんのメアド、ゲットだぜ!!

静かな教室を飛び出し、ダッシュで家に帰った。

第3話 女心がとてもとても、面倒くさい件

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