何か、酷い夢を見ていたようだ。
何か、酷い夢を見ていたようだ。
目の前に、ブラを丸出しにした知らない少女が、俺達の教室に立っていたのだから…。
さて、そろそろ目を覚まそう。
早く起きないと、学校に遅れるしね。
・・・
・・・
あれ? まだ夢の中なのかな?
もう一度、目を開けて確かめよう。
・・・
・・・
うん、そうだよね。
やっぱり、いるよね。
てか、さっき叩かれた頬っぺたが、まだ痛いし。
あの~
少女は俺を見下ろし、恥ずかしいのか、顔を赤らめながらこう言った。
私の膝から退いてもらっても、いいですか?
俺は今まで、全然気づかなかった。
少女の膝の上に、頭を乗っけていたことを。
・・・
少しの沈黙で、全てを理解した。
うわ!! ごめん!!
高校生の欲望ベスト10に入る行為を意識が飛んでいる間、してもらっていたとわ!… もったいない!
ワンガリー・マータイもビックリだよ!
あの…さっきは急に叩いたりして、ごめんなさい
別にいいよ。ブラを見ちゃった俺にも責任はあるから
いいえ、私が勝手に脱いで、勝手に見られたのに、何も悪くない貴方を叩いた私が、一方的に悪い訳で…
いや、中を確かめないで入った俺が悪かったよ。本当にごめん
そこまで言うなら…
あと、こんなに可愛い子に教室で膝枕してもらえて、それだけで叩かれた事に後悔はないからね
・・・
…あれ? 俺、なんか不味い事言ったかな?
そ、そう言えばさ!!
俺は無理矢理、話を反らしてみた。
何で、こんな所でブラを丸出しにしてたの? 女子専用の更衣室ならちゃんとあるのに
だ、誰も来ないと思ったので…な、なんとなくです!!
あれ? さっきより怒ってる?
そ、そーなんだ! あれ? じゃあ、君が転校生?
そ、そうですが? あ、もう時間なんで、お先に失礼します。
そう言い残して、少女は教室を後にした。
まだ、名前もブラを丸出しにしていた理由も聞いてないのに…。
まあ、後者の方は、大体想像はつくけどね。
さっき、少女は体操服やジャージを持っていた。
恐らくは、服の採寸でもしていたのだろう。
でも、それすら教えてもらえなかった。
やっぱり、さっきの発言に怒ってるらしい。
なんでだ??
少女が出ていった10分後ぐらいに、一番最初のクラスメイトが登校してきたのだが、それまでに、超特急で仕事を終わらせた。
信一、おはよう
おう、日花チェク係の花方海松良(はながたみるよ)くん
仕事はちゃんとしたかな?
もちろんだとも。しっかり、水をあげたぜ?
どれどれ…
花方くんは花の隅々まで、舐め回すようにして、仕事のチェックを行った。
うん、オッケイだね
だろ?
次回もよろしく頼むね
おうよ! お前は毎朝大変だな
仕事だからね。しっかりやらないと
流石は花方くん。
女の子からモテモテの理由がよくわかるよ。
だって、俺でも惚れそうだもん。
はい、これは今日やってくれたご褒美
花方くんの手の上には、キャラメルがあり、それを遠慮なく頂いた。
ありがとな。花方くん
いいよ。こんなに早く来て、仕事をしてくれたんだもんね
はい、俺完全に惚れました。
嗚呼。花方くんが女の子なら…。
それから、花方くんと色々な話をして、時間を潰した。
オッス! 信一。今日は早いな
日花で早く来たんだよ
あ、俺もそろそろか…何時起きだよ…
延彦、ドンマイ。
チャイムが鳴ったと同時に、教室のドアが開かれた。
みんな、席につけ
毎度お馴染み、クラスのスイートエンジェルが教室に入ってきた。
よし、それじゃ! みんなに報告があります
転校生の事だよな…。
麻美たん結婚すんの!?
いきなり訳のわからない勘違いをしたのは、我がクラスの誇るクソメガネ、伊村延彦だった。
転校生が今日来るって言ったの、お前だろ?
お! よくわかったな!
「「「「えーー!!」」」」
クラス全員が驚いた。
マジかよ…。
麻美たんに手を出す男は、俺が殺す
こちらもクソメガネ、委員長寿くんが殺害予告を言い出した。
冗談だ。一旦落ち着け
なんだよ。やっぱり嘘か。
てか、麻実たんの天使スマイルまじで可愛いな。
それじゃ、入れ
麻実たんの合図で、ドアが開き、予想していた人物が、堂々と我がクラスに足を踏み入れた。
今日から我がクラスに転入する事になった…
羽島桜(はしまさくら)です。よろしくお願いします
彼女は帰国子女で、訳あって日本に帰って来ることになったため、少し時期がズレたが、うちの学校が彼女の転入を引き受けた。みんな、仲良くしてやってくれ
へー、帰国子女だったんだ。
・・・
彼女と一瞬目が合ったが、顔を反らされてしまった。萎えるわ。
帰国子女か~
付き合いて~
付き合ったら自慢できるしな
・・・
クラスの男達の会話を聞いて、少し顔を曇らせたのが、俺にはわかった。
そう言う事か。
どうして、俺に怒っていたのか、わかったよ。
先生、羽島さんに学校を案内してあげる予定はありますか?
一人の女子が、そう提案した。
そうだな。彼女に学校を案内してくれる人はいるか?
「「「「はい!!!」」」」
クラス全員が一斉に手を挙げた。
それは困ったな…よし、日花の奴、手を挙げろ
はい
お前でいいや。昼休みにでも、案内してやれ
はーい
・・・
よし、また話すチャンスきた!
だが…彼女の顔は何だか、こっちを睨んでるようにも思えた。
てか、クラス全員が俺を睨んでるよね!
あー、やっぱりやりたくない…。
そして、昼休み…。
ここが食堂で、その前にあるのが売店で…
なんとか、来てもらったけど…やっぱり、俺には耐えられない!
羽島さんからの視線もそうだが…。
横を歩く人の目が俺を睨んでる様にしか思えない。
あの子か、帰国子女って
へー、まあまあ可愛いじゃん
てか、隣にいる奴とのギャップ(笑)
おい! 俺の事をバカにしたのは誰だ! 表に出ろ!
・・・
ん~、また、恐い雰囲気漂わせてるよ~。
私、クラスに帰ります
え、でもまだ案内が…
結構です。そのうち覚えますし
だめだ。ここで帰したら、もう二度と話す機会が作れない気がする。
俺が謝るまで、帰してたまるか!!
最後にもう一ヶ所だけ行こう!
え? ちょっと!
俺は強引に、羽島さんの手を引いて案内を続けた。
なんだか誘拐してる気分。
そして、連れてきたのは校舎裏。
なんですか、ここに何かあるんですか?
いや、特に何もないけど…
じゃあ、告白ですか?
ごめんなさい。今は付き合う気になれません
ガーン。告白してもないのにフラれたよ。
人生初の失恋。
こんな日には、家に帰って、さだまさしでも聞くか。
…って、全然ちげー!
クソ! 完全にあっちのペースだ。
もう、強引に言ってやる!
用がないなら帰りま…
ごめんなさーーい
ふっ! 言ってやったぜ!
プライドもクソもあったもんじゃない。
なんで…謝るん…ですか…
何も考えず、可愛いとか言って、本当にごめん
そうだ。
彼女は可愛いとか言われたくないんだ。
理由はわからないけど、嫌な事を言って、謝るのは当たり前だよな。
私はそんな事を…
いや、いいんだ。無理に気を使わなくて…
そんな事を怒ってるんじゃないんです!!
一瞬、俺の思考が停止した。
え? そんな事を怒っていない?
…わけがわからない。
私は…帰国子女というだけで、みんなに好かれるのが嫌なんです!!
え? じゃあ、可愛いとか言われて俺に怒ったのは?
怒ってません! 可愛いって言われて、怒る人なんていませんよ!
そうなんだ~。安心した~
どうやら、俺の勘違いだったようです。
いや~、よかった。
羽島さんは、何かを言いたそうに体をモジモジさせている。
急にどうしたんだ?
あ、あの…よかったら…アドレ…
信一! 昨日、ハンカチ落としていったでしょ?
あー! 昨日、ずっと家中探してたんだよ。
ありがとう
俺と羽島さんの間に、割り込むような形で、昨日はあれほど痛い思いをさせてくれた実が、ハンカチを届けてくれた。
ハ、ハンカチなんて洗って無いんだからね!!
おい、俺はまだ何も言ってないぞ
てか、凄く綺麗になってるし、アイロンもかけてあ…
痛って~~~~
なんで‥腹パン‥されなきゃ‥いけないんだよ…。
何もやって無いんだからー!!
そのまま、走って校舎の方に行ってしまった。
てか、俺に腹パンした時点で、何もやってないは無しでしょ。
その前に…なんで俺の居場所がわかったんだよ。
あと、随分とタイミング悪く乱入してきたな。
図ったとしか思えないよ。
で、さっき何て言ったの?
俺は羽島さんに話を戻した。
う~
あれ?どうしたの…
もー知りません!!
そのまま、走って校舎の方に行ってしまった。
なんなだよ…。
俺は、女心の難しさを改めて実感した。
~放課後~
ふぁ~、よか寝た~
起きた頃には、教室には誰もいなかった。
俺もそろそろ帰るか
椅子を立ち上がった時だった。
一枚の紙が、ゆっくりと地面に落ちていくのが、目に入った。
その紙を拾い上げると、文字が書かれていた。
「今日のお礼のつもりで、受け取って下さい」
その文の横にメールアドレスが記されていた。
俺には、これが誰の物なのか、一発でわかった。
羽島さんからか‥
よっしゃー!!
羽島さんのメアド、ゲットだぜ!!
静かな教室を飛び出し、ダッシュで家に帰った。